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脳みその妖精

 私たちは幸せです。


 暖かな春。穏やかな風。せせらぐ小川。

 花畑の真ん中で、昼寝から目覚める。ふわあとあくびをして、体を伸ばす。それがとても心地よい。

『はあ~お腹すいちゃった』

 昼食は何にしようか? 蜜がかかったパンケーキにしようか。軽めにフルーツで済ませようか。それともパンとスープにでもしようかな?

『あ、こんなとこにいた!』

『ねえねえ、いっしょにお昼ごはんたべようよ!』

 友達たちがやってきた。きゃあきゃあと他愛ない話をしたあとに、私の家に入る。丘の上にある、白くてかわいいお家。

『お昼は何にする?』

『パンケーキにしましょうよ!』

『フルーツをたっぷり乗せて!』

 そうしよう。そうしよう。お昼ごはんはパンケーキにしよう。白くて大きいお皿とカップをみんなの分、テーブルに乗せる。

『お昼ごはんを食べましょう!』

『フルーツをたっぷり乗せて! 温かい紅茶もいっしょに!』

 ぽん、と皿の上にパンケーキが現れた。ふわっふわで、温かくて、つややかな果物と蜜がたくさん乗っている、とっても素敵なパンケーキ!

『いっただっきまーす!』

 みんなで食事の前の挨拶をする。

 ああ、私たちはとっても幸せ!


*****


 私には霊感がある。だから、お化けや妖精さんともお友達だ。

「こんにちは、脳みその妖精さん」

『こんにちは、ヒトのお嬢さん』

 とある空き家のお屋敷に、脳みその妖精さんはたった一人で住んでいる。

 お屋敷の中に入ると、そこは脳。

 柱にも、壁にも、天井にも。床以外全ての面に、ピンポン玉くらいの脳みそが貼り付けられていた。それらから白い糸のようなものが出て、廊下の奥に続いている。

『いかがですかな?』

「妖精さんの脳みそも、人と同じ色なんだね」

『ほほう、それは初耳ですな』

 数百、いや数千の妖精さんの脳みその群れ。

「あなたが全部取り出したんだよね?」

『左様でございます。それらは全て、幸せのため』

 脳みその妖精さんの同族は、かつては争いが多かったという。戦争がない時期でも、仲の良いフリをして他人の足を引っ張ることが日常茶飯事だったそうだ。

 だから、心を痛めた脳みその妖精さんは、同族全ての妖精さんの脳みそを取り出した。そして、お屋敷に作った魔方陣に繋げて、永遠に幸せな夢を見せているのだ。

『かつては私を危険な者と認識して襲いかかってくる者も多かったです。

 しかし考えてみてください。物語では強制的に幸せな夢を見せられるのは不幸と言われますが、実際に幸せにできる数はこちらのほうが多いのです。自由意志にまかせたら確実に不幸になる者も現れる。

 それは私には我慢できません。だから、こうして全てを脳だけにし、魔法と繋げて幸福な夢に居続けていただいたので』

「努力したんだね」

『いえいえそれほどでも。全ては同胞の幸せのため。

 見てください。こちらの小さい脳は妹エリーナのもの。読書が大好きで、図書館で過ごすことを至上の幸せとしていました。

 こちらは三軒隣のグラードのもの。私とは正反対の力自慢です。彼ほど頼りになる木こりはおりません。

 これは学者のフリラのものですな。残念ながら彼のことは私はよく知りません。知っているのは恐ろしい顔をして、“これ“を為そうとした私を殺そうとしたことぐらいですな』

「誰の脳なのか分かるんだね」

『ええ、同胞ですので。

 でも私の夢は同胞だけを救うに留まりません。もちろんヒトも、猫も、虫も、他種族の妖精も、全て全てお救いするのが私の夢なのです。

 無論、貴女も』

 うやうやしく礼をする。想定の範囲内の言葉。特に驚きはない。

『だというのに、ヒトはあまりにも大きく毒に強い。捕らえて、毒で仮死状態にし、脳を取り出し魔法に繋げるという過程を踏むには、今の私では力不足です。

 ああ、なんて申し訳ない……』

「気にしなくていいよ。こういう結末は、私の趣味じゃないし」

『いえいえ、必ずお救いしますとも』


「お邪魔しました」

『また訪れてください。おいしいお茶の葉を用意しておきましょう』

 脳屋敷をあとにする。ひとりぼっちで現実を夢で塗り替えている妖精さんの声が、小さく、はっきりと聞こえてきた。

『必ず、ヒトの世にも永遠の幸せを。

 必ず貴女もお救いしますとも』

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