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雲の巨人

 空に雲がかかる日は、雲の巨人さんが現れますの。


 ええ、ええ。私たちは花の妖精です。大地に咲く花から生まれ、花の蜜で育ち、花びらを雨よけにして慎ましく暮らしているのです。

 だから、空の上は地上に暮らす私たちにとって未知の世界。雲の巨人さんが現れても、ただ上を見上げるだけなのです。

 雲の巨人さんは、とてもとても大きいのです。山よりも高く、雲よりも高く。首から上がいつも雲にかかっていて、どんなお顔なのか見たことはありません。雲一つない青空の日には雲の巨人さんは現れません。

 ……いったいどんなお顔をしているのでしょうか?


『ねえ、ねえ、雲の巨人さんのお顔を見てみましょうよ』

『まあ、まあ、それはいけないことではないかしら! 雲の巨人さんには近づいてはいけないと昔から言われているじゃない!』

『ふふふ、でもなんで近づいてはいけないか、みんな知りはしないわ。誰もやったことがないからね。理由を説明できない程度のことならやってみましょうよ』

『そうね! どうやって? 雲の上なんて高いところには行けないわ!』

『ふふふ、それが、あるの! 飛行機よ!』

『ヒコウキ?』

『ヒトが作った乗り物よ! なんと、雲の上よりも高く飛ぶことができるそうよ!』

『まあ、まあ、なんてステキなの!』

 私たちはヒコウキに乗って空へと旅だった。そして空の上に到達したところで、すっ、と外へ出る。

『まあまあ、これが雲の上なのね!』

『すごい! すごい! 雲の海! 何もかもが輝かしいわ!』

 綿飴のような白が広がる柔らかな雲の海、私たちはひとしきりそれに感動したあと、本来の目的を思い出した。

 雲の巨人さんのお顔を見るの!

『……………!』

 驚いた。

『まあ、まあ……!』

『なんて美しいの!』

 首からしたは白い裸体だったけど、首から上は金色に輝いていた。成金の強烈な金ぴかではない、柔らかで優しい輝き。

『近づいてみましょうよ!』

 空を飛んで近づいてみる。

『まあ、かぐかわしい!』

 頭がとろけるようないい香り! 肌もよく見ると、高級な調度品のような細かで美しい紋様が施されていて、見ていて惚れ惚れしてしまう!

『すばらしい! すばらしいわ!』

『本当にそうよ! こんな美しい方だったなんて!』

 もっと見たい。もっと見たい。私たちは雲の巨人さんの周りを飛び回る。


 そして、


*****


 地上、通学路。

 パン、と音がして私は隣の男の子を見た。クラスメイトの不動くんが、両手を合わせている。

「どうしたの?」

「ん、虫。まとわりつかれてウザかった」

 手のひらには小さな虫の死骸。夏も終わりそうだけど、まだ虫の活動は終わらない。

「なんで虫さんはまとわりついたんだろう」

「えー? さあ?」

 フフ、と笑う。

「知らねえよ。虫の事情なんて。ウザかったら叩き潰すだけだね」

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