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蜘蛛の巣

 私には霊感がある。だから、お化けや妖精の姿が視えたり声を聞いたりするのだ。


 だからたまーに私みたいな霊感がある他の人と出会うと、霊感仲間として交流を深めることもある。

「家の近くの蜘蛛の巣にね、妖精さんがひっかかってるの。まだ生きてるみたい」

 山川さんもそのうちの一人だ。私と似たような年頃の女の子だ。霊感に目覚めて日が浅いから、幼い頃から目覚めていた私にアドバイスを求めることがある。

「助けた方がいいのかな」

「やめたほうがいいんじゃないかな」

 私は紅茶をすすった。

「妖精さんにもいろんな文化を持っているから、どんな意味かも分からないうちに手を出さない方が良いよ。分かっていても出さない方がいいけどね。違う生きものだし」

「で、でも、苦しそうなの……。蜘蛛の祟りとかあったら怖くて……でもやっぱり助けた方が……いいかなって……。

 あるかな……大丈夫かな……ご飯横取りして、祟りとか……」

 ちらちらとこちらを見ている。ああ、きっと山川さんは私に「大丈夫だよ。しっかり助けてあげよう」って言って欲しいんだろう。助けたいけど一歩が踏み出せないから背中を押してもらいたいだけなのだ。

 昔の私にもそんな時期はあった。遠い昔の話だけど。

「私は勧めないよ。決断は山川さんが自分でしないとね。しっかり調べて、後悔しないようにしないとね」

「……………うん」

 求めていた答えではなくて、しょんぼりした顔をしていた。


 その夜、電話がかかってきた。

 電話の向こうでは微かな声と、湿った音と、ポリポリと固い音もときどき聞こえてきて、やがて切れた。


 翌朝、私は山川さんの家の近くにきた。途中、例の蜘蛛の巣を確認し、そのあと妖精さんの住処に行ってきた。あることを伝えると、大騒ぎで斧を持って散り散りとなり、しばらくしたら戻ってきた。

 私のもとにも、何人か駆け寄ってきた。

『ああ! ヒトのお嬢さん! ありがとう、アンタの言うとおりだった! 見てくれよ、我らが成果を!』

「そう。良かったね」

 緑帽子の妖精さんの住処の近くにある空き家の庭。連れてこられたそこに大きな大きな蜘蛛の巣が近くにあった。今、その下には大きなお腹の妖精さんの体が横たわっていた。

 ただしそこには、首がない。首は苦悶の表情を浮かべて地に落ちていた。

『あんたの言うとおり、奴は逃げ出して近くの家のヒトを食っていたよ! 一人であんなに大きなヒトを狩るなんて、ああ恐ろしい!

 腹一杯で動けなくなっていたから狩れたのさ! じゃないと恐ろしくて近づけやしない!』

『あいつはあの調子で俺ら妖精をたくさん食べて刑に処されてたんだ! こんなに恐ろしいやつは二度と現れないだろう!』

「なんでこの妖精さん、昨日は蜘蛛の巣に磔になっていたの?」

『我らの伝統的な処刑方法だよ! 特に大きな罪を犯した罪人は、蜘蛛に食べさせるのさ!』

『けど実際、今回のようにどうやったのか逃げ出した例も過去に何回かある!』

『やはり罪人はヒトのように首をはねたり、縛り首にしたりすべきだと思うが、君はどうかな?』

「それは妖精さんたちみんなでじっくり考えないとね。こんな大事なときこそ話し合いだよ」

『まったくだ! 会議の準備をしないとだ!』

『お菓子を用意しましょう! 血のようなベリーを乗せて! お茶の用意をしましょう! 黒々とした罪の色の!』

 妖精さんはまた散り散りとなって住処へと戻っていった。私も立ち上がって帰ろうとして、目についた。

 山川さんの遺体。 

 どうやって運んできたのか、山川さんの遺体もあった。そして妖精さんたちの手でバラバラにされている。

『エイサ! ホイサ!』

『切り刻みましょう! カラスに食べられてしまう前に! 干し肉にしましょう! 腐臭が漂う前に!』

 自らの種族の者が討った他種族の肉。そうなれば妖精さんたちにとって山川さんはただの大きいお肉だ。

 私にとっては、数少ない人間の慕ってくれる子が、バラバラにされている場面。

「…………」

 不動くんが見たら大喜びだろうなあと思いながら、私はその場をあとにした。

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