ペット
「妖精ってさ、食ったら美味いの?」
どんな思考回路だったらそういう疑問が湧くんだろう。
私には霊感がある。だからお化けや妖精さんの姿が視えるし、お話しもできる。みんなは痛い子って言うけれど視えるものはしょうがない。それに、一部の人は理解を示してくれる人もいる。クラスメイトの不動くんもその一人なんだけど、言動がバイオレンス方面に飛んでいる子だから、ちょっと思考が突飛なこともある。
「……なんでそんな疑問がでてきたの」
「テレビで雀の串焼きがでてきてさあ、美味いらしいじゃん。それ見てたら思ったんだよね。妖精って美味いのかなって」
おそらく「小さい生き物」という点で彼の中で雀と妖精のカテゴリは一緒なのだろう。
「意思疎通できる生き物の味なんか考えたこともないよ」
「そっかー。とりあえず“美味い“に賭けるわ」
「賭けないで」
そんな会話の学校の帰り道。不動くんと別れたあとに独りで帰路についていると、顔見知りの妖精さんが飛んでいた。
「こんにちは、空き家の妖精さん」
『こんにちは、大きいお嬢さん』
手のひらサイズの妖精さんは、何かを連れていた。妖精さんのと同じくらいの大きさの、毛玉のような。
「それは何?」
『この子はね、私のペットなの!』
『きゅ~』
毛玉が鳴いた。よく見ると目と口がある。
「へえ、妖精さんの体の半分くらいかあ。大きいね」
『ええ! さすがにこのサイズだと力一杯飛ばれると私が振り回されちゃうし、抜け毛もたくさんで掃除が追いつかないし、餌もいっぱい必要だしで大変だけど、でもふわふわもこもこでさわり心地は最高! 最近はもうずっといっしょよ!
みんなには絶対に大変だとかで飼うことは反対されたけど、大変なこと以上に幸せなの!
全くみんな怖がりなのよ! やってみないと分からないものってあるわ!』
「そうか。それは良かったね」
『ええ!』
一週間くらいしたあとだろうか、空に黒い旗のようなものが浮いている。これは妖精さんの葬式の時に空に浮かばせるものだ。
「こんにちは」
『ウウッ、こんにちは。ねえ、愚かな私の娘の話を聞いてくれない?』
「亡くなったの?」
『ええ……ペットを飼っていたの。とてもとても大きなペット……。
私たちを飲み込めるほどに……だから反対したっていうのに……意思疎通ができなくて自分よりも大きな動物を飼うのはやめなさいって……。
あの子は懐いてくれるってはしゃいでたけど、きっと“この妖精って美味いのかな“としか考えてなかったに違いないわ……』