軟禁
知らない人に、軟禁されている。
朝目覚めたら知らない家にいた。雑誌に出てきそうなきれいな家。困惑しながら同じ家にいた、見知らぬ女の人に聞いたら、私はここで暮らさなければならないと言われた。
「訳が分からないし、帰らせてほしいんですけど……」
拒否された。外に出るのはダメらしい。
「ここがあなたのお家なの」
私の家は古いアパートだ。逃げようとしても、すぐに腕を捕まれて、「出ていっちゃダメって言ってるでしょ!」と怒鳴られた。
「なんで……怖い……」
言うと同時に、若い男の人もきた。鈍い私の足では逃げられないだろう。
私はいつまでここにいればいいんだろうか。あんなに引っ越したいと思っていた古いアパートに帰りたい。
*****
「なんで……怖い……」
母さんの怒鳴り声が聞こえてきたので婆ちゃんの部屋を覗いたら、またそんなことを言っていた。
認知症ってのは本当に自分の娘や孫のことまできれいさっぱり忘れてしまうようだ。古いアパートを引き払ってこの家に引っ越してきたのも五年前なのに完全に忘れてる。
「まあまあ、母さんは戻りなよ。俺が相手するから」
「……わかった」
さすがに実母に忘れられるのはしんどいのか母さんは婆ちゃんの相手をすると情緒不安定だ。お気楽な俺がやったほうがいい。
「怖がらなくて良いよ~」
「…………」
婆ちゃんは怯えた目で俺を見ている。
娘と孫といっしょに新築の家で暮らすこの生活と、今の婆ちゃんの目には、今の生活がどう映っているのか、少し気になった。