謎の奥方
ドタバタで、時間もなく、良き前振りを思いつきません。
ネタを見つけ次第、この欄も充実させていこうと思います。
・前回までのあらすじ
図らずも豊臣秀吉として召喚されたクラスメイトを殺害に成功した秀介。これを機に、浅井軍は織田と全面戦争へと本格的に移る。居城に帰還後、秀介が向かった先とは......
「市、長政だ。入るぞ」
ぎこちない動作で襖を開ける秀介。
表情は、カチコチ。
まあ、無理もない。初めて妻に会おうとしているのだから。
戦国の常識。浅井長政の妻は、信長の妹で超美人。名をお市の方、または小谷の方という。長政の死後、織田家家老、柴田勝家と再婚。賤ヶ岳の戦いにて散る。
という「年齢=恋人いない歴」の秀介には絶対に縁のない女性である。対応の仕方が全く分からない。
それに、秀介は、彼女の兄と同盟を破棄したばかり。ただでさえ気まずい状態なのだ。一体、本物の長政はどうやって市を小谷に留めたのだろうか。予想もつかない。
長政の自室の中は暗く、灯りは一切点いてない。奥行きも分からず、家具の位置も不明。
「市......」
不安が多すぎて中に入ることのできない秀介。もう一度声をかける秀介。だが、やはり返事はない。
「いないのか?」
そう判断して、部屋に足を踏み入れる秀介。しかし、それが間違いだと一秒で気が付く。
つま先に、生身の人間の感触がしたのだ。
すぐさま飛びのく秀介。そして思わず身構える。
暗殺者を警戒したのだ。
「誰だ? 我の問いに返事もせずに我の部屋に居座る輩は?!」
何とか武将としての口調を崩さずに声を出す秀介。
その声に反応し、ようやく人影が動き出す。
「貴方は? 誰?」
と少女の声が中からする。
「......長政だ」
警戒を解かずに答える秀介。
「そう......お帰りなさいませ、長政様」
そう言って少女は座りなおす。部屋はまだ暗く、少女のシルエットしか見えない。
「あ、えーと。灯りあるか? 部屋でくつろぎたいのだが」
「はい、ただいま」
シルエットがゴソゴソと動き、ろうそくに火が灯される。
「すみません。色々あって疲れてしまい、寝てしまったようです」
そう言ってこちらに向き直る着物の少女。ようやく顔があらわになる。
その者は、声の通り十代後半の少女なのだろう。ただ、艶のある黒髪と落ち着いた雰囲気により二十代と言っても通りそうだった。
なぜ十代の少女かというと、彼女の横にセーラー服が畳んで置いてあったから。すなわち、彼女もまた召喚された人ということだ。
そして何より、美しかった。
落ち着きの中にある哀愁がその類いまれな美貌を映えさせ、周囲をほのかに照らしていた。
秀介は、思わず息をのみつつ、確認事項を思い出す。
「君も、二十一世紀から来たのかい?」
思い切って尋ねる秀介。
「......あなたもですか?」
そう尋ね返してくる少女。表情には、安堵は見えない。
「ああ」
「何が起こっているか分かりますか?」
「いや」
「私たちは、これからどうすればいいのでしょう?」
「......戦う」
「そうですか、あなたは人を殺すのですね?」
「そ、そうなるな」
だんだん話題が深刻化していく。可憐な顔つきに似合わず、質問してくることはかなり生々しい。
「織田に降伏しないんですか?」
「民も家臣も望んでないことは出来ない」
「私が望んでも?」
「あ、ああ。多分」
直球な質問の数々に、冷や汗をかき始める秀介。このままでは、いきなり刃物で刺されるという展開も十分に考えられてしまうからだ。
「そうですか、じゃあ」
そう言って少女、お市の方として召喚された者は一つ間を置く。
「私も私のやり方でいきます」
少女は立ち上がる。その仕草には、高い身体性をうかがえた。
「貴方、お名前は?」
「い、井田秀介。小牧山ノ台高校3年」
「分かりました。それじゃあ」
部屋を出て歩き出す少女。重い着物でも動きに乱れはない。
「あ、待って! 君は名前言ってくれないの?」
慌てて尋ね返す秀介。
少女は振り返って、
「また今度お伝えします。それまではどうぞ市って呼んで下さい、長政様」
とだけ言って、立ち去ってしまった。
「......敵になるかもしれないな。美人だからって、容赦はしないぞ」
そう呟いた秀介は、再び目を冷酷に光らせた。
はい、ようやくヒロインです。
ただ、謎キャラです。
設定はもうできているので、ブレはないですので、伏線ガンガン張っていきたいです。
それでは、出来れば明日、またアップします。
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里見レイ