使命の決断
お待たせいたしました。
少しWi-Fiトラブりまして、データ一部飛びました。
では、どうぞ。
・前回までのあらすじ
突如秀介たちを襲撃した秀介のクラスメイト石山果里奈。彼を殺す気満々だったので、史実を守るべく自己防衛を優先して果里奈を殺害した。しかし......
「なんでだよ、俺が長政なら秀吉にはもっと良い奴にしろよな」
秀介は、史実を守って自分が現代へと戻る方法を探すべく、兵の士気を上げつつも、自分は手抜きで戦するという戦法を選んだ。
史実に倣った金ヶ崎撤退戦の追撃役を演じたはずなのに、クラスメイトの迷惑行為が重なって殺害に至ったあげく、その彼女が豊臣秀吉だった。
これはジョークだとしても彼には笑えない。
このままでは、歴史が滅茶苦茶になってしまうからだ。
このことが、罪悪感を押し殺してまでクラスメイトを殺害した秀介の肩に重くのしかかる。
「先輩......」
優姫がそっと近づいてくる。
果理奈を殺すよう提言したこともあり、秀介の身を案じている。
「木下藤吉郎を討ち取ったと皆に伝えよ。兵を集め、小谷に帰る」
氷のように冷たく方針を伝える秀介。そのまま馬に乗り、来た道を引き返し始める。その背中は、ただならぬ殺気に満ちている。
「や、ばいよね?」
優姫の隣で震え声を出す三郎。秀介の表情がそれだけ怖かったのだ。
「......先輩を支えるのが私たちの役目。それだけよ。たとえ、あののんびり屋の先輩でなくても、生きるため、支えないと」
「い、生きるの? 浅井家は滅びるんでしょう?」
「わからない? 秀吉のいない戦国はもはや私たちの知っている時代じゃない。なら、私たちは勝たなければならないのよ、敵勢力から国と民を守るために」
「し、史実と違っていいなら、和睦でもいいんじゃないの?」
当惑する三郎。
「いや、そうはいかない」
ここで後ろに振り返って秀助が話に入る。既にその目は悪魔と同じだ。
「既に、俺は織田に宣戦布告しちまった。今更後戻りできない。それに、大半の家臣たちは同盟を破棄するほどまでに信長を敵対視しているのだろう。そいつらの思いを捻じ曲げるなんて当主失格だ」
冷酷かつ冷静に、そして何より家臣たちを考えた発言をする秀介。その顔には、民と家臣を第一に考えなければならない当主としての残酷な運命によりもたらされた使命感に満ちていた。
「それでこそ先輩です。さあ、全軍に撤退命令を。殿の大将を討ち取った今、深追いすると返り討ちに会うか勝ちすぎて傲り高ぶるだけです」
秀介の意見に全面的賛成を示し、優姫が助言する。
「ああ、分かっている。皆の衆、小谷に帰るぞ! 戦勝報告だ!!」
秀介の宣言にあちこちから呼応の声がする。
(先輩は、家臣の求めているものを分かっているんだなぁ)
そう三郎は痛感したのであった。
(けど、このまま先輩に覇道を進ませていいのかな......)
小谷、浅井家の本拠地の山城。
秀介ら浅井軍が戻って来た時は既に勝利の報は街中に知らされており、民衆に歓声を挙げられながら浅井軍は帰還した。
「これで、良かったんだ......」
ふいに秀介が漏らしたこの呟きは、両隣にいた優姫と三郎にしか聞こえなかった。
「優姫、先輩はやっぱり先輩だよ。いつも通りに接してもいいんじゃないかな?」
「サブロー、今のは私たちの前だけの先輩よ。大名としては冷酷かつ冷静に振舞う先輩じゃなきゃいけないの。あんたも武将として自覚を持ちなさい」
「戦国だからって振る舞いを変える必要はないよ」
「あるの、戦国だからこそ感情を殺した大名じゃなきゃいけない。先輩はそう決めたのよ。そうでないと、また知り合いに会った時に躊躇しちゃうじゃない」
「民への慈愛は忘れるなよ、中山」
秀介、二人の会話に割り込む。
「敵武将には容赦はしないが、非戦闘員には情けをかけろ。そうでないと大名は支持されない」
「ふっ、その頭の回転ぶりは変わらないようですね。さすが『秀才の秀介』」
学校で流行っている彼のあだ名を口にする優姫。
三郎は、優姫にも秀介にも変わってほしくなかったが、あえて何も言わなかった。
「軍の褒美は惜しみなくしろよ。俺は疲れたから先に失礼する。頼んだぞ、中山、黒木」
城に入った後、秀介は二人に戦後処理を一任した。
「......奥方に、会われるんですね」
「......ああ。ケジメはつけとかないとな」
優姫の問いにサラッと答える秀介。
その表情は、戦の時より硬かった。
次回、ようやくあの人出します。
長政といえばあの人です。
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里見レイ