死を超える呪い
その一撃を受けた時、秀介は己の命運を悟れなかった。理由は簡単、『根源神の流星』は秀介に放つ場合と他の人へ打つ場合とでは意味が大きく違ってくるからだ。
これは、「痛み」として表すには余りにも痛覚がはっきりしていなかったのだ。それこそが「即死」と呼ばれるような物なのかもしれないし、ただ単に戦国世界からテレポートするからなのかもしれない。しかし、彼はこの感覚は即死でも転送でもないことを理解していた。
「......叶、お前はこれを理解していたのか?」
秀介は、立っていた。その腕からは血など一滴もなく、溢れているのは力を具現化したような熱気だった。迸る殺気だけでもかなり恐怖をそそるが、更に怖いのは熱気の中に確かな冷気があることだ。
互いの手の内を知っているとしても、それはあくまで対決前の話。現状に関しては少なくとも秀介の認識から大きくずれている。
「秀介様、私は志木信夫との戦いについて十二割知っていると申し上げたはず。そして、その余分な二割についてが私と秀介様の更なる関係性だとしたら。貴方は信じますか?」
そう話す叶には、うっすらとだが涙の跡がある。つまり、叶は秀介が『根源神の流星』を受けてこの様になることを知っていて涙していたという事になる。
「......なるほどな。お前は最強の女であり、最弱の女なのだな」
「せ、先輩? 先輩は死んでいるんですか、生きているんですか?」
優姫のこの疑問、これは秀介から殺気などの様々な気を感じられる一方で「生気」を一切感じることが出来ないから出てきたものだ。
「恐らくだけど、井田の答えは多分......」
歩が優姫の肩に力を軽く入れて答えを辿り始める。
『死ぬことが出来ないのなら、生きてもいないってことだろうな』
歩の予想と一言一句違たがわずに、秀介は優姫に受け答えをした。
「ここまで来ると、信じるしかないようだな。お前が観察者たちと誰よりも縁があり、そして誰よりもこの戦国の実験場の事を知っている。そのお前が言うのなら、この現象も偶然ではないのだろう」
それでも秀介は、今この場の自分の存在を自分で信じることが出来なかった。しかし、不思議と叶が言うのなら信じて良いのだろうと判断していたのだ。
「秀介様、私は......」
そして、叶は全てをある意味で最悪の結末へと導く答え合わせを始めた。ゴクリと珍しく喉まで鳴らす妻に、秀介は冷や汗まで出て来る。
「秀介様。貴方様は今、『被験者の最後の一人にまでならないと解放されない呪い』を受けました。これより、現在残っている被験者全員を退場させてください」
そう。これは死よりも残酷なこと。これから何人もの知り合いに死を届ける責務は、多くの命を犠牲の上に生き延びてきた秀介をもってしても耐え難い所業なのだった。
そろそろ、本当にそろそろ「しやり」の最終話に行きそうです。頑張ります。
お手数でなければ、評価とブックマークの程宜しくお願します。
里見レイ