底知れぬ妻
「まず、秀介様はこの男をどこまでご存じですか?」
叶が真顔で、しかし何かを訴えるような目で秀介に質問を切り出した。
「あの男、即ち志木信夫についてか? 我らを戦国世界に放り込んで精神的極限状態に追い込み、その心理的動向を研究データとして採集しているんだよな」
ちらっと男、本名志木信夫に目線を移しながら秀介は答えた。
「はい。それとその信夫と私たちの関係についてもご存じですか?」
そして、次なる叶からの問い。これについても、秀介は答えを得ていた。
「我、とお主の子孫が作り出したのだろ? この戦国を作り出す為の根幹となる『時間転移システム』をな。......まあ、そこに至るまでの我とお主の関係性は散々であったがな」
秀介は途中から口をモゴモゴとさせる。随分前に見た回想も含めて、彼女との未来については酷い有様であるからだ。
「ええ。そして、先祖でなおかつ類似性がある故か私はこの戦国のある上位権限者と精神的なパスが繋がっています。これは、志木のデータ更新速度を上回るレベルに進化できるのです。そして、志木の戦国世界に関する『権限』を部分的にですが無効にできます」
叶のこの言葉、そうやすやすと理解できるものではなかろう。秀介どころか、近くで聞いていた優姫、歩、茶々子も口を開けて理解することを放棄している。
「ま、待て。確かにお主はこの実験の重要人物と関わりがあるのは知っている。しかし、それを言うなら我や雷光寺・中山も関係性があるはずなのだが。何故お前だけなのだ?」
「そうですね。単純に説明をさせてもらうと『私だけでなく私の親族の血も混ざっているから』と申せばよいのでしょうか」
「お、お主は我らの子孫についてどこまで知っておるのだ?」
叶は嘘を言っている訳ではない。ただ、秀介も歩も優姫さえも自分たちのこれからの家系図を完全に理解している訳ではない。知っているのは「自分が誰と結婚して誰の先祖になっているか」という大まかなレベル位だ。その子孫が他に誰を先祖に持っているかなど知る由もない。
「情報量だけなら秀介様の二倍。今回の戦闘に関わるデータから考えれば十二割の範囲です」
「十二って、それは戦闘に関わる部分以外も知っているというのか?」
「はい。ですので、多くのコマンド、特殊能力を駆使して戦う志木信夫の思考を私は完全に上回ることが出来ます」
と、叶は一通り説明?を終えたようだ。そして、先ほどから恐怖に支配されて動けない信夫に対し致命傷へと繋がる一撃を準備し始める。
「その権能、我が力には皆無と知れ。我、この世界の創生者に血を与えし者。我、この世界の百鬼夜行を超える者。愛しき者の勝利の為、世界の断りをも破らんとする。『根源神の流星』! 散りなさい、その運命を恨んで」
遂に、叶が本当の力を発揮した。見えない波動が志木信夫を襲う。
「......まさか、この短期間でここまで能力値を上げるとはな。事前データ以上の結果、だ」
この言葉を最後に信夫の姿は風化した石像の如く崩れ去った。
次は内容を整理した回にするつもりです。想像以上に叶の能力値のインフレで最終展開を練り直す必要が出てきたものでして。
里見レイ