敗退者の迎え人
・前回までのあらすじ
竜牙をあっさりと敗退させた秀介だが、叶から驚くべき未来を聞かされる。次に戦うのが観察者たちの統領で、なおかつ秀介と相性最悪な相手だという。
それを聞いてもなお秀介の態度は変わらなかったが。
(結局、俺は何もできずにやられちまったか。情けねえ......)
目は開けているが何も見えない。耳は聞こえるはずなのに音がしない。そんな空間の中を竜牙は彷徨う。己が白の空間からこの黒の空間に移って何時間経ったのだろうか。そればかり頭の中で点滅を繰り返していた。
そして、その時はやって来た。
『被験対象ナンバー14番、石山竜牙。上位権限者アキコの申請を受けコフィンより解放します。被験者の体調変化と記憶改ざんにご注意ください』
機械の音声。明らかに彼の事を指している。スーパーの巨大冷蔵室の扉のような派手な音を立て、竜牙の目の前は少しだけ明るくなった。
「くっ、ここが例の施設か」
体はとてつもなく重かった。何とか倒れずに地面に足を置いたが、辺りは薄暗く微かに機械の稼働音が聞こえるのみ。彼の脳裏には今もコフィンの中で眠っているであろう妹、そして己をここまで導いた少女の姿が焼き付いていた。
(多分、あいつは近くにいる。しかし、不用意に俺から動けば他の観察者連中に見つかってしまう。それに、歩けるだけの体力も残っちゃいねえ)
朦朧としながらもなんとか最低限の思考回路を稼働させた竜牙。出した答えはコフィン前待機だ。
再び、当てもない時間が流れ出す。
(......)
(......)
(......!?)
(......!)
しかし、その時間は一瞬で終わりを告げた。
「ついてこい」
隣にいつのまにか座っていた少女にそのまま手を引っ張られ、無機質な廊下を歩きだす。
「安心しろ。少し来るのが遅れたがあんたは私が絶対に守ってやる」
「よっくもまあ、そんな恥ずかしい台詞を言えたもんだな。第一、もう井田にコテンパンされた俺は用済みなのかと思っていたが?」
「......そんな訳、ないじゃない」
突如として歩みを緩めた少女。そして、何か寂しげな口調となる。
「あんたとなら、造れると思うんだよね。本当に強い連中が支配する世界が」
「世界って。随分と大げさな話だな」
「あんたには、見せたはずよ。私の、全てを。それを、見て。あんたは、乗った。もう、後戻りなんて、させない」
少女は振り向いて、竜牙の頬に手を当てる。
「わーたよ! お前の夢、俺が助けてやる。だから、何だ。そんなに暗い顔するな!」
竜牙は少女の手をさっと振り払う。重い話は彼にとって気が進まない。
「あ、そうそう。俺、ずっとあんたって呼ばれるのも気持ち悪りいからさ」
続けざまに竜牙は目線をそらして話し出す。
「ちゃんと名前で呼び合おうぜ。俺も言うからよ。あ、秋子」
「っ! に、人形の分際でよくそんな口が利けるな! このバカ竜牙!」
ズカズカと先に進む少女、秋子。明らかに、この場所で竜牙と再会してから態度に大きな変化が生じている。
そして、別方面ではもう一人の少女が少年の出した結果にほくそ笑んでいた。
とりあえず、竜牙を描くのはこの辺で終わります。同じシリーズの別作品を出す予定なので、そこで彼は更なる活躍をさせるつもりです。
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里見レイ