さらさらと舞う決着の灰
・前回までのあらすじ
竜牙は秀介達を皆殺しにするべく、体を黒い炎でできた鎧に身を包んだ。そして、グレードアップした特殊能力で秀介へと槍を投げつける。迫りくる竜牙の攻撃に微動だにしない秀介は......
竜牙の放った槍が秀介の体を貫くまでに要する時間は約二秒。その炎の一撃が秀介を仕留めようとする最後の一瞬まで、元浅井家当主は動こうとしなかった。
「さてと......」
秀介が槍を軽く振りかぶる。その一瞬で、秀介は迫りくる死から大きく遠のいた。
「特に、これといった特殊能力の名前はない。ただ、我の持つ氷の術を応用して封印の空間を作っただけの事」
あっさりと竜牙の槍を己の氷の中に閉じ込める秀介。表情に一切の変化はない。
「ふ、ふざけやがって! 守ってばっかじゃいずれ押し負けっぞ!」
竜牙は若干の動揺を見せるが、戦意は喪失していない。そのまま着地をし、一気に間合いを詰めるべく前進する。
「......あ、我の攻撃範囲に入ったな?」
竜牙が前進すること三歩。秀介との距離は約五メートルと言ったところか。秀介の冷たい視線が炎の戦士を瞬時に捕らえる。
「! ちっ、こちらが槍を奪われたことを良いように!」
竜牙は瞬時にサイドステップを踏んで後退した。その場所には瞬きをするうちに氷の張り山が完成していたのだ。
「一々手間がかかるな! 槍よ、その主のもとに舞い戻れ!」
苦渋の表情をしつつも、竜牙は何やらの呪文を唱えた。そして、その呪文の通り竜牙の超長槍は氷の封印を突き破って竜牙の手に握られる。
「つくづく便利な能力を得たものだな、石山。しかし、こちらは与えられていない故に自由な戦闘を展開できる。結論、戦闘というものは相手の予想の裏をかいた者の勝利なのだから我の勝利はゆるぎないのだよ」
秀介、実は竜牙と戦闘が始まってからほぼ動いていない。竜牙の攻撃を槍だけで受け流し、氷で受け止め、その目と口で精神を揺さぶっているのだ。
「茶々子、我にいち早くケリをつけてもらいたいか?」
そして、後ろに離れている茶々子に余裕を持った質問をする。
「ええ、父上の安全の為にも戦は早い決着がよろしいかと」
淡々と受け応える茶々子。もう、この娘は父に対して甘えることはないのかも知れない。
「了解した。では、我も攻撃態勢に転ずるとしよう」
刹那、秀介が竜牙との間合いを一気に詰め始める。
「素の運動神経は俺の方が上だ! 余裕ぶっこいてるとボコされっぞ!!」
再び黒き炎を轟かせながら竜牙も突進を繰り出した。しかし、戦闘の強さは筋力や反射神経、根性では決定されないものである。
「足元、見なくていいのか?」
急ブレーキをかけた後、秀介は一気に特殊能力発動体制に入る。
「ああん? 結局お前は受け身の戦闘スタイ、うわ!?」
売り言葉を安値で買おうとした竜牙だったが、話ながらバランスを失ってしまう。そう、秀介が特殊能力で仕込んだ薄い氷の床により足を滑らせてしまったのだ。
「成川と言い、石山妹と言いお主と言い。己の力のみを頼ろうとして頭を動かさないんだよな。おかげで、一段とやりやすかったぞ」
「......こちとら、駆け引きなしの一騎打ちしか出来ねえからなあ。相性は最悪かよ」
槍を持っていない左手で受け身を取るも、竜牙が完全に秀介に劣勢を取ってしまったのは明らか。
「さて、こちらも切り札を見せたのだ。そちらも全力を出して最後の一太刀と参ろうではないか」
相手が最後の隠し玉を持ってると考え、それを出すように秀介は促した。
「んなもんねえよ。あったら最初に使ってる」
「......そうか。あれほどまでに自信を持っていたから裏があると思ったのだがな。残念だ」
首を左右に振り、秀介は真下にいる竜牙の喉元に自分の槍を突き刺す。
「あっけない人間だったな、この双子は」
足元から舞い散る灰のごとく消えていく竜牙を冷ややかな目で見とどける秀介。
妹の果里奈と同じく、石山の人間は秀介に勝てない運命なのだろうか。
竜牙、別に嫌いって訳ではないですけど扱いにくく。ま、まあ今後も彼には出番あるのできれいにまとめていきたいです。
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里見レイ