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使命の槍と宿命の刀  作者: 里見レイ
終局 急
133/153

反転した結末

 右も、左も、群がる怒りに身を任せた群衆。普段は何も考えずに従順だった国の民が、一人の男の先導の元一体の魔物のように襲い掛かって来る。

 その迫りくる軍勢に対し、この少年もそれを支える少女もなす術がなかった。


「し、茂様! 佳乃様と虎和様はいずこに?」


 体の所々に刃物の切り傷を受けながらも、大切な上司に他の面子の安否を問う九度山あいる。


「わ、分からない! 敵が多すぎて視認ができないんだ!」


 秒速で迫りくる敵を空中粉砕させている下原茂。しかし、一切追いついておらず彼自身も着実に体力が削られる。その噴出した血しぶきが地面に落ちる頃には、複数の刃が彼の肌をかすめるレベルだ。


「......私にも特殊能力、せめて戦国に来て強化された部分さえあれば茂様の力になれたものを」


 あいるの片膝が地面についた。目の前には三人の女性、全員粗末な格好で小さな武器を持っている。


「あいる!」


 茂は遂に目の前の敵を放棄した。全速力であいるの前に駆け付け、襲い掛かる者を瞬殺する。


「僕の想い人に、これ以上傷は負わせない。例え、結果が変わらず、とも......」


「茂様!」


 このまま全ての力を使ったの如く倒れこむ茂とそれに悲鳴を上げるあいる。この勝負は火を見るより明らかだった。そして、結末が訪れる。


「......よし、これ以上は攻めなくていい。もうその意味はないからな」


 その声と共に、先ほどまで怒涛の勢いで攻めていた群衆がさーと下がっていく。


「......久しぶり、って程ではないんだけどね。この前の再開が短かったせいかな、兄さん」


「......ああ、そうだな。しかし、間に合ってよかった。お前らの死に様は、この目で確かめておきたかったからな」


 重圧のある足取りで二人の前に姿を現した下原太一。その目は弟を一つの標的としか捉えていない。


「......太一様。私は、今この戦国での死を迎えようとも一切の後悔はございません。殺すなら、すぐにでも殺して頂きたいですね」


 あいるのその表情は、途方もない苦痛を示していた。大事な人を支えられなかった悔しさや今まで消えかけていた罪悪感もあるのだろう。


「そうだな、あいる。しかし、物事には順序がある。お前を殺すのは俺ではないからな」


 太一はそっと腕を上げ合図を送る。それに応じて、一人の少女が姿を現した。


「......あいる」


 メイド服に身を包んだ春日部露子だ。しかし、手にはたきはなかった。


「露子が終わらせてくれるの? 生き地獄っていう手もあるのに優しいのね」


 あいるは目にしたものから己の運命を悟ったのだ。


「......ごめんね。死にぞこないにはしたくないんだけど、これが私の殺し方。ここが意味不明な壊れた世界だとしても、きちんとケジメは付けたいの」

 

 そのまま、一歩二歩と茂の横を通ってあいるの目の前に立つ露子。


「これは、茂様に殺された沙恵さんの分!」


 あいるの右肩に一本のナイフ。


「これは、虎和さんに殺された美樹さんの分!」


 続いて、左肩に一本の包丁。


「そして、これは貴方を含めたすべての犠牲となった下原家の人間の分!!!」


 最後に、あいるの心臓を連続して三本のナイフが刺さる。


「......私を、含む?」


「そうよ! 貴方だって茂様が行方不明にならなければ幸せな日々が長く続いていたじゃない! もう太一様と茂様が仲直り出来ないことを知っているからあいるは好きな人の味方をしたんでしょ? それは私だって同じこと、本来の力を発揮した太一様の下で私は最大限に働くわ」


「......」


「だから、あいる。みんなで未来に帰って、貴方と茂様は下原を離れて生きてね。さようなら」


 露子が三本目のナイフを押し込む。こうして、下原の副官は鮮血と共に眠りについた。


「......で。僕の事はとどめを刺してくれるのかい、兄さん?」


 倒れかかるあいるを己の胸元で受け止め、茂はじっと太一を見る。


「......ごめん、茂。俺は、最悪なお兄ちゃんだよ」


 刹那、一振りされた刀と一閃の血しぶき。そして、息絶えた一組の主従の姿がここにあった。


「......流石は太一様。まさかここまでの短時間で民衆に反乱の意志を見せて奇襲に移すとは」


 安価な布切れを取り出し、露子はそう言って太一の刀の返り血を拭く。


「条件は既に整っていただけだよ。それに、茂たちの能力はあくまで一対一の環境想定。範囲攻撃もなかったから圧倒的な物量にはかなわないと踏んだだけだし」


 拭き終わった刀を受け取り、太一は鞘へとしまう。


「それで、これからどういたしますか?」


「......さあね。武田信玄としてもうこの地を治めることはできないようだし、時を待つかな」


「畏まりました。それでは、まずは食料の確保からですね」


「ああ」


 既に二人の目はこの先を見ていた。家族の屍に背を向けて。

少し空いてしまいました。一気に書き上げつつも区切りが分からず、気が付いたらこの期間とボリュームになった次第です。次は、桜庭丸たちの登場ですかね。

お手数でなければ、ブックマークと評価の程宜しくお願いします。

里見レイ

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