最後の扉 3
「......満腹は、自分が母に殺されることを悟っていたというのか?」
我が子の壮絶な最期を聞かされた秀介、目を見開いた。
「はい、恐らく兄上は前々から父上と母上の微妙な関係性について分かっていたのかと」
淡々と茶々子は答える。これを話す事態は常に頭にあったのだろう。
「しかし、だからと言って我は妻のようにむざむざと自分の子供を犠牲にするようなことはしないぞ。我が望んでいなくとも、お前は自ら死を選ぶというのか?」
「......はい、兄上、発と同じ運命を進むのが兄妹の務めと考えております故」
「......困った子供たちだ。そこまで言うならお前は連れて行く。しかし、部屋にいるあの女たちは置いていくとしよう」
「娘を連れて行って妻は置いていく、か。君も奇妙な考えのようだね」
一通り会話の区切りがついたところに声を入れ込む歩。話を進めたがっているというよりは、結論を納得のいく形で終わらせたいという態度だ。
「いいえ、そうはいきませんよ」
秀介たちが喋っている場所から二つ先の曲がり角から、あの女は姿を現した。
『......やはり、貴方も現れましたか。最大の実験素材さん?』
「叶、お前の事だから全て聞いていたのだろう。お前は子供が生贄になるという善意を完全に利用して戦い続ける気か?」
叶の登場に真っ先に反応したのは、やはり秀介。そして、どこからともなく話しかけている未来人だった。
「先輩、あれから色々叶から聞きました。あいつは先輩に近づこうとしているのにかたくなに拒否続けるのはどうかと思いますよ。例え、先輩が大事にしてる人たちを身代わりにしたとしても」
そして、やはり優姫もいた。既に鉾を手に構えている。
「開戦と和睦でかつて対立していた俺とお前だったのにな。俺の味方だった中山を引き連れて俺を地獄へ向かわせるとは。ほんの数か月で環境は変わるものだな......」
ゆっくりと首を横に振る秀介。ため息交じりに右手で槍を握る。
「井田、君もようやく納得したのかな? 最終的に起こることはともかく、俺たちは全力で戦わなければならないんだ。誰かが生き残ることがこのゲームに大事そうだからね」
叶たちも戦いに参加すると結論が固まり一安心する歩。腰に差している長刀を確認。
『決まりね。さあ、門を開けるわよ。私の権限の都合であまり長くは開けてられないから、速やかに入って頂戴ね』
秀介達男性陣と叶達の女性陣の間、即ち茶々子のすぐそばに蜃気楼のような揺れが発生する。
「みんな、行くよ。恐らくこれが最後の戦いになるはずさ。相手は管理者権限でさらに苦戦させられるだろう。けど、協力して勝ちに行こうか」
先陣を切って扉の向こうへと行こうとする歩。これでは秀介とどちらが主人公なのか分かったものではない。
そして、肝心の主人公が続けた言葉はこちら。
「そこは雷光寺の言うとおりだからな。ただし、叶。万が一お前が特殊能力を使わなければならない際に条件がある」
「な、何でしょうか、秀介様?」
自身に秀介から特殊能力の使用に許可が下りたこと自体に驚く叶。
「もし次に生贄を必要とする場合の順番についてだ。最初に雷光寺、次に中山、そして最後に茶々子にしろ」
「......え?」
「......は?」
「秀介、様!?」
唐突なこの条件は、今まで以上に場を凍り付かせる。しかし当の本人は生贄第一号の横をすり抜け、娘の目の前で止まる。
「父上?」
「行くぞ、茶々子。それにしても、お前と市は我に声をかけてくる場所まで同じとはな。本当の親子みたいで何となく嬉しかったぞ」
さっと茶々子を抱き上げる秀介。そのまま揺れの中へと足を踏み入れていった。
週に二回は投稿したいんですけどね......