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使命の槍と宿命の刀  作者: 里見レイ
終局 破
126/153

最後の扉 2

「茶々子......どこまで聞いていた?」


 秀介は想像以上に穏やかな声で娘に問う。


「八年後に決めると父上が仰った時からずっとです。母上に様子を見に行くよう頼まれましたので」


 いつになく引き締まった顔をしている茶々子。しかし、その瞳の奥には未知なる物への恐怖が見える。手に持った竹筒が小刻みに揺れていた。


「......茶々子、お前は何故我について行こうとするのだ? その先にあるのはお前の兄や妹と同じ巻き添えを受けた死なんだぞ?」


「......そういえば、父上にはまだ兄上の最期について細かく説明していませんでしたね」


「いきなりどうした? そんなこと知ったところで我はお前を連れて行くつもりは......」


「井田、聞いてあげなよ。この子なりの覚悟なんだろうし」


 歩は茶々子へと助け船を出した。織田家中で個性ある将の輪の中で潤滑油を担ってきたことはある。


「兄上の最期、それは......」


こうして、七歳の少女は語り始めた。父に最大のわがままを許してもらう為に......



 それは、高虎と晴彦が死んで秀介が叶に眠らされた時まで遡る。三郎が何とか満腹と茶々子の縄をほどいたものの、未だにヒバリの空からの攻撃は止んでいなかった。


「母上! 父上に休んでいただくのは私も同じですが、何も今その様にしなくてもよいのでは?」


 妹の手を引っ張って逃げ回りながら満腹は叶に意見する。食べるのが好きでも運動神経は悪くない。というか、同年代の人間の中では良い方だ。


「......満腹、母の側まで来ることはできますか? この状況を救うことに協力して欲しいのです」


 叶は秀介の頬を丁寧に撫でながら辛うじて息子へ聞こえる声で頼む。


「しょ、承知いたしました! このまま安全地帯に避難ですね」


 満腹はすぐに母親のいる方へ足を向ける。


「ええ、そうですよ......」


 またしても辛うじて聞こえるトーンで答える叶。それを見て、茶々子は何かを感じ取った。


「兄上、母上の様子がおかしいですぞ。このまま近づいては茶々子たちに何か嫌なことが......」


 少女のここぞとばかりの直感が働くのは、妹がいなくなってからだろうか。


「......茶々子、父上と母上を頼んだぞ」


「え?」


 直後、赤色の光線が兄の体を貫いた。



「あ、兄上!? いったい何が???」


「もう、分かっているだろ? 母上が、私を犠牲にこの窮地を脱しようとしているんだよ」


 満腹は既に己の運命を甘受していた。急激に涙を溜め始める妹と、父を抱えながらこちらを向いている母をぼやける視力で何とか視認。そして、茶々子にだけ聞こえるように最期の声をかけた。 


「茶々子、いいかい。母上は父上の為ならなんだってする恐ろしい人だ。しかし、今父上を生かすにはそれしかないのも確かなんだ。父上がいつか母上と共に笑い合える日の為に、私は喜んで命を捨てるよ。君も近いうちに同じことになるだろう。父上と母上の両方を愛しているとすれば、ね......」


「さようなら、満腹。『偏愛するプレディレクション女神ヴィーナス』解放。攻撃形態001『生贄と作る竜巻サイクロン・ウィズ・サクリファイス』起動!!!」


『生贄の合意を脳波より確認。竜巻展開まで、3、2、1......』


 こうして、満腹を素材とした竜巻はヒバリのメテオへと襲い掛かる。


「ま、今日はこのくらいでいいかしらね。邪魔者はおおよそ消すことができた訳だし。さて、リョウ様参りましょう。あの人たちを迎え撃つために......」


 攻撃を終了させ、ヒバリは蜃気楼のように天守から消えていった。残されたのは、爆発と竜巻、そしてヒバリの斬撃で息絶えたカラスの死骸だけであった。


(......茶々子も、兄上のお側に参るでしょう。成すべきことに命を投げ出した後に)


 全てを見渡しながら少女は、母の隣を歩いてそう感じたのであった。



ふう、次は叶も秀介のもとにやって来るかと。

お手数でなければ、ブックマークと評価の程宜しくお願いします。

里見レイ

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