訪れた二人
開いた音もしなければ、空気の流れに変化もなかった。ただ、人が転げ落ちた音とが二つしただけ。
「......って井田!? 何でここにいるんだ?」
「それはこちらの台詞なのだがね、雷光寺。あと、ここでは浅井長政なのでそこら辺宜しく」
転げ落ちてきたのは、雷光寺歩と、彼に抱かれた女が一人。秀介は叶に抱き着かれていることはとりあえず無視して同級生への確認と注意を行う。
そして、もう一人。
「うう......雷光寺さん。ここはどこですか?」
歩の腕の中で完全に乙女の顔をしている秀介直属の後輩にして元部下、中山優姫も目が覚めた様子。
「って、わー! せせせ先輩どうしてこんな所に!? ってか私たちさっきまで先輩たちを鉾で殴り続けて。ってまずここ何処ですかぁぁぁぁぁぁ!!」
予想を大きく上回った反応を展開した優姫。そして、それを見て羞恥を覚える人物がもう一人。
「あ、あああ優姫!? えっとここは私たちが暮らしている城で、あ、けど私は秀介様とは一緒に寝れてないし。あ、寝てないっていうのは本当に寝てないって意味で秀介様には愛されてないし愛すことすら許されてないし......」
友人の前で夫を抱きしめている事をようやく認知した女、叶である。秀介から離れる前に支離滅裂な言い訳を展開している。
「妻よ、この状況を恥じている自覚があるならます我から離れろ。我も聞きたいことや言いたいことはたくさんあるが、一度落ち着ける環境整備が大事なのではないのか? そこで、我らをきょとんと見ている茶々子への説明を含めてな」
呆れかえった秀介の窘めは、周り全員の気を一時的に沈めた。何せ『現地人』である茶々子が優姫と叶の大声で昼寝から目覚めてしまったからだ。
「えっと、まあ。茶々子もさすがにわかっているとは思うが。我らには名前が二つあってな」
秀介、叶、優姫、歩が車座になって座り、秀介は自分の膝の上にいる娘へと説明を始める。
「我は、浅井長政ではある。そして、井田秀介という名もある。妻の市、又は叶は我の事を秀介と呼ぶのはそういう事だ。全部覚える必要はないが、そういう風に覚えていてくれ」
「は、はい父上。それで、この方々はどなた様なのでしょうか?」
茶々子は上を見ながらまだキョトンとしている。
「この長い髪の男が丹羽長秀、別名雷光寺歩だ。本来は敵のはずだが、この感じでは味方みたいだな。で、その隣にいる女が磯野員昌、別名中山優姫。以前は我ら浅井家家老で、織田家に捕らえられていたらしいと聞いてた。我が長秀を味方と考えているのはこいつが大して前と変わった態度をとっているからだ」
「初めまして、お嬢さん。君のお父さんとはこれから仲良くしていくつもりだから宜しくね」
「えっと、宜しくお願いします。中山優姫です」
気さくに秀介の娘へと挨拶する歩と、何か気後れした表情に変化する優姫。
「秀介様。もう、貴方に平穏な日々は訪れないでしょうね。そして、貴方が大事にしているあの子の未来は他の二人とそう変わらないことでしょう......」
そして、秀介の隣で再び寂しげな言葉を小さく漏らす叶。夫にとっての地獄は、これからが本番だという事を知っているからだ。
少し強引な自己紹介タイムになりましたね。あ、このままでは戦闘シーンはさらに遠くなりそうです。会話イベントに関しては、ネタが尽きないものでして......里見レイ