悪夢と心理
戦国時代と二十一世紀を比較すると、炊事はかなりきついものである。炊飯器はもちろん、コンロも蛇口もないわけなのだから。
と、いう訳で朝食の片づけと夕食の準備に追われる秀介である。
「......たまには手抜きしたいものだ。家事に追われて店を出す為の事前調査すらできやしない」
まあ、食事の準備以外にも掃除、洗濯、巻き割りなどの専業主婦並みの仕事量だ。高校生男子の秀介が苦戦するのも無理はない。
「てか、黒木は何しているんだ? 蔵の残量から考えると、俺たち以外は一人分しか減っていないようだがな。少しは顔出してもいいのだが、まあ晩年を静かに過ごさせてもらえるのならよいか」
薪を土間へと運びながら、ぶつぶつと独り言。なんだかんだ、後輩の事は心配なのだ。
『貴方はまだ、隠居の身ではないのですよ? 戦って、この壊れた世界を跡形もなく破壊するのです。大事な人たちの屍を乗り越えて......』
「! ......お前は何故、毎度毎度こんな昼間になんだよ? ったく」
突如どこからか響く女の声、それに軽く答えた秀介は糸の切れた人形のように倒れこむ。そして、そのまま意識を悪魔の沼の中へと沈めていくのだ。
さて、秀介の目の前には黒い世界が広がっている。光が一切ないはずなのに、自分の姿を視覚的に認識できるのは毎度のことながら謎に感じている。そして、孤独に押しつぶされる間もなく彼のもとにあの者がやって来る。
「秀介様、お会いしたかったです......」
音も気配もなく、後ろから秀介の首に女の腕が巻き付く。他でもない、叶だ。その姿は、茶々子に会った時と変わっていない。
「毎日会ってるではないか? この悪夢の中でだがな」
対して秀介もいつもの口調で叶をあしらう。勿論、目を合わせようともしない。
「茶々子にまで手をかけたら我が今度はお前を成敗するからな。このふざけた世界などもはやどうでもいい。実験対象として穏やかに余生を過ごしたいものなんだがね」
「そんなこと、長くは続かないと思いますよ」
彼女はそう言ってすっと姿を消す。
「どうやら、彼らはこの戦国の人間すべてに対して戦争を仕掛けるとのこと。そして、既に武田は滅亡しています」
直後、叶の顔は秀介の目の前にあった。
「......その話、一体どこから入手した? 今の我らにその様な情報網はないはずだが」
「さあ、何故でしょうね。貴方様の知らないところで、私も動いているのですかね......」
自ら疑問形を使う妻に対し、秀介は下手なことを言えなかった。
「お前は、何を願っているんだ? 我を殺す気なのか、生かす気なのか。それすら分からない」
秀介の精神は既に何かに侵されるような気がしていた。この女に気を許したら最後、生ける屍か死に逝く人間しか選択がないように感じているのだ。
そろそろ最終戦に秀介たちも参戦させたいのですが、なかなか参戦チケット取れてないです。どうしよう......