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使命の槍と宿命の刀  作者: 里見レイ
終局 破
119/153

郡山の午前

 朝日は日本どこでもほぼ同じタイミングで登って来る。これは、甲斐でも大和でも同じこと。

 今日も、郡山城に静寂の継続を告げる夜明けが訪れた。


「......おはよう」


 当主としての務めが実質無くなっても、秀介の朝は早かった。しかし、槍の鍛錬はもう行っていない。浅井は実質滅亡し、彼にはもう戦う理由はないのだ。

 代わりに、彼は一人暮らしのフリーターのような生活をしている。いや、厳密には少し違うが。


「山菜って、どのくらい残っていたっけ? あと、米蔵の在庫に、金蔵の資金残高を確認してっと。この感じだと、あと三年は大丈夫そうだな」


 紙と筆を持ちながら、秀介はチマチマと生活費の計算。彼の頭の中には、商人としてこれらの資材を使うことも視野に入れてある。


「さて、そろそろ朝食を作らないとな」


 デスクワークもほどほどに、秀介は厨房へと足を運ぶ。戦国時代の炊飯も楽ではない。彼は毎朝懸命に朝食作りに励んでいるのだ。

 さて、かれこれ数時間後。時刻は休日の朝食時となった。

 出来上がった料理を元居たところまで運ぶ。


「さて、ご飯にしようか。......朝だぞ、茶々子」


 そして、隣で寝ている少女の頭をそって撫でた。


「う、うーん。父上、おはようございます」


 秀介に残された最後の子、茶々子は年相応の無邪気な顔で挨拶する。しかし、彼女はもう秀介に突進するような甘えっぷりを見せなかった。


「今日も、父上は悲しげな顔をしておりますね」


「......茶々子、お前だけは死なせないからな」


 彼は娘を強く抱きしめた。そのまま秀介は黙って目をつぶる。これが、静寂継続のサインだ。




 さて。それから少し経った後、 秀介は茶々子を開放し朝食に入った。ここでも、二人の間に会話はない。そして食べ終わると秀介は皿洗いへと向かい、茶々子は一人で何もしない。

 いや、厳密には一人の人間を待っている。父親の秀介は願わなくても戻って来るから待っていない。そう、この娘が待っているのは......


「茶々子、入って大丈夫ですか?」


「ええ、父上は今食事の後片付けに言っておりまする」


 すっと部屋の戸が開き、そこには彼女の母である叶がいた。


「茶々子、お父上はどうですか?」


 叶は茶々子の隣に座っていつものように尋ねる。


「いつもと変わりませぬ。ただ静かに茶々子を死なせないと言っているだけで」


「そう、あの人がいつも通りならまだ死に急ぐことはないですね」


「母上は、何故父上とお会いになろうとしないのですか? 以前のように無理やり会いにいらしても良いのですよ!」


「大丈夫ですよ。母は茶々子の知らないところでお父上に会っておりますから」


 叶の返事に嘘は見えない。しかし、彼女はこれ以上茶々子に話すつもりはないようだ。それは、これが悪魔償還の儀式のような残酷さを秘めていたからである。

 

お久しぶりです。忙しいです

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