踏み越えた国境
「こうやって振り返ってみると、私たちはつまらない意地の張り合いをしていたのですね。自分の完璧を示すことで相手の人間味を引き出そうとしていたのですから」
「まあ、それはお互い似た者同士だったという事だよ。下原家内部での接し方や仕事のスタイル、さらには相手に求める物まで僕たちは一致し過ぎていた。人は自分と違う何かを求めているというけど、根は同じ何かを求めている。しかしそれは、見つけるのにとても時間がかかるんだろう。そして、打ち解けるのもね。それが僕たちだったんだよ、きっと」
穏やかな日の光が時間を追うごとにあいると茂を照らし出す。そっと重ねられた手は、深い心境と強い欲求を形作った。
「さて、デスクワークもそろそろ終わりではないのかい? 僕たちがこれから、最後で最大の戦いに挑まなければならなそうだ」
と、突然茂は真剣な表情になる。先ほどの穏やかさなど欠片もない。
「そうですね。あともう少しでやって来るでしょう。あの方々が私たちに挑戦してくるのは」
同じようにあいるも表情を変えた。来るべき戦いに気を引き締めて......
甲斐と駿河の国境に複数の男女が行進している。質素な格好だが、全員からまがまがしいオーラがしている。そう、常人では無いオーラが。
「さて。もうすぐ甲斐の国、敵さんのおひざ元にしてお前らのもと領地だ。あのチートに等しい攻撃からどう守るのか、そしてどう倒すのか。まさか策もないのに突っ込んで玉砕覚悟で戦うのではないだろうな?」
最後尾をダルそうに歩く少年が声をかける。他でもない、榊原康政役の鈴木桜庭丸だ。腰に短刀を複数本装備している。肉体的な疲労はそこまでではないようだが、心配による精神的な疲れが隠せていない。
「もちろんだよ、桜庭丸。まだ見せるわけにはいかないが僕と輝人は既に特殊能力を会得している。それに、太一君たちも無策ではないようだしね」
先頭を弟輝人と共に進んでいる吉樹が振り向いて答えた。武器は、何も持っていない。
「まあ、成功できるかは半々ですよ。あいつらの性質とかを考え、なおかつ戦う場面を想定した上でのことなんですから。あと、和田先輩と同じく特殊能力に関しては使えなくはないですけど都合よく発動できるかは別問題ですので」
そして、一行の真ん中にいるのはこの太一。すぐ隣には露子もいる。露子はいつものメイド服にはたき、そして太一は二十一世紀の私服だ。武器おろか時代すら間違えた格好なので、桜庭丸はあまり良い表情をしていない。
「その、俺に対しては何の利益もない情報。いう意味はあるのかい? こちらの心配要素が増えるだけなんだけどさ」
「大丈夫! 君の適応力はコンマ数秒の単位で何とかなるレベル! 速水陸の奇襲からまんまと逃げ延び僕たちの城まで帰ってきたことがそれを証明している!」
吉樹は頭がお花畑のような回答を桜庭丸へと返した。
「......直接戦闘まではあと何回か野営することになるだろうよ。それまでに、話すタイミングを見つけて内容を伝えてくれ」
桜庭丸が出した結論。それは、切り札を隠している少年たちを信じることだった。できないことに労力を割かないという判断である。
さあ、間もなく日が暮れる。これからは、敵地甲斐での夜だ。
こっからは、下原、和田、鈴木の三家の人間も話に入ります。どの人にも注目シーン造るつもりですので、お楽しみに。里見レイ