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使命の槍と宿命の刀  作者: 里見レイ
終局 序
107/153

宣告

「そう、ここでの貴方たちの戦いは所詮前座。私が加わることで初めて地獄が具現化するのですよ」


 ヒバリは自らこそがこの戦闘の主役だと豪語した。そのまま、手を上に上げて詠唱を始める。


「愛しき者さえ隣にいれば、他の人など塵に同じ。さあ、わが愛の前に砕け散りなさい『伴侶により作られたメイドバイ・ワイフ・ジ・もう一つの世界(アナザー・ワールド)』!!!」


「ひ、ヒバリ!? まさか俺も巻き込むつもりでは......」


 彼女の上から自分すらも知りえないエネルギー反応を感じたカラスは、戦いの手を止め大慌てで状況を問う。


「ふふふ。この戦いに参加するもう一つの条件。それは、貴方にも退場してもらう事なのよ。もう、貴方は私にとって利用価値がないのですから。第一段階『降り注ぐ火炎球(フレアシャワー)』起動」


 ヒバリの手の上から幾つかの火球が姿を現す。


「さあ、消えなさい......」


 彼女の一振りは、流星群のように秀介たちに襲い掛かった。


「くそ! 全力で逃げるしかないか!」


 カラスはさっさと秀介たちとの勝負を捨てて安全圏へと避難を開始する。


「! 叶、満腹と茶々子を回収するぞ! その後全力で戦闘から離脱する。浅井の軍隊が全滅していようが何であろうが、今は身の回りにいる者を守る。それだけだ!」


 カラスが引いたのとほぼ同時に秀介は前方へと駆け出す。自身の愛する子供たち目掛けて一直線。

 しかし、そこに抜かりなく漬け込んでくる男がいた。


「私の存在、忘れたとは言わせませんよ」


 秀介を急襲するのは数本の矢。勿論、放ったのは晴彦だ。三郎がヒバリの攻撃にひるんでいるので、彼は火炎球に気を付けるだけで良くなっている。


「く......」


 秀介はかろうじて致命傷は避けたが、動きは止まってしまう。


「はは。井田先輩、私の弓の射程圏内に自ら入るとは。やはり、身内が関わるとどうしても冷静さを欠いてしまうものですね。冷酷さの中に甘さが残っている、大名には必要な素質ではありますが、戦士としてはそれは三流を現す象徴にしかならない。そして、大名でも武将でもなく『戦士』としてここに立っている私に貴方は敗北する。さあ、地獄の中でさらなる地獄を始めましょう」


 晴彦は降りかかる火炎球を巧みに避けながら、弓を連射していった。右腕を狙ったかと思えばその次は左足。忘れたころにこめかみを打ち抜こうとする強烈な一撃をお見舞いする。

 秀介の特殊技には一定時間の溜めが必要なので、反撃することはできなかった。歯を食いしばり、誰かの救援を願う事しか。


 時間としては、ほんの数分の話であろう。息を継ぐ間もなく秀介は無様に地面に座り込んだ。三メートルほど離れて、矢をつがえた晴彦が立っている。他の浅井軍のメンバーは、自分が火炎球を避けることに精一杯だ。


「松野春彦、なぜ未来の非道な実験者に味方する?」


「簡単な話です。私たちの時代が性に合わないからですよ。周りの人と足元を鎖で繋がれ、誰かの責任で皆が転ぶ。自分が進もうとすれば皆に食い止められる。そんな時代では、私はつまらない。この実験が終了した暁には、私には未来での永住権が与えられる。そのためなら、悪魔と呼ばれようが些細な話なのですよ」 


 晴彦は真顔でそう言った。その瞳をじっと見つめる秀介。


「......そうか。未来でも、元気に生きろよ。お前には、この世界を生き抜く力があるようだしな」


 そして、彼は突如槍を地面に落とす。その槍は、彼の血による手形が付いていた。


「この戦国で俺が本当に絶命するにしろそうでないにしろ、ここまで己の精神を割けるほどの力は俺には残されていない。松野が俺の分まで戦ってくれるなら、悔いはないかな」


「秀介様!? 突然の弱音なんてらしくないですよ! 何故、会ったばかりの非道な少年に自らお命を差し出すような真似を!?」


 叶は火球を避けながらも秀介の声に聴覚は割いていたので、秀介のつぶやきに秒速で反応した。


「ああ、先ほどからやけに体が軽くてね。恐らく、カラスの呪いが解除されたんだと思う。そしたら、今まで無理して力入れる必要もなくなってな。お前らには申し訳ないが、先にリタイアしたくなったんだよ」


「まあ、井田先輩は大名という鎖にがんじがらめ状態ですからね。その苦しみは、想像以上でしょう。そこに引導を渡すことができるのは光栄です」


 満足げに晴彦は再び矢をつがえる。まあ、無理もない。敵が自ら彼への未来の扉を開いてくれたのだから。


「では、お別れの時間です。流石に、火球を避け続けるのも疲れますからね」


「......」


「ごめんなさい! 秀介様!!!」


 妻の叫びにより、再び時空は歪んで愛は捩れた。

さて、お決まりとなりつつあるパターンですかね。勝負の決着は、屍の上にあると言いましょうか。まあ、そんな感じです。

里見レイ

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