最終開戦、始まりの波動
指に矢を挟んで、射る。その矢の先に何があろうと松野晴彦には関係のない話だ。理由は明快。射るべき対象者はいつでも敵で、射ることで自分の生存率が高まるからだ。
今回の対象は近しい縁がある人間であるが、彼にとっては無縁の人物と同じである。射る、崩す、乱す、殺す。作業内容は以前より少し工程が増えるだけだ。
「さて、実質初対面なわけですので自己紹介しますね。井田先輩、成川先輩、そして黒木先輩。私は松野晴彦、貴方たちに死を引導しに来た織田の戦士です」
晴彦はニッコリと張り付いた笑顔をする。無表情であるより、こっちの方が対象に恐怖を与えられることは戦場で経験済みなのだ。
「なるほどな。どの役で召喚されたかは知らないが、同じ時代の人間が未来人側に回ってことは分かった。だとすれば、容赦なく敵として殺すまでだろうな」
「明智光秀ですよ。そして、この時代の人間である藤堂高虎と坂本で戦った男です。ねえ、浅井長政の懐刀さん?」
ちらりと高虎の方を見る晴彦。先ほどより若干殺気が増した。
「しょ、正直こいつの言っていることの八割は理解しかねますが。某が坂本にて奴と戦っていたことは確かです。そして、弓の腕は悪魔のように強いという事も理解しております。長政様、味方を呼べない今、決死の覚悟を持って挑むしかないかと......」
「おい、味方が呼べないとはどういうことだ? すぐそこに浅井の軍が逗留しているはずではないのか?」
高虎のとっさの説明に秀介は疑問を覚える。大声をあげたりほら貝を鳴らせば味方の兵などいくらでも寄って来るレベルの距離だ。そうでもなければ陣の配置として間違っている。
「そ、それが......」
「俺たちが消したんだよ。もう浅井家は滅亡したんだからな」
高虎が説明を躊躇していると、晴彦の後ろからカラスが出てきた。それは、悪魔が降臨した時のようなどす黒さを醸していた。
「本当は、全員消してもよかったんだがな。お前に関わりが深い連中は取っておいた。目の前で死んでいった方が、お前の感情データを取りやすいからな」
カラスはさらりと大量殺戮を実行したことを宣言する。しかし、返り血がないという事は未来人としての特殊コマンドを使用したという事だろう。
「満腹と、茶々子はどうなんだ?」
苦し紛れに秀介が吐いた言葉は、残された息子と娘の安否だった。
「ここにいるよ。ほら」
カラスが右手に持っていた縄を前へと投げ出す。
「父上......」
「申し訳ありません......」
そこには縛られている満腹と茶々子がいた。
「お前ら! カラス、未来人というのは外道な者しかいないのか!?」
二人を見て、怒りゲージがマックスに達した秀介。手にしている槍に精神を集中させ始める。
「秀介様! カラスにその技は......」
夫が効くはずのない必殺技を打とうとしていることに気付いた叶は、全力でしがみついて止めようとする。
「離れろ叶! 物事にはなあ、たとえ無謀でも通さなきゃあならねえものがあるんだよ! ッグフ! それが、どんなに、苦しくてもなあ!!」
必死に叶を振り払おうとする秀介。少しずつだが、特殊技の青白い光が強く輝きだす。
「......これは、守るべき者の為に解放されし氷の魔術。その命を固定し、溶かし、我が力へと変換する悪魔の一撃......辞世の句でも詠んでおけ、『血みどろの氷結槍』! 親の怒りは、閻魔より深いんだよー!!!」
いつぞやの詠唱を唱え、秀介は氷の砲撃を槍から放つ。決戦の火蓋は、今ここで切り落とされた。
お待たせです。実験者たちをうまく歩かせるのに苦戦しています。まあ、地道にやります。