魔術と血縁
「ごきげんよう、カラス。貴方、遂にあの井田秀介を怒らせたみたいじゃない? あの人は全軍を挙げて大和を制圧し、そのまま雑賀を滅ぼすつもりよ?」
通信から聞こえてきたヒバリの声は、こちら側の危機を楽しそうにしているように彼を思わせた。
「情報を早く伝えるのはいいのだがよお。少しくらい手伝おうという気はないのかねえ。こちとらコマンド操作のメンテナンス中で手が回せないんだよお」
カラスは乱暴にパシリを要求する。例え本人にその自覚はなくとも、人にしてもらえることは当然のことだと振舞っているのだ。
「ふふ。では、いいことを教えてあげるわ。浅井軍はもう郡山城にまで迫っている。そして、織田は現在東西に敵を抱えていて大和に手が回っていない。最初から力を開放し過ぎたあなたの自業自得だけど、もう最終手段で殺すしか手はないのよ?」
「あっそ。じゃあ、連中を殺す」
「相変わらず貴方は愚かね。私たちには彼らを管理する権限はあっても、殺す権利はないのよ。そして、対象者を殺すには二人以上の管理者の申請が必要。そして、今あなたに協力できるのはこの私だけなのよ」
不思議と、ヒバリの声には圧力がある。カラスの背筋は少しずつ凍り付いていく。
「申請に協力してくれる条件は、何だ?」
「ふふふ、そうねえ。一つは、この殺戮劇に一人ゲスト連れて行くことかしら。大丈夫、全部私が世話するから」
「......他には?」
「それは、その時に言うわ。楽しみにしててね......」
と、このように彼女の手のひらで転がされるような感覚を覚えたカラス。今まで抱いていたヒバリへの不信感は限界に達しようとしていた。
そこから約半日後、カラスはヒバリと共に郡山城の上に立っているのだが......
「ひ、ヒバリ!? いつの間にその男を自分の膝の上に? てっきりこいつも歩いての登場だと考えていたのだが!?」
先ほどまで、リョウの姿は無かったのだ。
「愛の力、と言っても信じてもらえないでしょうね。愛ゆえに、己のリソースを躊躇なく裂いていると言えば納得してもらうかもしれないけど」
「......」
日頃より減らず口を叩いてきたカラスであったが、今回ばかりは絶句している。
「さてさて、将来私が義姉となるお二人さん。このカラスが貴方達をこの戦国から脱落させようとしています。そして、私は交換条件を出してそれを受け入れました。すみませんが、ここで一度死んでください」
カラスとのやり取りにより置いてけぼりになってしまった秀介と叶に対し、追加説明をヒバリは行った。状況を改めて確認した秀介は一度驚愕で止めてしまった警戒を再開した。
「そのヒバリとやら、お前がこのカラスに協力するのは非人道的研究を行うメンバーの一人とみなしていいのか?」
「秀介様、何故わざわざ再確認するのです? 私たちを殺そうとした時点で明らかのはずなのに」
叶は秀介の袖を軽く掴んで質問する。
「いや、なんとなくだ。この女は戦国に興味がないように見えたから」
秀介は若干言葉を濁らす。
「ったく、ヒバリめ。余計な演出入れやがってよ。んじゃ、そろそろ本番だ。最高の殺戮劇を見せてくれよ、太祖の親御さんよお!!!」
ようやく我に返ったのか、カラスが話の流れを無視して開戦宣言をした。その手元にある拳銃に精一杯のエネルギーを貯めながら。
またお待たせです。どうもうまく筆を進めるのが出来なくて。マイペースにやっていきます。里見レイ