郡山城にて
「......静かすぎるな」
大和の中心と言えるべき要所、郡山城。道中の小城を少しずつ落としていくこと一か月、秀介たち浅井軍はようやく大和討伐の山場へと差し掛かった。しかし、城の中には人気がない。
「高虎、周囲の人民に聞き込み調査をしてくれ。場合によっては撤退も考える」
「畏まりました」
秀介の指示に従い、近くにいた高虎はすぐに行動へと移す。
「先輩、体の具合はどうですか? 無理をしていないとはいえ、このままでは持ちませんよ」
「黒木、叶は俺が死なない呪いにかけられたと言っているんだ。逆に、いくらでも無理できて気分はいいんだけどな」
三郎の心配をよそに、秀介の悪人笑いに磨きがかかっている。出陣当初と比べ、体のだるさには慣れたようだ。
「さて。この辺でカラスのお仲間さんあたりが唐突に表れそうな気がするな。俺を苦しめる連中は高虎が離れたときに限ってやって来るイメージだし」
秀介はそのまま大きく伸びをする。フラグを立てているどころか、そうなるのだろうと諦めているレベルだ。
「先輩、来てほしいんですか? その敵対する輩に?」
「微妙。勝てない相手に戦いを挑むのも憂鬱だし、かと言って出会わなければ何も解決しないからな......」
「......」
何気ない二人の会話だが、内容はかなり残酷だ。秀介は完全に受け入れているが、三郎の方はまだ消化しきれていない。
「父上、母上よりお話の儀があるとのこと。陣中にお戻りください」
会話が途切れたすきを見て満腹登場。そう、この子も高虎と入れ替わるメンバーの一人だ。
「......分かった。先に戻ってすぐ行くと伝えてくれ」
渋い顔をして秀介は答えた。
「畏まりました!」
満腹は張り切って立ち去る。秀介が二つ返事だったことを喜んでの行動だ。
「......あいつもまだ子供だな。満腹は俺の呪いも知らないし、叶との新たな軋轢も知らない。ったく、子を持つ不仲な両親とは胸が痛い物よな」
「先輩、成川さんとはもう仲良くしないのですか? 彼女はまだ先輩を支えるつもりですよ」
ふいに漏れた秀介の愚痴に対し、三郎は静かに問いかけた。責めていない、しかし同情もしていない。自分が何をしても秀介の意志が変わらないことを理解した上で、それでも確認しておきたかった事柄だ。
「聞いただろ、あの女の特殊能力について? あの女は俺の周りにいる大事な人たちを躊躇なく殺していく。俺に残されるのは無力感と罪悪感、生きていることへの安堵などありはしない。取り残される回数が増えるごとに、俺にのしかかる使命と責任は増えていくことを成川叶は理解できないんだよ。絶対にな」
大和に吹き荒れる西風は、強まる一方だった。
コツコツやっていきます。