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5 諦めない勇者たる者の所業

 <ドン‼️> と、俺は激しくテーブルを叩いた。

 このままじゃ駄目なんだと。


 なにもかもがおかしい、どんどん魔王っぽくなっていく。見た目はただの若造なのに、暮らしの全てが完全に魔王。真の勇者として今俺が成すべきことはーー


 そんなふうに考えていた。




「真の……勇者、ですか?」


 まずは幹部たちを集めて胸の内をさらけ出す。

 魔王なんてまっぴらだ、俺はいつまでも人々の心に真の勇者として在り続けたいんだ! と。


 笑われた。


「なにを仰います、魔王様。真の勇者などと……あなたは立派な魔王様ですよ」


 人の話聞いてんのか。

 勇者がいいって言ってんだろバーカ。


「魔王は力……そんな時代は終わったのです。美味い食事を私どもに与えて下さり、やりたい放題できるだけの金銭をも与えて下さる素晴らしい真の魔王ーー」


 もういいわ、喋んな。


 溜息でそう告げたあと、俺は無言で席をたった。





 一言で言えば、めっちゃ暇。


 勇者の肩書きをつけて風を切って歩いていたころは、毎日がパラダイスだった。

 女、酒、娯楽、なにより、どこへ行っても「勇者様、平和な世界をありがとう!」と、感謝の気持ちをこれでもかというほど浴び続ける毎日。


 思い返してもヨダレが出るくらいの日々だった。


 なのに今は魔王。城持ち、金持ち、手下持ち。

 勇者に刈られる妄想に怯える日々ーーもう嫌だ。

 

 俺は密かに決意する。




 仲間二人を連れて、見るからに貧しい村へとやってきた。「俺は真の勇者に戻るんだ!」その決意が己を動かした。


「え……! こ、これは……!?」


 村長は生涯見ることのないであろう札束を前にひっくり返った。


 現金1億ギル。


 そう、決意の正体は『募金』である。

 貧しい人々を救う、これすなわち勇者の所業。


 村長や村の人々から出た感謝の言葉に、久しく味わうことのなかった心地好い満足感が全身を襲い、笑顔とヨダレが止まらない。


 ヤバい、募金マジ最高。


 気を良くした俺は全ての幹部を呼び寄せ、手当たり次第に村や町を見つけては募金に奔走した。


 溢れ出る充実感。

 ふきこぼれる満足感。


 俺は、効率を考えて二手に別れた。

 「より早く、より募金を!」と、正義感まる出しの顔で取り仕切っていった。


 俺の中では完全に勇者だった。

 


 一ヶ月後ーー



『魔王、ついに町単位で買収! 次々に各地で魔王のダンジョンが建設中!』ーー19時より緊急生中継!



 ある日のテレビ欄。

 俺は新聞を真っ二つに引きちぎった。


 慌てて幹部たちに話を聞くと、募金のために現れた自分たちに恐怖した村人は、全員が故郷を捨てて逃げ出し、そのまま廃墟へ。

 ありがたく募金を受け取った村は、感謝の念が尊敬に変わり、やがて崇拝にまで達し、俺を崇めるあまり町を潰して城っぽいダンジョンを建設中とのこと。


 俺が勇者の所業として駆けずり回った募金活動は、廃墟とダンジョンだけを残す結果となった。


 なぜ上手くいかないんだ。

 勇者どころか、元村人の肩書きを持つ手下と相応のダンジョンが増え続ける一方だ。


 俺は頭を抱えた。





「魔王様! 魔王様ッ!!」


 キングサイズのベッドを五つ並べた寝室で熟睡している真夜中、突然、幹部の一人に起こされた。


「うるせぇな……何時だと思ってんだよ……」


 目を擦りながらそれだけを言い残し、またフカフカの布団に転がり込む。

 なんの用事か知らないが、地震速報みたいな緊急事態でもない限り起こされるのはまっぴらごめんだ。


「間もなく勇者一行がこの城へ到着する模様です!」


 緊急速報やないか!


 俺は慌てて飛び起きた。



 真夜中に緊急会議を開き、いかに円満にお帰り頂くか、勇者一行への手付金はいくらにするか、全員で話し合った。


 「いざ勝負!」と、いきり立つ幹部はもう放置して、とりあえず心の準備も逃げ出す準備も整っていないため、ひとまず各地に聳え立つダンジョンのほうから先に攻略して頂く案で可決した。


 幹部の一人が勇者の元へ赴いた。


 「頼む、上手くいってくれ!」そんな願いを込めて俺は布団の中で丸くなった。

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