4 なんだか暮らしが魔王っぽい
俺は各地で様々な職の人種をかき集めた。
その数、ざっと二十人。大丈夫、幸い俺の正体はあの戦士にしか気付かれていない。
いつでもこい、変態戦士。真の勇者が返り討ちにしてくれる。
俺はその後も強気に豪遊を繰り返した。
「申し訳ございませんがーー」
ある日のこと。
高級ホテルにチェックインしようとした際、フロントで言葉通り申し訳なさそうな顔でやんわりとお断りを入れられた。
俺は咄嗟に引き連れている人数のせいだと思い、真の勇者らしく笑顔で対応した。
「ははっ、そうだよな、ちょっと多過ぎたわ! じゃあさ、一番大きな部屋だと何人くらい入れるんだ?」
うーん、神対応。
「あの、そうではなくて……。申し上げにくいのですが、魔王様をお泊めすることはできません」
魔王……? なに言ってんのこいつ……?
しかし俺には思い当たる節があった。あの髭だ。
あの腐れ国王、金だけもらっておいてあの戦士の方に寝返ったのだ。それしか考えられない。
王が全世界に発信したのだと悟った俺は、無駄な抵抗はよそうと無言でホテルをあとにした。
次第に人々の視線が変化しつつある。俺を見る目が猜疑心の塊のように感じるのだ。
金に釣られて俺の護衛を買って出た強者たちも今や六人にまでその数を減らしている。
その仲間たちでさえ、いつの間にか俺を呼ぶとき、なぜか『魔王様』になっている。
マジでやめてくれ、望んだ称号と真逆の名称で俺を呼ぶな。
俺は次第に人々の視線から逃れるように人気のない山奥へ身を移した。
◇
息子は現在、人々から魔王と呼ばれている。
日夜テレビや新聞で目にする『現魔王! 元勇者と元魔王を買収!』の見出し。それに伴う人々の嘲笑。
そんな気分が上がらない日でも、少なからず来店してくれるお客様。いつも通り「お元気で」と、口からこぼれるが、「ご主人もお元気でね」と逆に気遣われる毎日。
ああ、息子よ、なぜ宿屋の息子であるお前が魔王になってしまったんだ……! そしてなぜ、そんなナイスなスキルがあるなら父さんの借金を返済してくれなかったんだ! 息子よ、今からでも遅くない。帰っておいで。そして父さんの借金を返済して二人で豪遊しようじゃないか。
父よりーー
「……アホだろ」
懐かしい父からの手紙だったが、最後らへんは露骨に自分の願望を書き綴った欲望溢れる内容だった。
こんな誰もいないような山奥に豪華な宮殿を建てて早一ヶ月、今では完全に真の勇者の称号は皆の認識から外れている。
世間は言う。『魔王、新たな城を作る!』と。
しかしよくよく考えてみると、俺って、辺境の地に城を建て、幹部とも呼べる強者を六人ほど引き連れ、人々から恐れられ、俺を懲らしめようとしている戦士を返り討ちにしようとしている。
完全に魔王じゃん。
魔王の所作そのものじゃん。
しかもその戦士たち一行が新たなる『勇者一行』と持て囃されている始末。
こんなはずじゃなかったと、一人、玉座に腰をかけて項垂れた。
「魔王様、こういうのは如何でしょう?」
すっかりその名称にも慣れ始めたころ、幹部の一人が唐突に片膝をついて提案してきた。
「勇者はいずれこの城にも攻め込んで参ります。魔王様のスキルを用いて、勇者やその仲間たちの最強の武器や防具を宝箱に詰め、機嫌を取るというのはどうでしょう?」
確かに、俺はただの宿屋の息子。
最強だろうが激レアだろうが、俺はなに一つ装備することはできない。
あの戦士と戦うなんて絶対できない。剣や魔法以前にワンパンで死ぬ自信がある。
だったら機嫌を取って、あわよくばそのままお帰り頂くのが最高なんじゃないだろうか。
俺は幹部の提案を即採用し、大金を持たせて武器や防具を買い揃え、城の至るところに宝箱としてこれ見よがしに並べ立てた。
そして気付いた。
だからダンジョンや城に宝箱があるのだと。
偶然だろうけど。