表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世紀末でも屑はクズ  作者: パクス・ハシビローナ
じぱんぐおぶあす
83/93

問題児と眠り姫


「「「おーえす!おーえす!」」」


おーえすって一体どういう意味なんだろうと思いつつも、私は丸太4本を皆で牽いている。


目指すのは山頂にある神社だ。トンぐらいありそうな丸太をロープで繋ぎ、浅い階段ながらも一歩一歩登っていくのはやっぱりキツい。


 私はおーうおーうと軍服の上に羽織ったハッピをなびかせて、先頭で子供たちと引っ張っている。


先頭にいかせてあげないと木がずり落ちた時に巻き込んでしまわないようにという配慮らしい。だから、軍人も生産部の人たちも後ろに陣取っているのだけど、なんで私だけ子供混じってるんだ。


 もしかしたら、最高司令官が事故で死んだら不味いから配慮してくれたのかもしれない――。そう一瞬思ったけど、ザポロージャンが一番後ろにいるので、やっぱり子ども扱いをされているんだ。クルヴァ。


 まあ、いいさ。もう、いいさ。子供に混ざるのも悪くはない。以前よりもずっと志願する子供も多くなったし、先導しやすい方がいいだろう。


 それに、人数は多い方が楽しいし、楽だ。その証拠に、以前より歩調が合っているのも手伝って日が夕陽にならないうちに山頂へと到達。前みたいにバテる前にどうにかなったので、万々歳だ。


 「神様を立てるぞー!」


 私の声と共におうと掛け声があがり、ロープをうまいように引っ張って神様の出来上がり。立派な柱になった丸太が4本、天を突く。バンザーイと万歳三唱の歓声があがった。

 そりゃあ、何百メートルっていう山道を登って運んだのだからその喜びもひとしおというものだ。

 

 私も私で、私たちの運んだものが神様になったということに複雑ながらも不思議な感動を覚えていた。でも、去年立てた丸太はどうやらもう神様ではなくなるとのことで、そこもまた不思議。


 とりあえず、捨てたところに柏手を打ってやる。頑張ったな去年の私。


 神官代わりの守山さんが締めの唄(おそらく聖歌みたいなもの)を歌い、


「それでは、お手を頂戴――」


 そんな決まり文句をいって、いよーっと、皆で手を何度もシャンシャンたたいて、一本締め。いまだにこの儀式はなんなのだろうと疑問に思うが、皆怪我なく終われたので万々歳だ。


  来年も無事に終わればいいな――。


「よし!じゃあ、直会といきますかー!」


 谷澤さんのその言葉と共に皆から歓声が上がる、祭りの儀式が終わった後は打ち上げをするために近くの湿原にある神社に向かう。祭りの後の祭りをやるのかとまた不思議なものだが、皆これが本番だと思っているような節がある。お酒とかジュースとか、焼き肉とか豪華なものってこういう時にしか飲み食い出来ないもんな。

 

 私も御馳走は大好きだ。皆で談笑しながら山を下りて、またお馬さんたちに引っ張っていただいて、神社近くの会場へと向かった。 


 着いた後は、飲めや歌えやの大騒ぎ。ザポロージャン率いる男どもはお酒をじゃぶじゃぶ飲んで、いろいろ騒いでいる。あー、またザポロージャンが変な格好してドジョウ掬いを踊ってるよ。

 皆手拍子して楽しんでいるけど、10歳から一緒にいる私からしたら、なんだかこっ恥ずかしくてあまり見ていられない。お酒を飲んだらあれも本気で楽しめちゃうんだろうなと思うも、私は未成年なのでリンゴジュースを舐める。


「あー、リンゴジュースうめー……!」


 甘酒ぐらい飲んでやろうと思ったが、前にお酒を飲んでしまった時に牛と踊っていたと聞かされた以来、毎回果汁100パーセントジュースを出されているのである。


 だから、仕方がないので、私は大人しい組の人と混じって御馳走を食べている。そういう人らもだいたい友達で固まっていろいろ身内話とかで花を咲かせている。あるある話があるわけでもないので、私はたまに振られる会話に参加する以外はパクパクと目の前のものを食べているのだ。


 花より団子ってやつかな。子供たちは花とか団子より、会場の外で鬼ごっこやかくれんぼすることにご執心で元気なことこのうえない。可愛い。


 そういえば、天の岩戸っていうところから神様を出すために、歌ったり踊ったりしたという神話を守山さんから聞いたことがあったけど、これなら確かに出たくなるよなと子供たちを肴にしてみた。美味い。


「クフィアトコフスキさん」


 それでも、何にだって例外はあってしまう。呼ばれて振り向くと、この場に似つかわしくない機嫌の良くなさそうな顔をしている問題児がいた。


「ああ、月見里か。もうそんな時間だったけか」


「はい。もう最大限ここにいました」


 もうぶっきらぼうすぎて清々しいくらいの態度だ。もうどこにも関わりたくないといったように目線を外していて不遜な態度を取りまくっているが、察するところはあるのであまり強くは言えない。


「そうか、なあ、お菓子とかもあるから、もうちょっと楽しんだら――」


「いいです。早く連れて行ってください」


 相も変わらず目上の人に対しても、生意気な態度をとってくる。ザポロージャン以外、あまり文句を言わないのは、彼女の生い立ちだとか事情に同情してしまっているせいもあるだろう。でも、ちょっとぐらいは怒っておかないと、ダメだろう。大人として。


「月見里よ、もうちょっと皆に対して敬意をもってほしいな」


「ええ、祭りに参加するというあなたたちの約束は守りました。それが私の示せる敬意です。早く連れて行ってください」


「うっ、筋が通ってる……!」


 ああ、言えば、こう言うお年頃だった。思春期の女の子って、ほんとうに扱いに困るな。ザポロージャンも私の扱いに苦労していただろうなと、感慨深くなる。


「仕方がないな。ちょっと準備するから待っててな」


「はい、先に馬のところまで行ってますね」


 そう言って、問題児もとい月見里結衣は颯爽とシロマルのところへと向かった。まあ、約束を守ってくれたのは嬉しい。宴会を抜けるのはちょっと名残惜しくも、自分の好きな料理をつまんでからザポロージャンに報告して月見里を連れて行ってやることにした。


 

 ここからは本当に遠い。いや、距離的には近いけど、月見里はもう一切喋ることもなく、空気が重くなりすぎて気まずくなってしまうからだ。


「……学校は楽しいか?」


「強制連行されているので、楽しいですよ」

 

「……そうか」


 荷馬車がドナドナ鳴っているような気がした。気まずい。何かいい話題はないもんだろうか。彼女は気にすることもなく、つまらなさそうに景色を見る。


「――!このあたり景色はいいだろう。放牧地とか畑とか――ありきたりなものばかりだけど、見下ろす形になるから伸び伸びとした気持ちになる、よね?」


「……ありきたり、ですね」


 天気の話の仲間でも駄目だった。いっそのこと、天気の話をしてみようかとは思ったけど、ちょっとだけ月見里の声色に耳が引っ張られたような気がして気になった。手ごたえってわけじゃないけど――。


 そういえば、月見里たちが以前どんなところに住んでいたのか聞いたことが無い、前にそれとなしに聞いたことがあったがそれでも今のような複雑な表情に無言を貫いていた。


 そんなにも酷いところだったのかとそれ以来あまり聞かないようにしていたけど、月見里の殺伐とした雰囲気と言い眠り姫といい、なあなあで済ませるのもやっぱり駄目なんじゃないのか。


「二人でこういう景色を見たりしてたのか?」


「……一度もありません」


 あっ、まずい、空気が重い。ちょっと声が重い気がする。やっぱり、触れてはいけないものだったのか。でも、それもちょっとだけ誤解だったようで、


「でも、景色はよく見てました。つまらない時にはよく」


「へへ、そうか」


 少しだけ温かい声で呟くように言う。皮肉っぽいけど、少しだけ前進だ。


「二人でまた見れるようになれるといいな」


「……うん」



 あっという間ではなかったけど、目的地に到着。


 古い木造の施設だが、れっきとした病院である。(以前、無理やり飛び降りようとしたことがあったので)月見里を先に降ろしてやり、シロマルをひと撫でして鍵を取り出して


「鍵開けるから待っててな」


 そう言って、私は鍵を開ける。あまり使われていないから、ギギギと軋んで開けにくい。いつかここも直してもらわないといけないな。


 病院と言っても、医者はたまにしかこっちの病院に来ないし、患者は一人しかいない。


 開けるや否や月見里が猫みたいに飛び込んだ。あっ、待てコラ、と言いたいところだが、唯一の家族に会う時ぐらいは大目に見てやらないとだめだろう。脱いだ靴はちゃんと揃ってるし。


 私も兄弟姉妹みたいに靴を並べて、病室へと入る。


 病室に入ると月見里はもうすでにベッドに横たわる眠り姫に引っ付いていた。 


「元気だったか」


 私も横たわる彼に話しかける。顔が綺麗な包帯に覆われているのに、どうやって返事をするのだろう。

 そう言いそうになるときがあるけど、月見里の表情を殺した顔を見るとバカなことを考えてしまったと後悔する自分がいる。


「今日はな御柱祭があったんだぞ。今年は月見里も参加してな楽しんでたんだ――。本当だぞ? 来年もあるから、ねむり――君も早く目を覚まして一緒に丸太を引っ張ろうな」


 だから、私はちょっとだけ彼と話してしまう。返事もないのに、返事代わりの呼吸もないのに。この時だけは、月見里は口を噤んでいた。そうはいっても、彼の手を縋りつくように握りしめることに終始しているだけ。


 今日も何の反応はなくて、体はあいかわらず人体模型みたいに固まっている。脳電図がピッピッといつもの調子を弾ませる程度。本来なら死んでいる状態だと、いろんなお医者さんがいっていたのを何度も何度も分からされるぐらい。

 

 素人の私から見ても、呼吸もせず、食事も取らず、排せつもせず――おおよそ、生き物が生き物であるための行動を一切とっていない人間を見たら死んでいると思う。

 

 でも、脳波もあって心臓も動いていて体温もあったら、生きているに違いない。だから、私は彼を見た時、子供のころ父と見た絵本の眠り姫みたいだと思って、私はその名前で呼んでしまっている。


 いつか、目を覚ましたら名前を聞いてみたいな。一度月見里に聞いたけど、「言いたくない」と悲痛な顔をされたので今だけはこの名前で呼ぶことを許してほしい。


 いつになったら、目を覚ましてくれるだろうな。まるで時間が止まっているみたいだと最後に彼を診察したお医者さんが言っていたのを思い出す。

 

 もうこれで一年経ってしまったのか。ボーンボーンと、壁に備え付けられた時計の振り子が揺れた。


「もうそろそろ帰るか?」


「いやです」


「そうか、じゃあ、今日もぎりぎりまで――?」


「……」


 うわっ、力強く頷かれた。問答無用に帰りの時間までいさせられるな、今日も。いつものことだし別にいいけど、今日の晩御飯にご馳走の残りとか入っててくれないかなあ。今日のお風呂はリンゴ風呂だって言ってたから長めに浸かりたい。まあ、いいか、月見里も引き連れて楽しませてやる。


 私もそれまでは一緒に眠ってるぞ、眠り姫――。



「……ちょっとトイレをお借りします」


「おーう、トイレは出たところの左手の奥にあるからな」


 ただ、今日は違ったようで、漏らしそうな月見里がそそくさとトイレへと向かって私一人になった。いや、多分始めてだったはずだ。


 医療機器とベッドしかないのは、やっぱり殺風景だ。だから、私も眠り姫の傍に座った。また夜になったら一人になるのだから、2人きりの時間を楽しんでくれ。


 そっと、手を掴んでみた。思った通り、ごつごつとして馴染む温かみ。


「どおりで、月見里がずっと握っているわけだな」


 ふてぶてしく眠っているお前に、私は一体何を思えばいいんだろう。そりゃあ、一年間も一日も欠くことなく可愛いあの子に酷い顔をさせるのだから怒りの一つも湧いてしまう。でも、ザポロージャンが同じようになってしまったら、私だって塞ぎこんでしまうだろう。それが、13歳の子ならなおさらだ。


 それとなく、私は手をにぎにぎとしてみた。どうして、こんなにも触り心地がいいかな、お前。


 大柄で筋肉質みたいなのには、私は弱い。それに傷だらけとなれば、申し訳ないが効果はバツグンだ。医者によると、運び込まれたときには野犬に食い散らかされたようだったと聞かされた時は、恥ずかしいことに一度お目通しさせていただきたいと思うぐらいには。


 このがちがちに固められた包帯の中にあるのはきっとカッコいいやつなんだろうなと、月見里に聞いたことがあったが、『ううん、一目見たら気持ち悪いと思わないといけないぐらいの胸糞悪い顔――だって、言ってた」と真顔で言われた。彼の中身には秘密しかないのか。


 だから、月見里に彼との関係性を聞いたときに、『分からない』とむず痒い顔をしているのかと思った。

 

 でも、つい顔を見たことがあるのかと聞いてしまったときは、『言わない』と目を泳がせていて、私はいつも振り出しに戻らされるのだ。さっさと目を覚ませ、バカ。



「――あっ」


 気付いたら私は彼の手の甲に口づけをしていた。


 びくりと震えたのはきっと私だ。なんで、こんなことをしてしまったのか、変に胸が高鳴っていて五月蠅い、やかましい!

 

「ヤドヴィガさん」


「あっ!なんだ、すまない!」


 幽霊みたいな月見里の声に、私は飛び上がって椅子から離れる。心臓に悪いな、これ。


「……ちょっと来てくれますか?」


「――お、おう、いいぞ」


 もしかして怒っているのかと身構えたがどうやら違うみたい。なんだか、深刻そうな声に私は早々とトイレに向かった。 

 そうすると、トイレのドアから顔だけ出している月見里がいた。何か深刻そうな顔だった。


「どうした?紙でも切れてたか?」


「いえ……何か抑えつけられる布みたいなものはありますか?」


「それなら……あっ、ああ、ちょっと待っててくれよ、ちょっどだけだぞ!」


 初めて見た月見里の恥ずかしそうな顔に、自分の察しの悪さに気付いて一目散に病室へと戻り、ナプキンをひっ捕まえて戻る。

 

「使い方は分かるか?」


「見たことはあります。大丈夫です」


「分かった。傍にいるから、何かあったら言ってな」


「特に必要ないです。ありがとうございます」


 定型文をそのまま言ったような感じで、ドアをぴしゃりと閉めきった。私だって、そうするよなと、でも一人にするわけにもいかないので座り込んだ。



 一時、頭がカクンカクンと眠気に揺れるほど待った。でも、出てくる様子はない。初めては皆そんなものだろう。


 ただ、聞き馴染みのない音が漏れてきていた。


「大丈夫かって聞くのもおかしいよね……」


 勝手に踏み入るのも悪いと思いながらも、ドアに耳をつけてみると――すすり泣く声だった。年相応の子供の泣き声で、私はいてもたってもいられなくなった。


「――っ。入るぞ」


 中に入ると、月見里はまだナプキンを手に持ったままで、さめざめと泣いていた。私は思わず抱きしめた。


「はい、はいら――ないで……」


「大丈夫。大丈夫だ」


 震える体を揺らすようにして抱きしめた。あまり良くない行為かもしれないけど、気丈にふるまっていた彼女の小さな心が見えたような気がして抱きしめずにはいられなかった。

 

 月見里の身長に負けてしまっているので、物足りなさはある。一年前よりも大きくなったんだな、この子は。それを今更ながらに知ってしまった。


 月見里は嗚咽を漏らさぬように私の肩を噛んで痛かったけど、泣き止むまでずっと抱きしめた。


 

 そうして、ひとしきり泣いて赤い顔の出来上がった月見里にナプキンのつけ方を教えた。人に教えるのは初めてだったので、少しまごついたけど、次回からは多分大丈夫だろう。ありがとうと消え入りそうな声で言ってくれて、私も顔が赤くなった。

 

 ボーンボーンと時間を告げる鐘が囃し立てるけど今は知るかボケ。



※ ※ ※


「ああ、甘さが身に染みるぅ」


「……ですね」


 病室に戻った私たちは、タンポポコーヒーを飲んで冷え切った体を温めていた。私も月見里も苦いのは嫌いなので、ハチミツと牛乳たっぷりにしておいた。子供くさい味だけど、やっぱりこれが一番。


「あの……ありがとうございました。手伝ってくれて」


「いいんだ。最初は皆戸惑うもんさ。私も病気なのかと泣いたから気持ちはわかる」


 私なんか訓練中に始まってしまって、訳も分からなかったから誰に言うことも出来ずにトイレにこもって泣いてた身だ。世が世なら軍法会議ものだが、あの時色々察して追いかけてきたザポロージャンには感謝しかない。

 

「ヤドヴィガさん」


「ん?」


「これで、私も大人になってしまったっていうことですよね……?」


 月見里はコーヒを抱いてそんなことを言ってきた。私の時と同じ不安げな声で。


「いや、まさか、まだまだ教育と栄養が足りん。これから、いっぱい学校に行って給食をモリモリ食べて心と体を成長させなきゃ大人にはなれないよ。だから、大人にちゃんと頼ればいいさ。私見たいなな!」


 それこそが国民の義務だ。国民っていう概念が今も存在しているかは――まあ、推して知るべしだけど。今は、正直考えたくない。


 月見里は私をどうしてか上から下まで見て、


「……ヤドヴィガさんは年上だけど、まだ全然大人に見えないですよね」


「おっ、コラ、流石に石の上にもいれるぐらいの経験値はあるぞ」


 だから、私は大人の赤ちゃんだと力こぶを作ったら月見里が噴きだした。私も噴き出してしまった。実年齢よりも低く見られがちだからな、私。ああ、でも、はじめて月見里と話せたような気がする。


 ぬるくなってしまったコーヒーを飲み干すと、ボーンボーンと門限直前の鐘が鳴った。残念ながら、リンゴ風呂は当分お預けだ。いいさ、また入れるんだし。


「コーヒーごちそうさまでした」


「おそまつさま。洗っておくから、最後に挨拶してやりな」


「うん」


 一つも二つも変わらない。コップをちゃっちゃっと洗面台で洗って元に戻すと、月見里は眠り姫の手を撫でていた。


「お――――」


 声が出かかっているのを止めるほど、いつもよりすごく丁寧に撫でていた。じんわりとした笑みを浮かべて、安心したようなというか不安そうというかほの暗さのようなものを感じてしまう。


 いや、それは考えすぎだなと、自分の頭を振った。


「もう帰るぞ。また明日――は無理だけど明後日会いにこような」


「……はい」


 私は月見里を家に送った。道中、最近の状況とか世間話程度のことを話して、門限近くになってしまったことを月見里を預かってもらっている一家に謝り倒してすっかり遅くなってしまった。

 

 今日の見回りは他のやつがやってくれているから、問題はないか。頂いてしまった飴ちゃんを頬張ってそんなことを考える。

 

 おやすみなさいと月見里たちに手を振られ、私もブンブンと手を振って帰路につく。ただ、どうして、月見里の手を振る姿を見て、その手が止まった。



 あれ?どうしてだろう――。

 

 どうしてか、月見里の手を振る姿を見て、何かズレがあるような気がした。私はその正体を知る前に、暗闇の中に入ってしまった。




 明くる朝、眠り姫が目を覚ました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ