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世紀末でも屑はクズ  作者: パクス・ハシビローナ
らすとおぶあす
59/93

早朝の臭い

一応、近日だよね……?

 

「朝か……」

 

 瞼の厚みが薄くなった感覚に目を開けると、昨日見た凸のように歪んだ天井が同じ色をしてあった。


 しかし、あったはずの月見里の手の感触がなかったので、恐る恐る隣を見てみるとだらしない恰好をして眠る月見里がいる。今までにない崩れ方で、きっと相当疲れていたんだろうなと思う。


 一方、東台はいつも通りの恰好をしているので、脊髄反射で目を逸らした。


 今は何時だろうか。残念ながらポケットにあった時計は、川かどこかに流されてしまったようである。

 しかし、冷えた土の臭いから、どうやら早朝であるらしいことは分かる。また無駄に早起きしてしまったようだ。


 寝足りない感覚はあるが、早朝の肌寒さで目が冴えてしまう。それならじっとしておこうかと思うが、散らかった少女たちの鑑賞会をしているような構図になって気まずい。


 しばらくは、起きてこないだろう。外で待っておこう。そんな風に思い、静かに外へと出た。


 外は予測通りの薄い空が覆っている。山の方は未だ星がはっきり見えるぐらいの真っ暗闇で、ビル方面だけが赤く燃えていて太陽の端っこがチリチリと燃えていた。 


 おそらく、あれが日の出というのだろう。初めて目にしたものだが、見た目的に日の入りのようにも見えて感動的なものはない。


 しかし、そんなものをぼうっと見ていると多少の感情は湧き上がるもので、寂しいというか空しいというのか温かくない感情が芽生えている。


 いや、それは日の出のせいではなく、まとわりつく空気のせいで、早朝に起きない理由の一つだ。

 早朝の肌寒い風が、体の中に沈殿した空気を入れ替えているようなそんな感覚を味わっているが、それが無性に寂しくなってくる。


 普通の人はこれを素直に清々しいとありがたがるのだ。変なところで繊細さを出すのは、いい加減やめてほしい。


 もう夏も近いくせに、ビルに張り付いた窓の輪郭が弱々しく光っているのを見て、朝が遠いのを思い知らされる。

 

「長い時間になりそうだな……」


 昨日よりもずっと穏やかで真っ平な川が流れている。


 そういえば、ここがどこだか分からなかったのだ。今更ながらに思い出して、余計に気分が重くなってしまった。

 

 もう今更そんなこといいかと、ぼうっとしてみたけれど雑念が次から次へと湧いてくる。

 本当に、途方がくれる。一体何をすればいいのかと。


 本が無くなって、もう街に入ってもどうしようもない。そもそも手に入れたとして、大量の物資を得た後、その後はどうすればいい。それさえもまるで考えていなかった。


 結局、芋の作り方も知らないこちらにとっては、食料の作り方も分からない。それを聞くことが出来るなら、今頃もぬけの殻になった街をぼんやりと眺めてはいなかっただろう。


「クソ。見様見真似でもいいから、芋でも作っておくべきだった」


 そういえば、昨日東台の行きたい場所に行くと約束したはずで、まだその場所を教えてもらっていなかったことに気付く。ああ、腹が立つ。どうしていつも、後回しにする。


「――――」


 いろいろな考えと感情が巡り巡り、弱々しい腹の虫に落ちる。いろいろと虚しい。しかし、その空腹音が自分の腹の中でよりも後ろで聞こえてきたような気がした。


「月見里。もう起きたのか?」


「うん」


「起こしたか?」


「ううん、お腹がもう寝るのつまらないって」


 お腹をさすりながら、こちらの隣に座る月見里。そのお腹は未だにグーグーと弱々しく主張している。内臓も寝ぼける早朝だというのに、子供の新陳代謝は早い。


「流石にチキンもどき一切れじゃ足りないよな」


「いろんな意味で食べた気しなかった」


「そうだよな」


 彼女が起きたからと言っても、別に会話が出来るわけでもない。2人なんともいえない顔を晒して、川を眺めているのみである。


 こういう時は何故だか何か考える隙間も無く、景色を見ることに夢中になってしまう。しかし、今だけは焦燥感に疼いている。


 今、隣で小さく座る月見里は、一体どんなことを考えているのだろうか。


「なあ、月見里」


「どうしたの?」


「これから、どうする?」


 でも、何を聞けばいいのだろう。絞り出せたのは端的すぎる言葉のみだった。


 そんな言葉では通じるわけも無く、月見里は何とも言えない顔を膠着させたままで、ただお腹を撫でて口を開いた。 


「……お腹空いたから、何か食べたい」


「まぁ……確かにそうだよな」


 ある意味、正論である。正直、同じことを月見里に聞かれたら真っ先に出てくる言葉だと思う。俺も何かでお腹を膨らませておきたい。

 でも、今日もチキンもどきの一切れか。


「ねぇ」


「どうした?」


「あそこに行かない?まだ食料あったはずだし」


「あれは緊急用だからな……」


 勿体ないオバケの感性でそう口にしてみたが――――見たことも無い数の『あれ』に襲われて、物資を置き去りにして、命からがら逃げた果てに川に流された事は果たして緊急性がないと言えるのか。


 矢小間遊園地に帰れば物資はある。だが、仕事を失敗した手前、すぐには戻れる資格があるのだろうか。


「久しぶりに……お風呂も入りたい」


 月見里は不満げに言いながら、自分の服の臭いを嗅いでいる。表情から見るにあまりいいものではないらしい。


「そうだな。分かった。考えておく」


「水浴びならここでも出来そうだけどな」


「うへぇ、嫌だ。ここ汚かったじゃん」


「まぁ、確かにな」


 確かに、昔もここは汚かった気がする。緑色に染まってアオコ臭かったはずだが、今では無臭な透明色だ。魚も悠々と泳いでいそうだが、残念ながら底を見れるほど透明ではない。

 

「それに、この臭いも嫌い」


「ん、ああ、悪いな。距離は開けておく」


「違う。そうじゃなくて、この空気の臭い。田舎臭くて、なんかイヤ」


 煙たいものを浴びせかけられているかのように、月見里は嫌そうな顔をして鼻をさする。気持ちは分かる。


「ああ、そういうことか」


「ん、なに?」


「いや、この臭いも昔はなかったよなと」


「……私、このあたりに来たことなかったから、わかんない」


 そうか、道理で珍しいと思った。このあたりは少しだけビルが少ないような気がする。思えば遠いところまで来たものである。


 自分は地元から離れることはないだろうと思っていたのに、もうこんなところまで離れていたとは。


「まぁ、俺もこのあたりじゃないから自信ない」


「そうなの?」


「ああ……あのあたりにひときわボロいところがあるだろ。あそこはな古臭い安アパートが立ち並んでいて――――。そこに住んでた」


「へぇー。そんなのがあったんだ」


「まあな。だが、バイクで通ってきた道とあんまり変わらんから目新しいものじゃない」


「ふぅーん……あの時、弾込めに必死だったから、あんまり景色見てなかった」


「それもそうか。あの時も――ありがとう」


「お礼はいらない。運がよかっただけ」


「弾込めに運要素はないぞ。どちらかというと、あれはセンスだ」


「センスがあるのも運のうち」


「そういわれると、そんなもんなのか」


「うん、そんなもん……」


 そういって、再び川へと視線を戻す月見里。礼を言っても、素直に喜ばないのは誰に似たんだろう。

 今のだらけた彼女の姿を見ていると、チクチクと自分に刺さるところがあるので疑う余地も無い。

 

 そうして、多少の雑談を終える。否、終わるしかない。隣を見ると、月見里はうつらうつらと頭を揺らして半分眠っている。


「風邪ひくぞ。早くテントに……って、まあいいか」


 おいおい、風邪でも引いたらどうする。しかし、流石は月見里というべきか、既に寝袋を抱いて眠っており用意がいい。


「ゆっくり寝ろ」


 どうせ、朝は近い。安らかに眠る彼女をうらやましく思って、こちらも寝転んで眠ることにした。


 

 東台が起きてきたのは青い空が昇りかけた朝のことだった。


 陽キャっぽい東台が起きてきたので話に花が咲くかと思ったが、彼女も昨日の分じゃ足りなかったようでお腹を抱えてひもじそうにしていたので、テントもそのままにして朝食をとることになった。

 

「チキンもどき一切れ……」


 しかし、献立は同じ。誰も彼もこれにはがっくりと肩を落とすしかない。

 

「これなら、昨日のうちに全部食べておけばよかったじゃん」


「えへへ……ごめんね、唯ちゃん。2ついっぺんに出したら中途半端で皆遠慮して食べないかと思って」


 そう言って、気まずそうにこちらを見る東台。ぐうの音が出ない。多分、俺は食べなかっただろうな。

 

 それでも舐めた箸が苦い。そんな状況だが、良く言えば話すには絶好のタイミングではある。


「東台、月見里、聞いてくれ」


 悪く言えば、最悪のタイミングだ。口火を切ると、チキンもどきをガムのように噛んでいる東台と月見里が一斉にこちらを見てくる。


 東台とは昨日話したので、唯ちゃんにも言うのかなと興味深くこちらの目を除いてくる。

 月見里はあそこに行くのかと期待を込めた目をしていたが、目の端に東台を見つけるとすぐに複雑そうな目に変わった。あまり見ないでほしい。緊張する。


「どうしたの?」


「……ここまで3人、いろいろ苦労したよな。バカみたいに入り組んだ道を長い時間歩いたり、見上げたら首が吊るほど高いところを上ったり、暗闇に浸かったり――。何度も『あれ』に見つかりそうになったり、挙句の果てには数えきれないぐらいの『あれ』に襲われたり」


「一番しんどかったのは、高層ビルのところかな」


 そういって、東台はいたずらっぽく笑う。確かに、あの青息吐息は滅多に見ることはないだろう。虫の息と見まがうくらいなのだから、間違いない。 


 その時と同じ呆れた表情で月見里は東台を見るが、暗闇に沈んだ後のあの白く濡れた月見里の表情も滅多に見れるものではなかっただろう。もう二度と見たくも無い。

 

 しかし、その表情一つ一つが無駄になったのだと思うと、次に出てくる言葉が重くなるのも道理だと思う。


「ひとえに、本を手に入れるためで、その先の――大量の物資を得るためで……その本を川に流してしまった」


 口の中が乾いて、舌が上手く回らない。


 東台は当然分かり切った様子で何食わぬ顔をしていたが、月見里は形だけ目を丸くしているものの真顔で固められていた。

 

「フゥ、フゥンフゥン」


 月見里は何かを言うと、そのままテントに戻った。


 「唯ちゃん、どこ行くの?」と呼び止める東台を無視して遠くなっていく彼女の背中に、本を見つけ跳ね上がるほどに喜んだ彼女の表情が見えてしまう。


 そうもそうだ。せっかく、埃をかぶりながら血眼になって探し当てたものを失くされたのだから、怒っても仕方がないことだろう。


 テントの中にこもった月見里に追いかけるわけもいかず。声もかけるわけもいかず、。

 鈍い砂利の色に目を落としていると、すぐにテントを開く音がした。


「はい、これ」


 頭上から淡白な月見里の声があって、重たい何かを置かれた。


「――――あっ」

 

 本であった。


 ネコタチというタイトルがキラリと光る。川の底に沈んでいるはずの、あの本であった。


 あるはずのものが目の前にあることに驚きを隠せないが、最初に感嘆の声をあげたのは東台である。


「えー!どこにあったのそれ?」


「私のカバンの中」


 そう言って胸を張る月見里。これほど頼もしいものはないと、偉人のようにも見える。いや、伝説だ。


 本をめくると、全く濡れていなかった。ああ、そうか、今回の無謀な逃走劇の中、月見里は川に落ちた時のことも考えて行動をしていたのだ。


 もはや、この中にいる人間の中で、もっとも理知的な行動を取ったのは彼女ではないだろうか。

 俺がもっと考えておけば川にも落ちなかっただろうに。いや、やめておこう、今は彼女がいてよかったと感謝するしかない。


「また貸しが出来たな」


 しかし、月見里はそんなこちらを蔑むわけもなく、ゆっくりと首を横に振り柔らかで温めな笑みを見せた。


「ううん、私はただ掴まってただけ。あの時私を抱っこして泳いでくれなかったら、絶対死んでた。ありがとう」


 薄っすらと笑みを浮かべる月見里。昨日も今日も、よくありがとうと言われている気がする。その度に、お前は運がよかっただけだと言い返したが、ここまで言われ続けたら嘘でも信じたくなってしまう。


 それに、今までのよりもずっと深く優し気な声音に、もうそんな返事を返したくなくなってしまった。


「ああ……ありがとう」


「やったね。唯ちゃん!これで、お菓子とか飽きるほどじゃないけど……いっぱい食べれるじゃん」


「今はやめて、お腹空いてるから」


 感動的な雰囲気の中から、お腹の虫が3つ湧いてきた。どうして、いつもぶち壊しになるのだろうか。俺たちはシリアスになれない。

 

 そうして、精一杯噛んだものの、僅かな時間で朝食は終わりを迎えた。


 ツナの一切れに余韻に浸れるほどの余裕はない。胃袋に入った一切れ分の力でテントを片すこととなったが、そんなこと苦だとは思わないぐらいには浮かれていた。


 だからなのか、2人は動かなくていいよと東台が率先してやってくれようとしたが、すぐに3人の共同作業に切り変わった。流石、同じ缶詰をつついた仲である。


 テントをリュックサックに収めたころにはちょうど空が元の色を取り戻したときであった。


 3人背伸びをして眺めた川はどう見ても平坦そのもので、崩れた橋は見えてこない。


「ふぅー終わった終わった」


「それで道は分かるのか」


「うん、このまま川を上っていくと橋の方につくの」


「あっ、そうか、確かに流されたんだから、辿っていけばつくよな」


「ふふー、どうだ、わたし天才でしょ?」


「確かにな」


 歩き出せば、手をブンブンと振って歩き方もどこか勇ましい。河川敷の砂利道を歩いているのも合わさって、機関車にも見えなくもない。


 月見里のジト目を見れば、ただ単に東台が天狗になっていることは分かるのだが、いろいろと世話になった後だと頼もしい姿だと思う。むしろ、そういう風に接していてくれて、ありがたい


 しかし、行動がうるさいことには変わりないので、彼女から視線を外して周囲の景色を眺めた。空を見る限り、いつもは時計が鳴るころだ。


「変な気分だ……」


 不快感のない違和感が沸いて、そんな言葉が出てきた。長蛇の列を作る『あれ』がいない。


 平々凡々な家屋が並んでいるそのどこからも、『あれ』の姿はない。肌がピリ突くようなあの感覚も、どこにも無い。


 風が肌に溶けていくような感覚。のんびりとした空気感、あくびが出そうなほど。


 どこか覚えがある気がする――――。そうか、ずっと昔、学ランを身にまとって、自転車にもたれ掛かって押して歩いていた、あの頃に似ている。


 今は、もう大人で、見える街並みは完全な抜け殻になっているというのに、、今になってどうしてそんなことを思い出したのだろうか。

 

「あっ、見て、鹿がいる!」

 

 東台が興奮気味に指を指す。ぶんぶんと振り回して定まらない指先だが、そちらの方角を見ると川の向こうに茶色い塊が群れをなしているのが見えた。


 覚えたくも無い既視感に、一瞬身構えてしまうが、彼女の言う通り鹿であった。十数匹程度の鹿がこちらと同じ方向へと歩いている。


「鹿さーん!」


 ブンブンと手を振る東台に、つまらなさそうに鹿を眺める月見里。そして、首を伸ばして奇妙そうにこちらを見る鹿たち。


 角があったり、無かったり、斑点があったり、無かったり、大中様々だ、家族だろうか。こちらを眺められていると何だか可笑しな印象を受けてしまう。


 モールの子たちだろうか。自分は鹿じゃないので分からなかった。


「おーい!どこ行くの?」


「やめてよ、恥ずかしい。みっともない」


「いいじゃん。いいじゃん。誰も見てないし」


「いや、私が見てるから。共感性羞恥!」


「ふぅーん、なるほど。じゃあ、一緒に恥ずかしがろ。ほら、ほらぁ」


「わっ、うわぁ、はなっしてー!」

 

 共感性羞恥。そんな言葉、いつ覚えたのだろう。東台に自身の腕を掴まれ、ペンライトのように振り回されて、彼女の顔は真っ赤に灯った。

 

 見てるこっちもむず痒いような、恥ずかしいような。


 しかし、それほど恥ずかしいことをしていても、向こうにいる鹿は興味を失くしたかのように違う場所へと駆けて行って、だんだんとぼやけていって、小さくなっていく。 


 ポツンと残ったのは人間3人。


「ああ、いっちゃった」


「んぐぐ、もういいでしょ。離れて!」


「唯ちゃん。ごめん、ごめん。」


 やがて、完全に鹿の姿が消えて、ようやく、月見里は東台から解放されたらしい。

 苦笑いを浮かべる東台がいて、煩わしいそうに衣服の埃を払う月見里が隣にいた。


「また会えるかな?」


「泳いで、向こうに行けば?」

 

「うーん、それだとロマンチックじゃないからやだな。ま、二度あることは三度あるっていうし、気長に待てばいっか」

 

 二度あることは三度ある。三度目の正直というのもある。最後の橋が崩れたので、あの鹿たちは街を出られるのだろうか。


 こちらは、おもむろに頭に触れた。そこにはやはり昔の感触とは、まるっきり違うものがあった。


 頭に羽織っていた学ランも、まだ町の中をさまよっているのだろうか。




 そうもしないうちに、視界に崩れた橋が現れた。


 そして、すぐに通り抜けた。

 

 いともたやすく、住宅街を抜けた。聞こえてくるのは東台と月見里の談笑の他にない。


 そうして、町からも抜けた。その時には、ビル群も蜃気楼のようにぼやけていった。


 やがて、町の端が切れ、森になったところに到達して、出発前と同然の状態をした愛車を見つけた。


 その頃には昼になっていたけれど、行きは夕方まで掛かっていたというのにあっという間だ。東台のおかげだ。


 まさに道の終着点。だというのに、満足感は沸かなかった。


 だからか、朝食に食べたツナの一切れが胃の天井にへばりついているような不完全燃焼感を抱えながら、街がある方向を理由もなく眺めている。


 東台は東台で街を眺めて、気持ちのいい伸びをしていた。


「ふぅー、やっと、終わったね」


「ああ、そうだな」


 しかし、残念なことに木々が邪魔をしてこちらからも東台からもビル群は見えてこない。


 そのためなのか、月見里は興味も示すこともなく、さっそくとばかりにバイクのシートに座り込んで、地図を見ていた。見ている場所は想像がつく。


「休憩が終わったら、荷物とか片しといてくれ」


「もう荷台の方に入れといたよ」


「そうか、じゃあ、俺だけだな」


 こちらはバイクに戻る。もう、ここに留まっていても仕方がない。 


「月見里。どっちに荷物を入れた」


「ん、左の方」


「分かった、一緒に入れとくぞ」


 そういって、パニアケースを開けるとぺったんこになった月見里のリュックサックがあった。申し訳程度のふくらみは本だろうか。この()()ぐらいは、純粋に喜ぶことにしよう。


 それ以上に萎んだ自分のリュックサックを詰めて、それを奥へと追いやった。 


「それで、どこ行くの?」


「ん、まあ、そういうのは後だ」


 期待を孕んだ月見里の声を脇に追いやって、バイクに残るガソリンの残量をみやる。ほったらかしにしていたが、多少なりとも整備してきたおかげか出発前と同じぐらいのかさがある。


 少なくとも、多少の寄り道をしても片道切符にならないぐらいの中途半端な量が残っている。

 

「東台。悪いが、そろそろ出るぞ」


「はい、はーい」


 そういって、側車に乗り込む東台。出発前はまごついていたのに、今ではヘルメットを被る恰好も、多少は様になっていた。


「あとは帰るだけだね」


 食料もガソリンも拠点に帰っても、補充できる。むしろ、さっさと帰って先に報酬をもらった方が賢明である。


 東台の行きたい場所がどこにあるのかにしろ、物資に余裕を持たせて行った方が立てられる計画も幅広くなるので良いだろう――――。


「……東台」


 ただ、皆やつれている。疲れた。目の前に座る月見里の背から、彼女が行きたいと強請る場所を示す地図が見えた。


「どしたの?」

 

「そういえば、バスタオル借りっぱなしだったな」


「ううん、後で返してもらったらいいから。気にしないで」


「いや、俺の老廃物で汚れてるからな、すぐ洗う必要がある」


「老廃物って……そう聞いたら、ちょっと抵抗でちゃうな」


「そうだ。だから、帰る前に寄りたいところがある」


 そういって、こちらはバイクのキーを回した。ガソリンを燃やす臭いと共に若干調子の悪いエンジンの音が湧き上がる。


「洗濯と、風呂に入りに行くぞ」


 そう言ったとき、月見里から歓声があがった。 

 


 

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