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右手の恋人  作者: 志摩鯵
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俺は、まず彼女と相談して風呂場にあった地下室を自分の手で始末した。

厳重に入り口を塞ぐと、あれを地下に封じたのだ。


次に元の廃屋を壊して上に物置を建てた。

おそらく、あの女の妖怪から出る瘴気が立ち昇っているように感じたし、人を近づけたくなかったからだ。


代わりに新居を作り、俺は女房と彼女と一緒に、そこへ住んだ。

近所の人たちも、あの思い出したくもない寒気のする事件にまつわる家がなくなって気後れしていたものから解放されたようで評判が良かった。


俺は、見合いで結婚した女房に我慢した。

しかし本当に愛着を持って付き合っているのは、右腕だけの彼女だった。


だが、彼女が暗渠に隠した妖怪は、俺が思っている以上に秘密があったらしい。




何年かしてある日、自治会の寄り合いで俺は酒を飲む席があり、この辺で妖怪に関係する昔話はないかと切り出した。


この辺は、前の戦争で上の世代の人たちが、ゴッソリと居なくなっていたから昔話など誰も知らない。

しかし一人物好きがいたもので寺や神社を調べ、古い伝承を趣味で調べている男がいた。


彼は、他所から引っ越して来た中年男だった。

興味を持ち、この辺の歴史や過去の事件を調べている。

ただ流石にあのレイプ事件は、被害者がまだ生きていることもあって控えているようだった。


「妖怪ですか。

 そうですね。」


酒を飲みながら彼は、俺の質問に自慢げに、ただし表面上は、素っ気無く応えた。

しかし明らかに自分の調べたことを話したいという顔をしていた。


田圃たんぼの前の丁字になっている道があるでしょう?

 そこに古い木があって、下に小さな祠がある…。」


「ええ。」


「あれを覗いたことは、ありますか。

 祠の中。」


彼の言う場所は、確かに覚えがある。

集落の外れ、田圃に向かう丁字路に大きな木が一本生えている。

とても古く、節くれ立って、それこそ妖怪のような古木だ。


その根元に小さな社というか、祠があった。

犬小屋より小さな石で作られた祠で両開きの戸が着いている。

その中なんて覗いたことはない。


ガキの頃から何度も通っているのに恥ずかしいが正直、大人でも不気味だ。


前も言ったように俺が子供の頃から皆、口にはしないが、この古木と祠を怖がっていた。

丁度、家も街灯も近くにないし、夕方になると真っ暗になる。


くだんのレイプ事件も、この場所で起こっている。

他にも隣集落へ通り抜けようとした連中が殺されたとか、嫌な記憶に事欠かない。


しかしこれは、心霊スポットとか霊の呪いとかじゃなく単に暗いからだと思う。

だが、なにがしかのいわくがあるようだ。


「あそこに昔は、家が一軒あったそうです。

 しかし住民が居なくなって取り壊されたんですね。

 理由は、分かりませんが。」


「なんだかウチの話に似てますねえ。

 はっは…。」


俺は、酒で熱った顔で苦笑いした。

先方も鼻の先を指で掻きながら笑う。


彼は、話を戻した。


「あの祠の中にはね。

 草鞋が吊るしてあるんです。」


「草鞋が?」


「ええ。

 この理由も分からないんですが…。


 近所のお寺の住職が何代も前から管理してるんだそうです。

 決して地面や壁に触れないように、片方だけ草鞋を吊るしておくんだそうです。

 何年かに一度、草鞋が古くなったら取り替えたり、落ちないようにしているんだそうですよ。


 そのいわれは、分からないんですが…。

 あのお寺の住職の務めなんだそうで。」


誰も覗かない祠の中、かれこれ200年間、草鞋が吊るされたままになっているという。

何度か取り替えたりしているものの、その理由さえ分からない。


その話を聞いて俺は少し、ゾッとした。

なんといっても俺は、正真の怪奇を見ているからな。


しかし結局、俺は、あの女について調べる方法に行き詰った。

彼女に聞くのが正道だが、彼女があれに関して話してくれる様子じゃない。


それに俺の女房に子供までできた。

忙しくなった俺は、物置の地下に置き去りになっている妖怪の事や昔話など忘れてしまった。





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