だあれも知らない、ちっちゃな呟き
はあい。もう7日ね。
長らく玄関や床の間を華やかにしてきた私たちだけど、そろそろ下げる頃合いになっちゃった。
あ、地域で違う?
まあまあ、世間一般、多数決ってやつでいこうじゃないの。いつの世も数の力は偉大よ。
寂しい? それともほっとしてる?
普通にお休みだった子供たちは寂しいわよね。世の社会人さんたちのお仕事はもう、始まってるから関係ないかな。
あ、忙しかったお母さんたちはほっとしてるか。
え? 私って誰だよって?
私よ、私。
赤い実をつける、あれよ。
お正月の主役ではないけれど、人気者な、私なのよ。
さて、ちょっと私、言いたいことがあるのよ。
あのね、お正月飾りと言ったら松竹梅でしょ。でもね、私たちのような赤い実をつける樹もあるの。
ほら、赤い実がなんだかおめでたいし、豪華で正月飾りや生け花に映えるでしょ。
でね、同じような赤い実の樹なのに、勝手なレッテルを貼って名前をつけられちゃってるのよ!
失礼な話じゃない?
ちょっとアイツより背が低いだけじゃない。
それとかさ、アイツは下向きにぶら下がってて、私は上向きに付くからって、私の実の方が軽いとか言われちゃうのよ。
まあね、実が上向きな分、鳥に食べられやすいものね。
いざ、飾ろうとした時に肝心の赤い実がなきゃ、様にならないもの。
そろそろ名前を教えなさいって?
いいわよ。教えてあげる。
アイツは万両。
私は千両よ。
※※※※
おう、おう。
ちょっと千両さんよ。
そういうがお前さん、オイラよりお前さんの方が人気は高いんだぜ?
オイラのは実が葉っぱに隠れちまうんだとよ。
ちぇっ。
名前ばっかりご立派でも、引っ張りだこのお前さんの方がうやらましいや。
※※※※
あら、万両も千両も、アンタたちはまだいいわよ。アタシたちなんてねえ?
アタシたちとか言うなよ。あんたはまだ、名前に万までつけてもらって珍重されてたじゃねぇかよ。
実際に江戸時代なんて、名前と同じくらいの値段がついてたとかさ。すげえじゃねぇか。
そこいくと、おれの扱い。
そりゃ、あんたらに比べたら実がちょっと少ねぇけどよぉ。
実が少ないとかなら、まだいいよー。
僕なんて、チョンチョン!って感じだよ。
何言ってんの、アンタは「千両万両有り通し」って、一緒に植えられるじゃないのさ。
そりゃ、正月飾りや生け花には使われないけどさ、考えてみなさいよ? ハサミでちょきんと切られて。花瓶なんかにいけられちゃ、長生き出来ないわよ?
そっかあ。じゃあ、僕このままでいいや。ひっそりと生えとく。
ああ、そうしとけ。そうしとけ。
そうそう、あるがままが一番よ。
※※※※
あのぅ……おらぁ……みんなと比べると体も実も大きいし……一応、縁起もんなんだけどぉ……すっごいマイナーなんだけどぉ……。
……だれも聞いてないんだぁ……。くすん……。
※※※※
んふふ、ちゃあんと聞いてるわよ。
あなたたちの上の方で、連なる実を風に揺られて見てたのよ。
はあ、実が重たい。はやくひよ鳥来てくれないかしら?
億両、万両、千両、百両、十両、一両。プラス南天。
さて、誰が誰かな?