挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第四巻 選択

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

66/68

66話 大学二年生

 大学一年の夏休みが終わってからは、特に大きなイベントなどは無かった。
 後期も前期と同様の日々が繰り返されて、全科目で問題なく単位を取得できた。各講義の評価は様々であるが、単位さえ取れれば卒業するにあたって問題は無い。
 大学における講義やサークル、生活や友人関係などは、スタートが大切なのだろう。
 アルバイトという項目を切り捨てた次郎や、それに加えて普段のダンジョン探索を制限した美也は、全ての履修科目の単位を取るという極めて順調な一年間を終えた。
 二年生になると講義の専門性は高くなるが、やっている事には変わりない。二年生の前期でも取れるだけの講義を詰め込み、それを無事に終えて夏休みを目前にしていた。

 もっとも一億人弱が暮らす日本では、僅か一年間で社会情勢が大きく様変わりしている。
 例えば日本のダンジョンは初級が白化二三ヵ所、中級が白化一二ヵ所、上級が灰色一五ヵ所、最上級が黒一ヵ所となっている。
 上級はいずれも攻略されていないが、インプが湧き出した鹿児島や沖縄の二の舞は御免だとばかりに、かつて特攻隊の第二陣と呼ばれた自衛隊の攻略チームや、後発の第三陣以降のチームが攻略を行うべく頑張っているらしい。
 上級ダンジョンの魔物は自衛隊の一部以外には非公開だが、地下二〇階にはレベル五五の魔物の群れが生息しており、ボスがそれより遙かに強い事は公表されている。
 その件に関して、国会で対応を問われた広瀬防衛大臣は、転移所持者が最奥まで辿り着ければ、当面は政府協力者の山田太郎氏らに白化を依頼するが、いずれ自衛隊が独力で白化を行えるようにすると説明した。
 また黒いダンジョンはどのように認識しているのかとの問いに対しては、上級ダンジョンよりも上のダンジョンであると認識しており、山田太郎氏らに調査を依頼しているところであると説明している。
 次郎が一年をのほほんと暮らしている間も、正体不明の山田太郎氏は相変わらず大活躍であった。
 なお山田太郎氏に支払う上級ダンジョンの白化、および最上級ダンジョンの調査費用は、一体いくらになるのかと労働党の議員に問われた大臣は、次のように回答して、しつこい追求者を黙らせた。

「いずれも無償で協力して貰っています。彼は、自分を殺そうとした連中には死んでも協力しない。と常々口にしていますが、元々善良な国民の一人であり、無辜の市民を守るために自ら進んで協力を申し出てくれました。未だ一〇代ですが、実に良い青年です。前政権では彼を含むダンジョンを知った子供達の口封じを企図しましたが、現政権は友好的な関係を構築しています」

 労働党の議員は藪蛇を避けるべく、本来予定していた次の質問をせずに質疑を終えた。
 質問者が協力関係にある小林党首の派閥員であれば、広瀬大臣も手加減しただろう。
 広瀬の辛辣な反撃により、二〇四九年の参議院選挙で労働党に残っている旧主流派議員たちの敗北も確定的となった。

『午後六時になりました。ニュースをお伝えします』

 二〇四八年七月四日、土曜日。
 いつの間にか善人にされてしまった山田太郎と仲間達が、賃貸マンションのリビングでコーヒーとクッキーを前に雑談していると、スーツ姿の男性アナウンサーがテレビの画面に現われて、夕方のニュースを伝え始めた。
 トピックスは六時のニュースと掛けて六つ並んでいる。

 ・世界初の魔石自動車『マナ』、二〇四九年に限定発売決定
 ・液化赤魔石、ガス燃料の代替実用化
 ・二〇四七年度医療費、前年度の三分の二に減少
 ・魔法犯罪の厳罰化、再犯者の死刑も視野に
 ・ホフマン米大統領、日本に魔石輸出を要請
 ・国連高官、日本のダンジョン独占を非難

『最初のニュースです。日本自動車メーカー連合が共同開発した、魔石エネルギー車の限定発売が発表されました。魔石エネルギー車は、青魔石から取り出したエネルギーと酸素を化学反応させた電気エネルギーでモーターを回す自動車です。魔石燃料の航続距離は約一〇〇〇キロメートル。技術的には幾らでも連結可能で来年には限定車の発売が……』

 最初のニュースは、水素自動車の燃料である圧縮水素の代わりに水魔石を用いた新たな自動車の実用化についてだった。
 魔石自動車は、水素自動車と同じ技術を用いている。
 そのため電気自動車と異なって充電が不要で、車体重量も水素自動車並みに軽く、圧縮水素よりも遙かに取扱いが安全だ。
 その上、水素自動車を生産していた工場の製造ラインも殆ど変えなくて良いというメリットがある。
 肝心のコストだが、車体価格は水素自動車と殆ど変わらない。
 一方、燃料と航続距離だが、地下四階に生息する巨大イモリの魔石二個で、魔石車は最低一万キロ走れるらしい。なお二個というのは、二つの魔石を物理的に接触させる事で水素を放出させられるからだ。
 従来の燃料代が一km一〇円以上のため、魔石二個の価格が一〇万円以下ならば、電気自動車の低料金充電が実現する。
 イモリの魔石が一個五万円以下というのは難しく思われるかも知れないが、レベル一〇を越える者であれば、地下四階に潜れば大量に獲得できるため、それを生業とする者が居ればさほど難しくはない。
 往復で一週間ほど潜って、一〇〇個拾えば年収五〇〇万円。
 むしろ一〇分の一で買い叩かれたとしても、毎月一回潜れば年収六〇〇万円。充分に高収入でやっていける。
 この位儲かるのであれば、コンビニのアルバイトをしている若いフリーターは、続々と魔石ハンターに鞍替えするだろう。
 冒険者が魔石を採りにダンジョンへ潜る姿が目に浮かぶようである。
 そして日本の自動車の燃料代も、従来の一〇分の一に近くなる。

「ついに魔石が売れる時代になってきたな。でも、あと六年早ければなぁ」

 次郎がダンジョンに潜り始めたのは、今から六年以上も前の二〇四二年五月である。
 その頃に魔石の買い取りがあれば、次郎はボロい服を着て、お年玉を切り崩しながら暮らさずに済んだかも知れない。

「でも魔石を売っていたら、レベル一〇〇には成れなかったと思うよ」
「ぐぬぅ」

 美也の突っ込みが入り、次郎は押し黙ってコーヒーを一口啜った。

 自動車メーカーが絶賛買い取り中の青魔石は、技術的に何個でも連結させられるらしい。
 そのため六個連結させて三万キロを走らせる事や、魔石とモーターを増やして大型トラックや電気飛行機に応用する事も出来る。
 また、地下八階のオオサンショウウオの魔石を用いる事でエネルギー内包量が跳ね上がるため、工業用や軍事用としても大いに期待できる。
 最早、技術革新の域だ。

 日本にとっては、車の燃料を輸入しなくても良い点が最大のメリットだ。
 さらにニューストピックスの二番目にある液化赤魔石も、液化石油ガスの代替エネルギーとなる事が判明している。
 その他にも、土魔石が高度な建材に応用できる事や、緑魔石が手術室などで一般的な空気圧を高める効果を得られる事、白魔石が治癒効果をもたらす事、黒魔石が局所麻酔に使える事なども判明している。
 すなわち、全ての魔石で様々な利用方法が考案されたのだ。
 これからは貿易黒字も大幅に増えていくだろうし、なにより自国で燃料供給が出来るようになるので国際関係が有利になる。
 麻倉経済産業大臣は、昨今では四六時中機嫌が良いらしい。

 そのように世間では、頭の良い人達が様々に頑張っているようである。
 対して利己主義者の次郎は、賃貸マンションのリビングでコーヒーを一口飲んでから、美也と綾香に夏休みの目標を告げた。

「今年の夏の目標は、最上級ダンジョンの網羅と、可能なら攻略特典の獲得だな」

 世間が頑張っている一年間、次郎も最上級ダンジョンの地下一〇階から二〇階までを踏破していた。
 そこで直ぐに最奥へと挑まないのは、到達していないエリアが残っているからだ。
 攻略前に三人の到達エリアを可能な限り増やし、同時に魔物を徹底的に焼き尽くして、なるべく高い攻略特典を得たい。
 大学の講義もこれくらい真面目にやれと言われそうであるが、大学の講義は取得した単位について斯様かような特典は貰えない。
 美也は授業料減免の対象になっているが、それは成績優秀である事に加えて世帯収入が低いからであって、結局のところ次郎にご褒美はないのだ。
 労働者が報酬の良い方に流れていくのは、自由経済の原理である。

「改めて確認するけど、最上級ダンジョンの攻略目的は何かな?」

 手作りクッキーを摘まむ次郎に対し、美也は目標に対する目的を再確認した。
 クッキーをコーヒーで流し込んだ次郎は、ホッと一息吐いてから三人の共通見解を敢えて口にする。

「一つは特典。もう一つは解明。今投げ出すと、一生謎が残ったままになる」

 次郎が攻略を目指す理由は、その二つだ。
 特典の獲得に関しては、明らかなメリットがある。
 そしてダンジョンの攻略に関しては、完全魔素体となった自身や美也の状態を正確に把握しておきたいという思いがある。
 次郎たちではなく政府の特攻隊が攻略した場合、民間人である次郎たちには全ての情報が降りてこない怖れもある。

「そうだね」

 美也は頷き、次郎の主張を受け入れた。

「次郎くんの意志は分かったけど、綾香はそれで問題ないかな」
「問題ありません。完全魔素体に関して事前にお話し頂けなかった時の様に、また置き去りにされると困りますので」
「…………うい」

 それまで無言でクッキーに手を伸ばしていた綾香が、明確な意思表明を行った。
 綾香を一蓮托生とすべく作為的に話さなかった次郎には反論の余地もなく、三者はこのままの方針で進む事になった。

「それで、特典はどうするの」

 コーヒーと同様に、若干冷めた声色で美也が問う。
 次郎は美也の声色に気付かない振りをして、攻略特典について考えた。

 堂下次郎 完全魔素体 転移S二 収納A 加算S
 体力一三 魔力二七 攻撃一一 防御一一 敏捷一二
 火六 風六 水六 土一五 光一〇 闇一二

 地家美也 完全魔素体 転移S 収納S二 加算A
 体力八 魔力二六 攻撃七 防御七 敏捷八
 火一三 風一三 水四 土四 光一五 闇一二

 井口綾香 完全魔素体 転移A二 収納S
 体力八 魔力二六 攻撃七 防御七 敏捷八
 火一三 風一三 水三 土三 光七 闇一〇

 次郎が転移四回/日、収納は八.四畳分。
 美也が転移二回/日、収納は三四畳分。
 綾香が転移二回/日、収納は一七畳分。

 この状態で、転移能力・収納能力・能力加算のうち何を取得するのか。
 もしも中世ファンタジー世界に人間として飛ばされる事が事前に分かっているのであれば、収納能力を増やして植物の種子や電子計算機、太陽光発電器やOA機器、技術関係のデータを大量に入れたPCや書籍などを持っていくと有用だろう。
 ガラス細工のペンダントなど、安価だが未開文明では高く売れそうな物も大量に持っていくと、現地通貨に換金する事で活動資金を一気に得られる。
 大気成分や重力の異なる惑星、物理法則が異なる世界、近未来などであれば、持ち込んだ物の大半が無駄になるかもしれないが、先方で収納能力を活かす事は出来るはずだ。
 あるいは、能力加算の追加も有用に思えてくる。
 如何なる世界の、如何なる立場であろうとも、能力や魔力が高ければ相応に活用できる。苦手部分を補えば万能になるし、敢えて得意分野を伸ばしても良い。

「俺は能力加算だな」
「どうして能力加算なの」
「魔力を動力に機械とか船を動かす世界だと、魔力が高い方が有利だろ。宇宙に占める質量とエネルギーのうち、現在の人類が把握できている物は五%程度しか無い。すると魔法の素になっている物も、残り九五%のどれかだろう。扱えた方が有利だろうと思って」
「暗黒物質とダークエネルギーだっけ」
「何ですか、その変な名前は」

 共通理解を前提に話を流そうとする次郎と美也を、綾香が制止した。
 ダン研はある種のオタクであるため、所属者は文系であろうとも、おかしな知識を得ていく。次郎は細かい数値を省き、大雑把な説明を行った。

「宇宙は膨張しているって、聞いた事あるか」
「はい。それは聞いた事があります」
「その宇宙を膨張させているエネルギーがダークエネルギーで、宇宙全体の質量とエネルギー七〇%くらいを占めている」
「凄く多いですね」
「まあ、宇宙を膨張させるくらいだからな。それと渦巻き銀河の動き等を説明するために圧倒的に足りない質量を説明する物質が、光学的には観測できない仮称・暗黒物質で、宇宙全体の二五%くらいになる。つまり俺達が知っている原子とかは、宇宙全体の五%くらいしか無いわけだ」
「……人類が理解できる物質は、少ないのですね」
「まあな。その観測できないエネルギーとかが魔法の素になっているんじゃないかと、俺達ダン研は考えている。巨大構造物とかも、未だによく分かってないだろ」
「意外に真面目なサークルなのですね」
「まあ、一応な」

 大学のサークル名がオカシイのは、単なる仕様である。
 一通り説明した次郎は、話を戻す事にした。

「異世界文明に飛ばされても良いように魔力とか諸々を上げておこうと思って」
「そっか、それならわたしも参考にするね」
「私も能力加算の予定ですが、内訳の参考にさせて頂きます」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ