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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第四巻 選択

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62話 インプ氾濫

 二〇四七年四月末、日本全国津々浦々で大学生の新入生歓迎会が続々と開催された。
 飲酒は脳の発達を阻害するため、日本では医学的には二〇歳までは推奨されないとされているものの、成人年齢の一八歳であれば法的には問題ないとされている。
 そんな大義名分の元、部活やサークルに入った新大学生の多くが、新歓で随分と酒を飲まされた。
 もっとも参加者の中には、上手く逃れた一部の例外も存在する。

「酔い止めのウコンは肝臓に悪いから、余りお勧めできないよ」

 次郎がコンビニの酔い止めコーナーを眺めていると、美也が横から小声で忠告してきた。

「ウコンって、肝臓に良い薬なんじゃないのか?」
「全然。ウコンは肝炎のリスクもあるよ」
「マジか」
「うん。他には、そこの青汁の鉄分も肝臓には悪いよ。隣の栄養補助食品の殆ども、医学的には何の意味も無いどころか、逆に身体に悪いから」
「…………コンビニが健康に悪いのは聞いた事があるけど」
「発展途上国と違って、日本で栄養が足りてない人は、滅多に居ないでしょう。それなのに、そんなに沢山の栄養補助食品コーナー、本当に要るのかな?」

 美也が指差したコンビニの酔い止めコーナーの隣には、大量の栄養補助食品やサプリメントのコーナーが設けられていた。

「お酒の話に戻るけど、次郎くんは飲み慣れていないでしょ。お酒は、無理に飲まないのが一番だよ」
「了解。口に入った瞬間に収納で消すわ」

 そもそも飲酒経験の無い次郎は、酒に対する執着心が無い。
 一方で脳への悪影響や中毒症状、依存症などのデメリットは一般常識で知っているため、個人的には飲酒が魅力的には思えなかった。
 次郎たちは謎の元和歌山県民から、病気にならないように身体を調整されているらしいが、だからといって自ら病気に罹患するような行動を取る理由も無い。
 酒も飲まず、タバコも吸わず、不良行為もせず。
 二人は利己主義者であり、利己主義者は自分が一番大切なのである。
 結局、美也の忠告を素直に受け入れて飲酒を控える事にした次郎は、続々と倒れた新一年生たちの列から無傷で逃れる事が出来た。

 やがて、アルコールに敗北した各地の死者達がゾンビ程度には復活し始めた頃、世間はゴールデンウィークに突入した。
 今年のゴールデンウィークは、金曜日に始まって、日曜日に終わる。
 そんな最悪の日程だが、それでも無理矢理予定を捻じ込むのが大学生のクオリティだ。
 ゴールデンウィーク初日の金曜日には、ダン研で再び有志による集いがあり、復活したゾンビ達にトドメを刺していた。

「堂下君はお酒に強いね」

 明けて土曜日。
 ダン研へ顔を出した際、次郎は会長の津田にそう評された。
 次郎の仲間では翔馬が完全に潰れており、騎士は兼部しているチート剣道部にふらつきながら参加し、空海は白い顔のままアルバイトに行っている。
 大学の新歓で始めて酒を飲んだ人間は意外に多く、大半が潰れてタクシーなどに放り込まれていた。
 なお次郎は、同級生達の住所をタクシー運転手に伝えた後、荷物を放り込むように面白おかしくタクシーに放り込んでいた側である。

「いえ、俺は見えないところで自重していましたから。帰り際にラーメンを食べて、家に帰ってからは経口補液も飲みましたし」

 ピノキオは鼻高々に、嘘八百を並べ立てた。

「それは実に賢明な判断だ。ホームドクターがいると強いね」

 津田は言葉とは裏腹に、酔わなかった理由にはさして感心を示しておらず、平然としている事実を評価しているようだった。

「ツマ会長は腹黒だからね。ドウシタ君も気を付けた方が良いよ」
「黒すぎて煮ても焼いても食べられるところが無いからね。ドーシタ君も要注意ね」
「鋼君、留美衣君、そこはせめて計算高いと言って欲しいな」

 ダン研の双子が二重に注意を促した後、会長は開き直りながら種明かしを始めた。
 曰く、ダン研が行った新歓の目的は『先輩に半ば強引に飲まされるという危機を与え、一年生同士の連帯感を生ませ、共通の話題を与える事で、入会後の退会者を減らす』という意図があったらしい。
 そして、図太そうだと確信した次郎に種明かしをしつつ、来年以降に利用するようにと言ってのけた。

「急性アル中とか出たら、どうするんですか?」
「二次救急が北大病院の日を飲み会にしていたからね。万が一に運び込む事になっても、医師は全員うちのOBだから大丈夫だよ」
「マジか、確かに腹黒だわ」

 先輩が注意喚起する会長の悪辣さの一端を、ようやく思い知った次郎であった。
 とんでもない手法で連帯感を高めさせていたダン研であるが、流石にゴールデンウィーク中日であり、前日には再度の飲み会が開催された事も加わって、土曜日の参加率は非常に低かった。
 それにダン研では、バイトをしている学生も多い。
 火曜リーダーで会計の笹森陽彩や、木曜リーダーで副会長の簑島択海も、休日には大抵アルバイトが入る。
 高校時代の収入で既にアルバイトが不要な美也も、サークル活動は最大でも月・水・木・金までと決めており、残りは勉強や料理教室などに充てているため土曜日は不参加だ。

 もっとも次郎は、定年後に暇を持て余す老人の如く、今のところは真面目にサークルへ参加している。但し内容自体は大したものでは無く、どちらかと言えば活動全体を俯瞰する意味合いが大きい。
 専らの活動は、データ収集と入力だ。
 具体的には、学内サーバのサークル共有フォルダに、次郎専用のフォルダが作られており、そこへ先輩の作成した参考資料を見ながら、月・水・木それぞれの自分用資料を作成しては放り込んでいる。
 一方で先輩達はデータが積み上がっていて余裕なのか、午前の大半は雑談に興じていた。

「奇数日の四日といえば、一昔前なら世間も盛り上がっていたものだがね」
「魔物、出ませんからね」
「ダンジョン入場者の数も減っているらしいし、日本人って飽きっぽいわよね」

 留美衣の指摘は、現代日本人の一面を的確に表わしている。
 同調意識が強い日本人は、事態の発生時には共同して物事への対応に当たる。
 ダンジョンをひた隠していた労働党に対する日本人の共通した怒りは、その典型と言えるだろう。

 だが結果が出た後は、波が引いたように逃れていく。
 それは、日本人の処世術でもある。
 周りと歩調を合わせたがり、長いものには巻かれ易い習性があるため、連立四党が対処したと聞けば、文句を言えなくなるのだ。仮に口を出した場合、周囲から何らかのレッテルを貼られて周囲から批判されかねない。
 それなら最初から意思表明をしない方がマシであり、自分が傷付く恐れのある争いを避けて感心を向けなくなるのは、まさに処世術の一端だ。
 他には、周囲がレベル三なので自分も同程度にしようという発想も、村社会で生き残る工夫や、同調意識の表われである。
 日本人の行動原理は、ダンジョンが現われた現代にあっても一向に揺るぎなかった。

 土曜日に集ったダン研のメンバーは、生協の格安食堂で腹を満たした後、さらに人数を減じながら各々が自由に行動を始めた。
 次郎のように一応は活動している者、会長達のようにメンバーの監督を兼ねて雑談している者、黙々と自分の課題を熟している者、資料集めから脱線してネットサーフィンをしている者、そして中には携帯ゲームで対戦している者すらいた。
 次郎が、何となくダン研の雰囲気が掴めてきたかと思った矢先、留美衣の携帯端末が振動を始めた。

「あれっ」
「んっ?」

 留美衣に続いて鋼、津田会長、次郎らの携帯が次々と共鳴するように振動を始め、画面に警告文を強制表示させる。

『国民保護に関する情報。魔物発生。魔物発生。ダンジョンから魔物が発生した模様です。脅威度一六。今すぐ頑丈な建屋内に避難して下さい。対象地域:鹿児島県、沖縄県』

 警告は、全国瞬時警報システムによる魔物発生情報だった。
 基本的には対象地域に出されるが、設定を広域に変えれば、国内のどこでも受信する事が出来る。次郎たちダン研は、当然ながら広域設定にしていた。

「脅威度一六って、インプか」

 周囲から驚きの声が上がった。
 脅威度は、ダンジョンに生息している魔物をコウモリから順に番号付けしたものだ。
 一がコウモリ、二がタマヤスデ、九がゲンジボタル、一〇がカマキリ。そして一六は、インプを一匹でも確認した時に表示される。なおカマキリのボスが出た時は、三〇が表示される事になっている。
 数字が高い方が危険である事は、無論言うまでも無い。

「おい皆、インプが出たらしいぞっ」
「本当か!?」

 周囲が慌てて携帯端末の警告文を開き、テレビを表示させると、画面からは派手な魔法の炸裂音と、激しい砲撃音が轟いてきた。
 そして戦闘音に混ざって、緊急避難を呼びかける不吉で不快な国民保護サイレンも鳴り響いている。

「ヤバい、マジだ」

 魔法攻撃と砲撃音とサイレンの三重奏は、人々の心を激しくかき乱し、冷静な判断を根こそぎ奪って今すぐ逃げろと急き立てる。
 直後、サイレンに変わって非常放送が流され始めた。

『魔物発生、魔物発生。先程、沖縄県に、魔物が、発生、しました。住民の、皆さんは、ただちに、避難、してください』
「どこへだよ」

 ダン研の二年生が、非常放送に向かって突っ込みを入れる。
 北海道にいる彼らには無関係だが、仮に北海道で飛行力と知能を持つインプが大量に出現した場合、一般人が何処へ避難すれば良いのかは不明瞭だ。
 次郎が周囲の様子を眺めると、ダン研の会員達は状況に多少焦りつつも、端末の画面とパソコンで情報を収集し、あるいは周囲の様子を伺っている様子だった。
 そして彼らの視線が最も集中しているのは、この場をまとめる会長の津田だった。
 その姿は、あたかも村長の意見を待つ村人達である。
 右習えで、長いものに巻かれ易い日本人として相応しい反応だった。

「確か鹿児島と沖縄ダンジョンには、特攻隊が待機していたね」
「はい。奇数月の四日午後三時には、五班ずつが待機するとテレビでやっていました」

 鹿児島と沖縄は、上級ダンジョンまで攻略が終わった山中県を除けば、国内で最も早く中級ダンジョンに変化したダンジョンだ。
 変化したのは二〇四四年一二月で、以来一四回に渡って奇数月の四日に魔物が氾濫しなかった。
 もっとも、いずれ魔物が氾濫するであろう事は予測されており、両ダンジョンには奇数月の四日、第二次特攻隊一一個班五五名の大半が分散待機する事になっている。
 もちろん、待機するよりも攻略してしまえば良いという意見もある。
 しかし特攻隊のレベルは、中級攻略がギリギリ可能な四〇後半から五〇程度でしかなく、上級ダンジョンに変化させると政府協力者以外は攻略できなくなってしまう。
 そのため政府は中級ダンジョンの最奥を転移登録させつつ、変化の時期をギリギリまで遅らせたかった。

「特攻隊が居るなら、大丈夫だろうね。僕らはこのまま情報収集をしようか。映像を保存できる人は保存も頼むよ」
「分かりました」

 津田の指示で情報収集に移行したダン研は、急速に落ち着きを取り戻した。
 彼らの特攻隊に対する信頼感の根拠は、二〇四五年一一月に特攻隊第一陣がお披露目された際、一個班五名が一時間で一〇〇〇体撃破という大戦果を挙げた事だろう。
 当時の脅威度一から九の混成集団に比べると、脅威度一六もあるインプだけが一万体も出ている今の方が遥かに危険だが、二県に五個班二五名ずつが待機しているならば、当時に比べても有利だろう。

 なお当時活躍した第一陣の政治家子弟三二名は、あくまで非常事態下での民間の特別協力者という扱いのため、鹿児島と沖縄には待機していない。
 有志が初級ダンジョンの白化には協力しているものの、このような待機・警戒任務には、最初から召集されていない。

「SNSの投稿も拾い集めていってくれ。現地の人間の行動心理も知りたい」
「了解です」

 腹黒会長の冷静かつ冷血な指示に、次郎は思わず拍手をし掛けた。
 人間とレベル一六のインプは、能力が隔絶しすぎている。
 地球上の生物で比較するなら、人間とインプの強さの中間点に、レベル八でクロコダイル以上の強さを持つオオサンショウウオがいる。
 すなわち『人間を軽く補食できるクロコダイルを、軽く捕食できるくらい強い』のが中級ダンジョンのインプだ。インプの強さは『人間の捕食者の捕食者』級である。
 常識的に考えても、自衛隊の集中砲火から逃れる化け物の集団を相手に、素人の個人ないし集団が抗しきれるわけが無い。レベル三の巨大バッタが飛び回っていた頃とは、訳が違うのだ。
 その狙われれば確実に殺される状況で、一体どう逃げるのが生存率を上げるのか。ダンジョン研究会の研究活動としては、決して見逃せない実証実験となるだろう。

 既に何人かの携帯端末にはテレビが映されており、パソコンから海外ネットを介してタイムラグのあるテレビを映して映像データの保存を行う者も居た。
 次郎は自らの端末を操作し、テレビの画面を映し出す。
 テレビの画面には、三六式小銃を撃ちまくる三人の自衛隊員が映っていた。
 その百メートルほど先には幼児サイズで灰色い肌・緑目・頭部の角・尖った耳・腹部膨満・コウモリの翼・鉤状に尖った尻尾を持ったインプが飛び回り、周囲の自衛隊員を襲っている光景が映される。
 自衛隊の機関銃による銃撃は命中しているが、大半は硬い皮膚に弾かれており、弾丸が当たった直後には回避行動を取られて避けられている。
 一方インプは風魔法で自衛隊や警察を深く切り裂き、長い尻尾で身体を突き刺す。
 そこへ特攻隊がミサイルのように飛び込んできて、インプを蹴り飛ばし、防壁に叩き付けて一撃で始末する。
 だがインプの数は多く、高レベルの特攻隊も全てを防ぎきる事は不可能な様子だった。

『…………インプの群れが空から自衛隊に襲い掛かり、砲撃は半数が途切れました。現在、特攻隊と自衛隊による戦闘が行われていますが、インプの一部はダンジョン周辺から移動し、沖縄本島の各所へ散った模様です。各所ではインプに襲われる市民が多発しており、既に犠牲が出ている模様です』

 リポートしている男性記者とテレビクルーの周囲には砲弾と銃弾、特攻隊の魔法とインプの魔法が飛び交っており、土煙と白煙が上がって視界がかなり悪くなっている。
 方々からは連続した発砲音と罵声が上がっており、テレビはそれらの音声を抑えながら、リポーターのマイク音声を拾っているようだった。

『江田さん、そちらは大丈夫なのですか』

 スタジオからは、そんな愚かな質問が飛ぶ。
 もちろん誰がどう見ても、全く大丈夫そうには見えない。
 先程来、倒れ伏した自衛隊員や警察が何人も画面に映っては、それを避けるようにカメラが何度も横へ逸らされている。
 インプが溢れている現場では、衛生兵が負傷者を救護するどころか、倒れた隊員の機関銃を握って応戦せざるを得ない有様だった。
 それでもリポーターはプロ意識の表われなのか、自衛隊員に引き摺られるように退避を続けながらも、中断せずにリポートを続ける。

『本日は土曜日で、特攻隊は普段の隊員に加えて第一次特攻隊からも有志が参加していました。特攻隊は市街への救援にも出ていますが、飛行するインプの被害範囲は広く、周辺は大変危険な状況です』
『江田さん、ありがとうございます。状況の変化があったらまたお知らせ下さい』
『分かりました』

 次郎が携帯端末に映したテレビ局は、最初から現場で中継が行われており、第一次特攻隊の有志による参加まで言及するなど、情報の質と量が異様に高かった。
 たまたま特攻隊を待機させて備えている特集番組でも、撮影していたのだろうか。
 ダン研の面々もテレビのチャンネルを切り替え、食い入るように画面を見つめている。
 やがてテレビの画面は、中継映像をメインにしつつも、端にワイプでスタジオを映す二画面方式に変わった。その上部には大きな文字で、外国人向けに『まもの おきなわ かごしま すぐにげて』と表示されている。

『現地からの報告では、被害範囲がダンジョン周辺から広がっているようです。現在鹿児島市、那覇市にいらっしゃる方は、直ちに安全な場所へ避難してください。また周辺地域にお住いの方々は、インプの飛来に警戒し、不要不急の外出はお避け下さい。携帯回線は混み合う恐れがあります。救助要請以外の連絡には、メールやSNSなども活用して下さい。政府が発表した脅威度一六は、過去最大の数値です。決して大丈夫だとは思わず、より高い安全を確保して下さい……』

 スタジオのアナウンサーが次々と事前に用意されていたであろう警告を読み上げていく。
 その刹那、画面に濃い緑色の光が輝き、読み上げは中断された。
 テレビを見ていたダン研の面々も、画面から溢れ出した緑光と、大気を揺さぶって轟くような巨大な爆音とに、視聴を強制中断させられる。

「うわあっ」
「眩しっ!」

 驚く周囲の中で、次郎だけは発生した輝きに見慣れた色合いを感じ取った。

(…………綾香か)

 美也と綾香のステータスは、綾香が美也を模倣した事でとても似通っている。しかし魔力の質は、次郎にとっては二人の容姿くらい異なって感じられた。
 次郎が岩のように頑固で揺るがない性質だとすれば、美也は炎のように内面に踏み込む者を焼き、綾香は風のように自らの意思で自由に移ろいゆく。
 三人が魔石を持っていたならば、それぞれ特有の色を持つだろう。
 次郎は自身が、土色に白と黒を混ぜた濃い茶色に、故郷の杉山の土を混ぜた独特の土色の魔石になると思っている。
 美也は、赤・緑・白を混ぜたクリーム色から赤みだけを増し、血を固めたような赤桃色の魔石になる。但し表面は炎で取り繕われ、一見すると綺麗な赤色に見えるだろう。
 綾香は、赤・緑・白・黒を混ぜた黄土色から、緑だけが徐々に深みを増していき、最終的には僅かに黄色みを帯びた濃い緑色の魔石になる。
 画面に発生した緑色の光からは、そんな綾香特有の色が僅かに感じ取れた。

 次郎が見ていたテレビは、衝撃的な光景を撮し出していた。
 上空に向けられたカメラには、眩い緑光の中心から飛び出した幾百、幾千もの光の束が放射線状に広がる光景が中継されていたのだ。
 光は屈折しながら偏向レーザーのように伸びていき、瞬く間にインプの群れを貫いて焼き尽くし、吹き飛ばし、僅かな間に消えていった。
 それらと同時に、夜空に最後の打ち上げ花火を炸裂させた様な、大きな爆発音も轟いている。
 光と音が止んだ後に残ったのは、上空で身体を吹き飛ばされたインプ達で、バラバラになったそれらは、まるで雨のように地上に降り注いでいた。

『こちら、沖縄ダンジョン前です。スタジオ、聞こえますか』
『江田さん、聞こえています。映像も見えています。そちらの状況を報告して下さい。何が起きたのですか』
『はい。先程上空で、爆発のようなものが発生しました。その中心から物凄い数の緑色の光の束が飛び散って、上空を飛行していたインプの群れを次々と貫きました。ここから見渡す限り、上空のインプは全滅しています』
『爆発は何だったのですか。地上のインプはどうなっていますか』
『爆発は突然発生しました。周囲の自衛隊の方々も、特攻隊も、唖然としています。地上に残ったインプも怯えており、周辺から続々と逃げ始めています』
『インプが逃げているのですか?』
『はい。インプは戦意を喪失して逃げ出しています。逃げるインプには発砲もされていますが、インプは応戦せずに、ひたすら逃げているようです』

 その後もスタジオと現地のやり取りは放送され続けたが、二度目の爆発は鹿児島県で発生したとの速報が入った。
 次郎が見ていたテレビでは流れていなかったが、地元テレビ局は沖縄と同様の爆発を撮影しており、やはりインプの群れが壊滅して、逃げていく様子が映されていた。
 いずれの県でも逃げたインプが居るために避難命令は中々解除されなかったが、掃討作戦は順調に推移していった。やがて広瀬大臣が緊急記者会見を行い、爆発が政府協力者による支援魔法であると発表した事で、ようやく事態は収拾した。

 記者会見では、当然ながら魔法の詳細についての質問が行われた。
 しかし広瀬大臣は、魔法の詳細は日本の安全保障に関する情報であり、特定機密保護法に指定される特定機密にあたるとして公表しなかった。但し、両ダンジョンは速やかに攻略すると約された。
 そして翌朝、鹿児島と沖縄のダンジョンは約束通り速やかに攻略された。
+注意+
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