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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第一巻 日本にダンジョンが現われた

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15話 新ダンジョン

 駅前には赤色灯を光らせた様々な緊急車両が続々と集い、山中駅もそれに負けじと、構内に白い警告灯を点滅させながら、緊急サイレンを鳴らし続けていた。
 駅周辺のビルには物理的な被害こそ出ていないものの、大量に舞い上がった土煙が今も立ち込めており、煙を吸って咳き込む人や、気分が悪くなって倒れる人、それを介抱する駅職員や救急隊員がそこかしこに見て取れる。
 助けを求める声が飛び交い、様々な理由で人々が周囲を走り回り、あるいは野次馬の携帯端末による大撮影会が行われるなど、無秩序な状態に陥っていた。
 そんな騒ぎの中心にあるドーム状の構造物にある入り口は、真向かいにある駅の入り口よりも遙かに広かった。

 顔を隠して人混みの中から近寄った次郎と美也は、合図と共に洞窟の入り口に向かって走り出した。
 次郎はレベルを上げて得られる身体能力について、レベル五で種目を問わず全国出場クラス、レベル一〇で世界選手権出場、レベル一五でオリンピックのメダリスト並、それ以上は完全に人外だと見積もっている。
 また身体能力を一から二に上げれば、当該分野に限っては最低でも掛け算ほどの途方もない結果が出る。
 一〇〇mの距離を時速四〇kmで走るレベル一五の人間であれば、敏捷を二に上げると時速八〇km、敏捷三に上げれば時速一二〇kmを出せる力が身に付く。
 レベル三三で敏捷五の次郎は勿論、レベル二八で敏捷三の美也も、最早人間が追いつける速度ではない。

「おいちょっ、ま……」

 一気に洞窟の入り口まで駆け寄った二人は、九ヵ月振りとなる灰色の世界に勢い良く飛び込んだ。
 入り口から先は一五段の階段があり、その先は急勾配の坂道になっていた。それを暫く下ると、やがて直径で一kmはありそうな大広場が現われる。
 大広場の入り口付近では、先に入り込んだ人達が必死に逃げ戻って来ており、それを追う巨大コウモリと、警棒を振るう数人のコスプレイヤーが戯れていた。
 飛び掛かっているコウモリは、チュートリアルダンジョンと若干、姿が異なるようだった。
 以前のダンジョンにいた猫サイズのコウモリと大きさは左程変わらないが、牙や爪は大きく発達し、全身が筋肉質で、手足も随分と太くなっている。また視力も向上したのか、目を見開いて人間を見定めながら襲っている。
 チュートリアルダンジョンのコウモリは、レベル〇の次郎が一対一で戦い、ナタを数十回振るって軽傷と引き替えに倒した。
 しかし今回のコウモリ達は、次郎が過小に見積もって全治一ヵ月コースの強さまで上がっていそうだった。
 凶悪性が大幅に増した印象で、相対するのが武器を持たない男子中高生であれば互角。男子小学生や女性では、逆にコウモリに捕食されかねない。

「前のダンジョンと違うな」
「凄く広いし、コウモリの形も違うね」

 入り口付近ではコウモリ達と戦う者、同行者に加勢する者、捕獲しようと試みる者、強制的に献血させられている者、それを助けようとする者、撮影に徹する者など、ダンジョン内での人々の行動は十人十色だった。
 それでも人間が数で上回るためか、周辺に致命傷を負っていそうな人は居なかった。

「まずは地下二階を探す。みんな自己責任で入ったんだから、手助け禁止。戦闘は避けて、魔法も使わない方針で奥まで進む」

 いかに強かろうとコウモリでは自分たちの脅威にはならないと判断した次郎は、戦闘を避けながら進むことを宣言した。
 先に入り込んだ人達の脅威にはなっているし、それを助けるのも容易いが、そうすれば非常に目立つだろう。
 ここで正体を明かすつもりは無く、そのためにお互いの名前を呼ぶ事すら事前に禁止しているのに、行動がそれに反しては本末転倒である。
 下手に誰かを助ければ、出口までの護衛を頼まれるかもしれない。そして拒絶しても、生命の危機を感じた人間が引き下がるとは思えない。
 それらに付き合っていれば、やがて警察が追い付いてきた時に、保護した人々と一緒に連行されてしまう最悪の結末に至る。
 そのため、もしも彼らに腕を掴まれるなどすれば、次郎は掴んできた相手を蹴り飛ばす覚悟すらあった。
 一方で美也は相手を蹴り飛ばすまではしないが、次郎の方針が示された以上、掴んできた腕を振り払って逃げるくらいはする。

「この蝙蝠野郎がぁ、哺乳類なめんじゃねぇ!」
「ギィッ」

 広場ではあまり賢く無さそうな四〇代の二足歩行型の哺乳類が、年齢不詳な飛行型の哺乳類の片翼を折り、振り回して床面に叩き付けながら罵倒していた。
 その一方で飛行型の哺乳類も、自分を掴んでいる手に爪を食い込ませながら、辛うじて何事かを言い返している。
 だが生憎と外国語に堪能ならざる次郎には、飛行型の哺乳類が伝えたい内容はサッパリ分からなかった。
 飛行型は既に瀕死なので、断末魔だろうとは思うが、彼らの積極的に襲い掛かる好戦的な性格を考えれば、相対している二足歩行型に対して罵倒し返している可能性もある。
 次郎は彼らに関わり合う必要性を一切認めなかった。

「あの通路から行くぞ」

 二人は互いに譲らない二種類の哺乳類たちを大きく迂回しながら、広場を駆け抜けて通路へ向かった。
 直後、発砲音が洞窟内に響き渡る。
 慌てて振り返ると、広場の入り口付近に姿を現わした警察官が、実弾を発砲していた。相手はコウモリの群れで、背後には負傷した民間人が居た。
 どうやら現場の判断で、咄嗟に威嚇射撃を行ったようだ。
 しかしコウモリ達は、発砲音に対して一向に怯まず、警察官に襲い掛かった。
 それに対して警察官は、さらに四度に渡って、コウモリの至近距離から発砲を繰り返した。その攻撃によってコウモリの一匹が地面に落ちるが、残るコウモリ達は発砲した警察官の腕に噛み付いた。
 噛み付かれた警察官は必死に抵抗し、叫び声を上げながら腕を大きく振り回す。
 その間に、地面に落ちたコウモリが再び飛び上がり、警察官を襲う群れに加わった。

 撃たれて落ちたはずのコウモリが、再び飛び上がって襲い掛かったのを見た人々は混乱し、一部は慌てて洞窟の外へと逃げ出していた。
 驚いたのは次郎も同様だった。
 確かにコウモリの身体は硬く、対する警察官の拳銃が鎮圧用で殺傷能力の低い三八口径だとはいえ、翼を除けば猫サイズのコウモリならば充分な打撃力だろうと思い込んでいた。
 それにも拘わらず銃弾が直撃したコウモリが再び飛び上がるなど、常識的に受け入れがたい光景だった。

 ついに弾を切らせて襲われる一方となった警察官の横合いから、別の警察官が拳銃を伸ばしてコウモリにゼロ距離射撃を行った。
 次郎はその結果を注視したが、発砲された弾丸はコウモリの身体は傷を与える事は出来ても、身体の皮膚を貫通する事は出来ていなかった。
 それどころか、大きな音が何度も響いたためか、広場の各通路からは次々と新手のコウモリたちが姿を見せ始める。
 全体的な戦況としては、コウモリの片翼を折って罵倒しながら振り回していた中年男性が一匹を瀕死に至らしめているものの、人間側が数の有利を活かせない間にコウモリの増援が来て、次第に不利になりつつあった。

「ヤバい、あいつらがどんどん出てきたっ」
「早く逃げろ」
「ぬおりゃああっ、下等な爬虫類が。万物の霊長たる人間様に、逆らうんじゃない!」

 警察官が苦戦する一方、中年男性はついに事切れたコウモリを何度も踏み付けながら、勝利の雄叫びを上げていた。男性の左腕は完全に垂れ下がっており、ワイシャツの胸部と左肩口から先が真っ赤に染まっていたが、それでも彼は力強い雄叫びを上げていた。
 次郎は中年男性の強さに呆れると同時に、彼が倒したコウモリの体内から石を取り出して掴まない事を残念に思った。
 もしも彼らのような一般人が皆揃ってレベルを持てば、相対的に次郎たちの希少価値が下がり、秘密を隠す必要が薄れていくのだ。

「そこの男性、早く戻ってください。それと、奥の二人もだ。誰か、怪我人を運ぶために外に出て助けを呼んできて下さい」

 戦闘を終えた中年男性と、立ち止まった次郎に呼び掛けを行ったのは、コウモリと戦闘中の警察官では無く、広場の出入り口付近から様子を窺っていたサラリーマン風の男性だった。
 彼は発砲後から急激に増え始めたコウモリに危機感を抱いたのか、外へ出るようにと周囲へ呼び掛けている。

「行くぞ」

 呼び掛けを無視した次郎は踵を返すと、声とは反対方向に向かって走り出した。
 促された美也も次郎の後を追い、新たに飛んできたコウモリを避けながら、当初目指していた通路に飛び込んでいく。

「おいっ、お前たち。危険だから早く戻って来い!」

 最後に背中からサラリーマン風の男の叫び声が聞こえたが、もちろん次郎は振り返らなかった。
 勢い良く飛び込んだ通路は、幅が片側三車線ほどで、高さも次郎の身長を二倍は上回っていた。
 そしてここにも先行者が入り込んでおり、やはりコウモリ達と争っていたようである。
 二〇代くらいの青年が、コウモリに引き裂かれたと思わしき顔面を抱えながら、血の海でうめき声を上げていた。
 白いシャツは血で真っ赤に染まっており、ズボンも膝と裾が裂け、皮膚が抉れて赤黒い肉が見えている。頭部や顔面を含む全身十数カ所の裂傷と、相当量の出血であり、このままでは命に関わるかもしれない。
 だが彼を保護して警察に引き渡せば、その時点で次郎たちは調べられて終わりとなる。
 次郎は血の海で溺れている知らない誰かを一瞥すると、美也を連れてそのまま奥に向かって駆け出した。

 ダンジョン内部は次郎の予測とは若干異なっていたが、いずれにしても従来の非日常が日常化した事に変わりは無かった。
 それは奇しくもチュートリアルダンジョンが現われてから四年を経た二〇四四年五月四日の事であり、攻略特典に「能力加算+二四」や「転移一回四〇〇kg」、「収納四〇フィートコンテナ分」などと、死の語呂合わせを多用する相手の意志を感じずには居られなかった。
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