ベクトリール生活初日
投稿遅れて申し訳ございません。
「……なんなんだよ、これ」
三人の中で一番遅く起きたテスの、机に置かれているものに対する第一声である。
「一応朝食のつもりだけど」
「それくらい分かってる!」
当たり前ながら的確な突っ込みを寝起き直後に放ってきたテスに、こいつ何もしなくても賑やかだよな、と感じながらも席に座らせる。
「昨日食わないで寝ちゃったろ? 冷めない内に食っちまえ」
そう言った途端、テスの腹からぐうぅ~、と空腹を告げる音が鳴り響き、同時にテスの顔を真っ赤に染め上げた。
別に腹の音位で恥ずかしがる事なんて無いのにな。
そう思いながらも「ほら、食え食え」と催促した俺。
「……はむっ、っ!?」
未だに俺達を警戒しているのか、暫くの間料理とにらめっこをしていたテスだったが、やがて恐る恐るといった様子でパンにかぶりついた。
すると、自身の思っていた物とは違ったのだろう。驚いた様子でパンから一瞬顔を離し、再びかぶり付いた。次はリミッターが外れたかの様に凄い勢いで、である。
「ゆっくり食えゆっくり「んぐっ……んんっ!」……ほら言わんこっちゃない」
フランスパンのように長いやつを一気に食べ、当然と言おうか喉に詰まらせて苦しそうにしているテスに呆れながら水を渡してやる。
「ッ! ……はぁ、はぁ……なんだこれ」
奪うように水を受け取って飲み干し、ようやく落ち着いたところでテスが口を開いた。
「フレンチトーストって名前の料理。ちょっとずつ切って食べるものなんだけど、まさか一息で食べきるとは思わなかったな」
「これはっ、その……うまかったから……」
フランスパンで作ったそれを瞬く間に消費し切ったテスに驚きながらも「子供はやっぱこうだよな」と感心していると、恥ずかしそうにしどろもどろになりながらテスが答えた。
「そりゃ良かった。まだあるから残さず食えな」
そう言って俺は料理の数々を机に乗せた。とはいえ、朝食なのでそれほど凝ったものではない。
「……? そんなに食えないぞ」
およそ二人前とはいえない量の朝食を前にそう首を傾げたテスに、俺は心配要らないという事を伝える。
「ん、あぁこれはルーガ達の分。もうじき来るだろうからね」
「女王がこんな所まで来るわけがないだろ」
そんな筈はない、と鼻で笑ったテス。
……その直後、
「美味しそうな匂いを感知です!」
「!?」
「残念、うちの女王はアクティブで有名なんだよ」
バン! と勢い良く開いた扉からルーガが飛び出し、その音と声でテスがビクッと跳ね上がった。
俺は驚かないのかって? もう馴れた。
「今スープ入れるからちょっと待ってて」
「多めに入れてくれると嬉しいです」
ルーガの希望に答えて具材を多めによそって出した。
ちなみに鍋を含む調理器具や食器はこの宿のものだが、朝食を俺が作る、という条件で必要分だけ借りている。
「ジャックさんは?」
「俺は向こう食ってきたから大丈夫だ。……というか、既に食べ終わってるのによく入るよな」
「ベクトリールの料理、美味しいんですが量が少ないんですよ」
「単純にルーガの胃袋がデカイって事なんだと思うけど……」
ベクトリールは岩塩や香辛料が多く採れるので、わりと濃い味の料理が多いのだが、それは言い換えると刺激物が多く、量を食べると腹を壊してしまうのだ。
それに比例してベクトリールでは食事量が比較的少なく、ルーガからしたら少し物足りないのだ。
「本当はお前さん等の顔だけ見て帰るつもりだったんだがな……。今日はどうするつもりなんだ?」
何事も無かったかのように料理にがっつくルーガと、それを見て一瞬固まったもののスープを飲んで再び食欲に火がついたテス、そしていつの間にかルーガの膝の上に置かれて水をコクコクと飲んでいるライムを見ながらジャックさんは俺にそう聞いてきた。
「起きたらこんな手紙が置いてあったから、もう一回行こうかなと思ってる」
「どれ、『先の工房にて、神出鬼没の翁より』……これが置いてあったのか?」
「うん、【物質転移】って言うみたい」
俺でも簡単に読める程端的に書かれた紙を読んだジャックさんはなんとも言えない表情になっている。
まぁ手紙越しでもエグルフさんは単刀直入だから、それに関しての突っ込み所の多さからコメントし難いのだろう。
「とりあえずわかった。……あまり事を大きくするなよ」
「そもそもそういう事を起こす気は無いんだけどね……」
歩けば問題を抱えて戻ってくるファル、そんな呪いのような体質を持つ彼女は、また新たな厄介事を抱えてくる事をまだ知らない。
「私としたことが、つい時間を忘れて長居しちゃいました……」
「いや結構平常運転だったと思うけど?」
「っつもドーリ?(翻訳:いつも通り?)」
十分と少し経った頃、なんとジャックさんの分として用意しておいた料理まで見事に平らげたルーガが満足そうにそう言い、俺と膝の上のライムにそう返された。
「そう言ってやるな、暫く会えないってんで寂しくしてるんだろうし」
ジャックさんがルーガの内心を代弁した。
「いえいえ寂しいなんて、そんな事ありませんよ。ちょっとファルちゃんの料理が暫く食べられなかったり服着せて楽しんだりができないだけですもん」
「心の声駄々漏れな」
それが理由で寂しいんなら、俺としてはざまぁ見ろの一言でもくれてやりたい所である。
「そろそろ行かなきゃ馬車の待ち合わせに間に合わなくなるぞ」
「あっ、もうそんな時間ですか。それじゃあ、そろそろお暇させてもらいますね」
さっ、と食器を片付けたルーガはそう言って席を立った。
「道中気を付けなよ」
「ファルちゃんこそ、ベクトリールで大きな問題とか起こさないでくださいね?」
「善処はするよ」
まぁ善処のしようも無いんだけどね。
「テスちゃんも、私達にも責任があるとはいえ拘束されているんですから、しっかりとファルちゃんの言う事聞くんですよ」
「うぁ……はい」
と、黙々と食べていたテスの頭に手を置いてそう言うルーガ。当の本人は、いきなり白羽の矢を向けられた事でしどろもどろになりながらもなんとか、といった様子で反応した。
「では、お邪魔しました!」
言うだけ言って部屋を出たルーガと、そんな彼女に呆れながらも「じゃあな」と言って部屋から出ていったジャックさん。
そして十数分続いた喧騒が終わり、部屋には再び三人だけの静けさが舞い戻ってきた。
「とまぁ、これが俺達の日常風景かな」
食事の手を止めずに二人の出ていった扉を見つめているテスに、俺がそう紹介(?)をする。
いや、だって出会って累計数時間にも及ばないような相手の前でもいつも通りのやり取りをするんだもん。誤解が生まれないようにする為にも必要じゃん?
「……あの女の人、女王様なんだよな?」
「そうだけど?」
「……おっぱい小さかったな」
今のテスの発言に思わず吹き出してしまった俺は、いやはや子供とは純粋で素直だな、と感心してしまった。
「よし、後片付けも済んだ事だし、外行くか」
テスの食事後、食器や器具の片付けが一段落済んだ俺は、満足そうに腹をさすっているテスにそう声を掛けた。
先程ジャックさんに言ったように、エグルフさんの所へ行く為である。
「良いの?」
「別にお前を監禁するって訳じゃないし、数日お前を見張るだけだから、外出くらいは平気っしょ」
流石に俺だってそこまで鬼畜じゃないしね。
「それとも、もしかしてこの部屋で一人出られないように監禁されたかったり?」
まさかのマゾ? とふざけ半分で聞いた俺に、テスは必死に首を横に振って否定&拒否をした。
「そんな訳ないだろ」
いや知ってるから。仮にお前がマゾだったら俺にどう反応しろっていうんだよ。
等と思いながらも席から立ち上がったテスの背中を押して外へと催促した。
「ほらほら、身支度終えて行くぞ」
「あちょっ、押すなよ!」
「えーと、確かこの場所で合ってたよな?」
『はい。その通りを曲がった道を「どこ行く気なんだ?」……』
ルシアナビを駆使して前回来た路地を進んでいく俺は、ルシアの言葉を遮ったテスの質問に答える。
ちなみに今テスは俺の隣を歩いている。警戒して後ろとかを歩くのかな? と思った俺だったが、幾らか俺達に信用を寄せてくれたのだろうか? もしくは俺の餌付けが成功したのだろうか。
「お前と最初に会った場所にね」
「ついてこい」
そう言うなりテスは路地の奥へと走っていった。
走るといってもかなりゆっくりなので、恐らくは道案内のつもりなんだろう。
「えっ? っと早いな」
俺達を置いて走っていったテスを追って建物の間や塀の下に空いた穴を潜っていく。
道中、猫の集会場や明らかに人が通らないだろう場所を通過しながら真っ直ぐ何処かへと進んでく俺達。
「おーい、ここって何処に繋がってるんだ?」
「お前の行こうとしてるところ」
短くそう告げて大人の背丈はありそうな石垣をよじ登ろうと頑張っているテスを担ぎ上げて石垣を越えた俺。
時間短縮の為にやった事なのだが、何故かテスが物凄く驚いた表情で俺を見てきた。
「本当に到着したな」
スタッ、と着地して「次はどの方向?」と聞こうとした俺は、周囲を見渡して此処が目的地、エグルフさんの工房へ到着している事に気付いた。
おお、普通に行く時間の半分も使ってないぞ、早いな。
「……道案内は慣れてるって言っただろ?」
色々と言いたい事を飲み込んだのだろう。ぎこちない笑みを浮かべて俺に威勢を張るテス。
と、そんなテスの背後から突然、一人の老人が転移してきた。
誰であろう、エグルフさんである。
「よく来たのぅ。……ちと人数が多いみたいじゃが」
ビクッ、と驚いた様子で振り向いたテスの顔をまじまじと観察しながら、エグルフさんは「大丈夫なのか?」と俺にアイコンタクトをくれた。
「これらを他言しないのは俺が保証するよ」
「なら良いだろう」
勿論本当かは分からないが、それでも答えないよりかはマシだろう。という事でテスがこの一件を決して他言しない、という事を信じることにした。
「誰なんだ?」
「エグルフっていう武器職人」
俺はそう言って、えぐるふ……と記憶の書庫から何かを探しているテスをライムと一緒に置いておき、「じゃあ、少ししたら終わるから、それまで遊んでてな」とライムに告げて工房へ入った。
「よし、前回は色々と有耶無耶になってしまったが、まずはお主のその剣の事から話そうか」
「相変わらず単刀直入なんだね……」
前置き無しでズバッと入ろうとするエグルフさんに、癖というか……突っ込みを入れて応えた俺。
いちいち答えるのをやめたのか、その突っ込みには反応せずに本当に本題へ入った。
「お主の剣、儂が解析した時にはその情報量から銘を把握できんかったんじゃが、古い書物の情報を漁ってみた結果この剣が『叡命剣 エクセルシア』という名称だという事と、文献にのみ存在が明かされておった伝説の神剣だという事が分かったんじゃ」
【神剣技師】とかいう凄そうな技能でも名前すら把握できなかったとか、ルシアってやっぱ凄いんだな。
というか……、
「叡命剣っていうんだな……」
「む、下の名は知っておったのか?」
「【解析鑑定】で見たからそっちは知ってたんだけど、叡命剣っていうのは初めて聞いたな」
叡命剣、読んで字の如く知恵と命を持つ剣。たしかにその通りだな。
『……初めて知りました』
(そうなの?)
どうやらルシアも、自身の銘である叡銘剣という単語は知らなかったみたいだ。
ルシアが把握しきれていない自身の情報があったとは少し驚きである。
「……儂が読みきれんかった情報を把握しているとはな。儂もまだまだ力不足ということじゃな」
どうやら、エグルフさんが解析できたのはルシアの大まかな性能のみで、肝心の名称や能力までは解析しきれなかったらしい。それでエクセルシアという名前まで導き出したエグルフさんは、やはり凄いのだろう。
「お主、この国にはいつまで滞在してる予定なんじゃ?」
「ほんの数日の間だけだけど、アシュトルスからでも転移で国の前まで転移できるから平気」
「そうか……」
俺の返答に少し考え込んだエグルフさん。
「……これは提案なんじゃが、その数日の間だけ剣を預からせてはくれんか?」
かつてない程真剣、かつ相変わらず単刀直入にそう切り出してきたエグルフさん。
預かるって事は……。
「模倣するため?」
「いや、それは諦めた」
違うみたいだ。
エグルフさん曰く模倣は【神剣技師】にて神剣の情報を読み取り、その情報を別に造った剣に付加させる、と端的にはそういう手段らしいのだが、ルシアは異常な情報量と秘められたあり得ない量の魔力から、十分の一も模倣する事ができない程なんだとか。
「模倣は無理じゃが、儂には付加ができる。ベヒモス封印の力に一役買えるような技能を付加させる為にも、時間を掛けてその剣を調べたいんじゃ」
確かに、そのベヒモスというのがどういうものかは知らないが、ルシアが強化されるのなら俺としても嬉しいし、是非とも頼みたい。
「ちなみに、本音は?」
「儂が初めて匙を投げた剣への腹いせじゃ。欲望の限り調べ尽くして、儂の出来うる限りとことん強化してやりたい」
(だってさ、どうする?)
声音と勘から、強化してくれるのは確実だろう、と思いながらルシアに聞いた俺。
俺がいくら強化したい、等と駄々を捏ねたとしても、最後に決めるのはルシア本人、自分自身である。
『まだ知らない自身の能力が分かるかもしれない、という意味では是非もないことですが、『私』の存在を知られるリスクを考慮しますと……』
まぁそうなると今後の危険性は高いだろう。
「一つ良い?」
という訳で俺はエグルフさんに一つ問うた。
「答えられる範囲でなら」
「この剣にはとある能力があるっていうのは分かってるよね?」
「無論じゃ。神剣じゃぞ? これでただの切れ味の良い剣だったら、儂もここまで追及しようとはせん」
だろうね。だからこそルシアをもっとしっかりと解析したい、も思ってるんだろうし。
「俺はこの剣の力を知ってるんだけど、もしこの剣を解析してそれがどんな能力かを知ったとしても、それを決して他言しないって事を誓って欲しいんだ」
「愚問じゃな」
清々しい程の即答であった。
かなり重要な事なのだが、本当にわかっているのだろうか?
「そもそも、儂にゃそんな対話するような生物はおらん」
……言ってて悲しくないのかな。
それをビシッと言ってしまうエグルフさんに若干引きながらも次の言葉を待つ。
「それに儂が他人に言いふらしでもしたら、その剣が黙っとらんじゃろ?」
オマケ
フランスパンで作ったそれ(ry
普通、フランスパンでフレンチトーストを作る場合は食べる大きさにカットしてから作ります。
という訳でファルお手製、丸々フランスパンフレンチトーストの作り方。
1:フランスパンに縦に切れ込みを入れます。
2:取れたて(宿主に)貰いたての卵、牛乳、蜂蜜をトロトロになるまで混ぜます。
3:それらをすらフランスパンの切れ込みの中へ、溢れるまで流し込みます。
4:通常のオーブンでは中までしっかりと熱が伝わらない&焦がしてしまう恐れがありますので、火属性魔法を駆使して満遍なく焼き上げたら完成。
「……うん、絶対真似出来ないな、主に最後」




