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集落へ

「もう少し歩けば集落がある筈だ」


「そうなの?」


『約2キロメートル先に生命反応が多数、恐らくその場所が集落でしょう』


  無事森を抜け、先が見えないレベルに広がる平原を歩いていた俺達。森の中には面白いくらい存在していた魔物や魔獣は見当たらず、馬や牛に似た動物が草原を闊歩かっぽしている。


  魔物は魔酸素が多く存在する場所を好む傾向があり、魔酸素の濃度が高い森には多くの魔物がいたが、魔酸素が薄いこの草原には魔物はあまり発生せず、魔力を持たない動物が独自の生態系を築いているらしい。

  因みに動物と魔獣の分類は魔力の有無によって決まるらしく、魔力を殆ど持たない生物を動物、その逆は魔獣で、魔物は魔酸素から生まれる事があるのでどちらにも属さないらしい。

  なので生まれは動物だが、後天的に魔力を得て魔獣となる生物も存在し、その辺りの境界線は微妙なので何とも言えないらしい。


  暫く歩いていると、彼方に人の作った様な建造物が見えたので、ルシアの【神察眼】を使用して見てみると、それは小さな集落だった。


「あの遠くに見えるのがそうか?」


「……本当に眼が良いな。確かにそうだ、知人が住んでるんだが……十年ぶりだな」










  辺りが真っ暗になった頃、俺達は集落へ到着してオーガの言う人物の家に行ったのだが…………。


「……俺達は、邪魔かな?」


「みたいですね。……あっち行きましょうか?」


「ちょっと待て色々誤解だ」


「…………」


  家にお邪魔した瞬間、その家にいた女性――オーガの言っていた人物だろう――が、オーガを認識するやいなや、突然オーガに抱き付いたのだ。

  流石に天然のルーガもこれには空気を読んで、俺と一緒に家から出ていこうとした所をオーガに止められた、というのが今の状況だ。


「もう……何処にも行かないで下さい」


  オーガに顔を埋めながら女性は言った。

  ……ごめん、話が飛躍し過ぎてて理解が追い付かないんだけど。


『はわわ……』


  ルシアが物凄い動揺している。普段から無表情で、感情を殆ど表に出さないルシアなだけに、かなり新鮮だ……って違う!

  何故にルシアが動揺してるかは置いといて。


「知人って……彼女さんだったんだな」


「オーガさんのあんなに困った表情、初めて見ました」


「……俺に弁明の余地は無いのか?」






「お騒がせして申し訳ありませんでした」


  顔を紅くしながら女性が頭を下げた。

  先程のカオスの状況から数分、ハッと気付いた様にオーガから離れて、今は頭から湯気を出している。

  謝っている女性は、よく見たら尻尾と獣耳が生えている、オーガと同じ白狼の獣人だった。

  ちなみにルシアは今も尚ブツブツと呟いている。


「取り敢えずオーガ、説明を頼む。じゃないと俺、これからまともにオーガと接する自信が無いぞ」


「いえ、ここは私が。自己紹介がまだでしたね。私はソウガと申します」


  そう言ってソウガと名乗る女性は説明を始めた。

  彼女は幼い頃に親を亡くし、草原をさまよっていた時オーガに拾われ、その時にオーガからソウガという名前を付けられたらしい。

  なんともルーガと似た処遇だが、オーガはその後、ソウガを育てながらも生きる為の技術や力を教え、突如自身の前から姿を消したという。


「それから十年、突然私の前に姿を現したものですから……自身を抑えられずにあのような無礼を」


  ぷしゅぅぅぅ、と頭から湯気を出しながらソウガは説明を終えた。

  ……あぁ、うん。オーガが悪いと思う。


「これはオーガさんが悪いと思いますよ? 流石に一言説明しなくちゃ、私の時もそうだったじゃないですか」


「え、ちょっと待って。今聞き捨てならない事を聞いた様な気がするぞ」


  私の時も、ってどういう事?

  無言でオーガを見詰めた。ああ、そういえば言ってなかったか、みたいな雰囲気でオーガが説明を始めた。ちょっと予想していた反応とは違うが、まぁいいだろう。


「ルーガも既に独り立ちしている。一年前だったな。ちょっと前に偶然出会って、ルーガと目的地まで一緒に行動していたんだ」


  オーガの爆弾発言に、俺だけじゃなくソウガも驚きを隠せずにいた。

 直後にソウガはオーガの手を引いて、俺とルーガから少し距離を取ってからオーガと話し始めた。


「成る程、分かりました……! つまりソウガさんは私の先輩なんですね……!」


「それ全然分かって無いだろ……!?」


  ルーガも俺に向かって再び声を潜めて会話を始めた。さっきから小声で会話したり説明を聞いたりの繰り返しだが、その辺りは許して欲しい。 だって俺も状況の整理が出来てないんだもん。


  しかしオーガって、色々複雑なんだな。

  つまりはあれだろう? 親や身内がいない子供を拾っては育て、独立できるだけの能力を育んでから、何も言わずに別れるという。

  ちょっと俺、オーガを疑ってしまいそうだよ。

  なんて思っていたら、ふとある事が頭に浮かんだ。


(ん? という事は……俺も拾われたって事?)


  俺はこの世界の親を知らない、「一緒に来るか?」という台詞……間違い無く俺も拾われたな。






  数分後、場の空気がようやく治まり、全員が座るのを見計らいオーガが口を開いた。


「……まず一つ、俺にはそういう趣味は一切無い。それだけは言わせて貰うからな?」


「当然です。オーガ様にその様な趣味が存在する筈ありません」


「そうですよ。私とソウガさんの親的存在なんですもん! あり得ませんよ!」


「「それで、どんな趣味なんですか?」」


「知らないなら相槌打つな! そしてハモるな!」


  まぁ、二人がオーガを信じてるっていうのは納得したけど……。この二人には何処か通じる所があるみたいだ。


  その後、軽く自己紹介を済ませた俺達は、お茶(に似た飲み物)を飲みながら話し始めた。


「それにしても、私の他にもオーガさんに拾われた方がいたとは思いませんでしたよ!」


「あら、ファルさんもオーガ様に拾われたのでは?」


「いえいえ、ファルちゃんは私が拾ったので、誰にも渡しません!」


「物を拾った。みたいな会話をすんな! そして何で俺はルーガの膝に座ってるのか……」


  もはやルーガの玩具と化している俺。


「そういえばホウガは?」


あれ(・・)はオーガ様を探すと言って出ていきましたよ」


「ホウガ?」


「俺が最初に拾った、狐の獣人だ。無事でいれば良いんだがな」


  他にも拾ってたのかよ。

  話によると、そのホウガという人物は親が盗賊に殺され、その時に通り掛かったオーガが拾ったのだという。ちなみに性別は男らしい。

  オーガが変な趣味ロリコンを持ってなかった、というのが本当みたいなのでホッとした。


「なんというか、オーガって人に名前付ける時、名前の最後に『ガ』を付ける癖があったりするの?」


「俺の故郷は名前に『』を付けるしきたりがあってな、俺の名前がオー『ガ』なのもその理由だ」


「ちなみに俺に名前を付けるとしたら?」


「……リュウガ?」


「龍人だからリュウガってか。安直だな!」


  なんてほんわかとした会話をしていたら、ルーガが唐突に話題を変えてきた。


「そういえば、この四人の中でオーガさんだけ男の人ですよね」


「いえいえ、何に言ってるんですか。ファルさんも男の子でしょう?」


「性別と性格が一致してないけど、女みたい」


「え!? ファルさんって女の子なんですか!?」


  ソウガが驚きながら、この前ルーガが俺に言ったのと同じ台詞を言った。

  まぁ中性的な見た目で中身は男だから、知らない人は間違えるわな。


「私も最初は驚きましたよ。でもほら」


「っひゃあっ!? 見せんな! 布返せ!」


「……本当なんですね」


  俺を膝の上に乗せて(拘束して)いたルーガが、俺の纏っていた布みたいな植物――『エトッフラワー』と言うらしい――を引き剥がしだのだ。

  つまり今の俺は一糸纏わぬ姿で、ルーガに身動きを封じられているのだ。

  ちなみにオーガは平然と飲み物を(すす)りながら「美味いな」なんて呟いている。助ける気皆無だろ……。


「あ、そういえばあれ(ホウガ)が昔着ていた服が…………、ありました。少しサイズが大きい気がしますが、無いよりかはマシでしょう」


  棚をゴソゴソと探って子供サイズの男服を上下持ってきたソウガ。男服の理由は「旅をするならば動きやすい物の方が良いだろう」との事。


  早速着てみたが、結構裾が余った。早く動く時に少し支障があると思うが、先程までの布と比べたら遥かにマシになった。


「下着はありませんでしたが、着れない事も無いかと」


「いや、物凄く助かるよ。これで少なくとも真っ裸にされる危険は無くなったしね」


「フッフッフ、ならば今すぐ脱がしてあげましょうか?」


「やめろ! 本気でやりかねないから怖い!」


  エトッフラワーの葉を頭の上でヒラヒラとさせながらルーガが堂々とセクハラ宣言をする。

  幼女趣味ロリコンはルーガだったのか?


「ところでこの布はどうするんですか?」


  俺から奪ったエトッフラワーの葉を指さしてルーガが聞く。


「そうだな、今まで世話になってたし……ばさみってある?」


「ちょっと待ってて下さいね、確か此処に……はい、ありました。何に使うんですか?」


「いや、この布を再利用しようと思ってね」





  10分と少しが経った頃、俺の手にはかつて身に纏っていた布が……マントとなって生まれ変わっていた。

  前世だと服の修繕とかは当然だったからな、これくらいは簡単だ。


「おぉー、何か輝いてますね」


「え、マジじゃん!」


  何の気なしに手に持ったマントに目を移すと、マントが物理的に光ってるのが見えた。


「これは……進化の時の光に似ているな」


  この世界の生物は、種族にもよるがある条件を満たすと稀に能力や外見が変化する、所謂『進化』が起こる事がある。その時には兆候として光を放つみたいなのだが、今のこの光がその進化の時の光と同じだとオーガが言った。


  え、という事は『布をマントに加工=進化』って事だよね? 稀に進化するとか言われてもさ、加工しただけで進化しちゃったら、もうこの世界の物とか光りまくりじゃね?


「この布はどこで手に入れた?」


「(ルシア、マントの解析頼む)いや、エトッフラワーっていう植物の「エトッフラワー!?」そうだけど、どうしたの?」


「そ、それって魔力を栄養源としていると言われる伝説の悪魔植物ですよ!」


  少し興奮気味でそう説明するソウガ。

  曰く「生物が活動する事が不可能なレベルの魔酸素が漂う土地に咲く『悪魔植物』の一種」なのだという。

  大昔の文献の一つに載っていた情報らしく、存在するかすら不明だったらしい。


『解析が完了しました。このマントは『エトッフラワーマント』という名前となっております。特殊効果で、着衣や防具等のサイズが装備者と同じ大きさになる魔法や、特殊な障壁が発生して着用者の身を守る魔法が込められております。どうやらこの植物は、加工する事によって着用者に何らかの効果をもたらす『装備』に進化させる事が可能な様です』


  うわ、なにその便利能力……。

  早速着てみた。すると、ブカブカだった服が一瞬でビッタリのサイズになったのだ。


「……この布、少し分けてくれませんか?」


「余ったやつでいいなら、そんなに希少なの?」


「古代の文献にしか存在を知られていない植物ですもの。もしこれが本当にエトッフラワーだったら、世界的な発見ですよ」


  そう言うが先か、善は急げと言わんばかりの速さで部屋へと引っ込んでいった。


「ソウガさんは、植物とか好きなんですか?」


「確か、昔からジャンルを問わず古いものが好きだったな」


「それはいいけど、俺達どうするの?」


  その後、家の主が部屋に引き込もって出て来なかったので、勝手にその場で一夜を越した俺達だった。

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