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移動中の出来事

二話連続で投稿遅れてしまい、申し訳ありません……。

  ぽつぽつと頬に当たる雨を感じながら、俺達は目的地へと続く獣道を進んでいた。


「明るくなってきたな」


「この調子だと朝までには着きそうっすね」


  ルーガの指示通り夜中に国を出た俺達は、戦時中の重要拠点とした三つの砦の一つを目指していた。

  ジャックさんやライアンは別動隊で他の二つの拠点へ向かっている。


「どうしたんすか? 出発した頃からなんか考えてるみたいっすけど」


「いや、ベクトリールの暗部が言ってた事が気になってさ」


  出発の直前、俺はジャックさんと暗部に関しての話をしていたのだ。





 《名前は答えなかったが、ベクトリールでは『幻』と呼ばれてたみたいだ。それと肝心の情報だが、一切口を割らなかった》


 《まぁ、そう簡単に喋ったりする筈無いもんね》


 《だが一つ妙な事を言ってたな》


 《?》


 《……《我々ベクトリールは子供冒険者を越える力を更に得た》だそうだ》


 《力……亜理子の他に?》


 《それ以降は何も口を開かなかったから何とも言えないな》





  そんな会話があったのだ。

  もしかしてベクトリールが新たに転移者を召還したのか? という疑念も持ったが、ルシアが言うにはそれは不可能らしい。


『空間を越えての転移は一般的に『召還』と言いますが、これには膨大な魔力を消費します。およそで表しますと、この場所から魔の樹海……私と御主人様(マスター)が出会った場所まで転移する分の魔力の三倍強を必要とします』


  どうやら、俺の現在の所持魔力が四割ほど持ってかれるらしい。

  ……凄い消費するんだな。


『これはあくまで『別空間のものを召還』した際の消費魔力に過ぎません。御主人様(マスター)のいた世界……これは空間や次元をも通り越した場所からの転移となりますので、あくまでも推測に過ぎませんが、消費魔力は大陸を横断した際の消費魔力の約五倍でしょう』


  ごば……それは連続して使えないわな。

  途方もない量に、嫌でも納得してしまった俺。


(というか、そんな量の魔力を用意できたベクトリールも凄いな……)


『ベクトリールは鉱業が盛んな国と聞きました。恐らく高純度の魔結晶を使用したのでしょうが、前述の必要魔力量に達するレベルを保持していた可能性は限りなく低いでしょう』


  だとしたら、新たな力ってのは?


『不明です』


  そりゃそうか。


  ちなみに、暗部()は現在も地下牢で大人しくしているらしい。

  映画とかでよく見るような感じの、情報を喋らない為に自害、とかされるよりかはマシだろう。




「確かにそれは気になる所っすけど、今はそれを考えるよりも先に目的地に着かなきゃっすよ」


「それもそうだな」


  到着する予定としては日の出の前なので、少し急いで歩いた方が良いだろう。

  目的地へ到着したら、そこで軽く食事でも取ろうという言葉で兵の士気を上げようと考えたのだが、思った以上に効果があったみたいだ。


「冷えた体にトンジル……楽しみっすねぇ」


「好きだねぇ」


「そりゃあもう」


  カトラさんの苦笑を気にする事無く、その言葉に肯定しているラーフ。

  相当気に入ってくれたみたいだ。


「旨いですし」

「作りやすいし手軽だし」

「スープなので食べやすいですしね」


「それに、何といっても美味しいですもんね!」


「それは最初に言ったぞ」


  どっと笑いが巻き起こった。






  ……ん? ちょっと待てよ。

  ふと違和感に気付き、今も楽しそうに豚汁を語り合ってる兵士達を見ると、一人だけ周囲とは浮いた服装の少女が兵士達に交ざって参加していた。



「ルーガ!?」


「はい?」

「ルーガってあの?」

「そんな訳無いだろ」

「だよな、こんな場所に女王様がいる筈が無いもんな」

「でもあれ? この部隊、滅剣以外に女兵士なんていたっけか?」


「アタシ以外に女はいない筈なんだけどねぇ」


「「……えっ?」」


  兵士達も違和感に気付いたらしく、今まで完全に場の空気に溶け込んでいた少女、ルーガを全員が見た。



  ……取り敢えず俺は兵士達にその場で待機するよう伝え、問答無用でルーガを連れた。






「っ? っ? どうしたんですか一体」


「どうしたんですか? じゃないでしょ! 何で付いてきてるんだよ!」


  声聞くまで全く気付かなかったし、凄い驚いたわ!

  と、そう叫ぶのは心の中だけに留めてルーガを見た。


「私も戦います!」


  なんの悪びれもなくそう言ってのけたルーガに、軽く頭痛を覚えたのは俺の気のせいだろうか。


「戦いますって……一応女王でしょうが」


「女王以前に一人の亜人です!」


「言い訳にすらなってないぞ、それ」


  謎の理論を持ち出したルーガは、そう言って少し頬を膨らませた。

  不機嫌を表しているのだろうが、威厳もへったくれも無い顔だったので、特に理由は無いが小突いてしまった。


「うえっ! いきなり何するんですか~」


「特に意味は無いけど、反射的に」


  おでこを押さえながらルーガが非難の声を上げた。


「私だって、結構怒ってるんですよ? ファルちゃんに怪我させてライムちゃんがいなくなった原因を作って……」


  というわけで! と言って俺に向き直るルーガ。少し楽しそうにしているように見えるのは俺の気のせいではない筈だ。


「私もやってやります!」


「……他のメンバーにはどう説明するの?」


  ルーガの名前が出てきた時点であのざわめきようだったのに、「女王の私も戦いに参加します」なんて言ったとしたら……混乱なんて話じゃ無いぞ。


「どう……? 説明するんですか?」


「考えて無かったのか……いやまぁ予想はしてたけど」


  ルーガの「うん?」みたいな表情を見ていたら、自然と責める気が失せてしまった。

  ここまで付いてきてしまってるから、今から追い返すなんて事もできないし、仕方ないか。


「絶対死なないでよ」

「はい!」


「ある程度は皆と一緒に行動する為に、俺の指示を聞いてね」

「勿論です!」


「……豚汁お代わり無しな」


「とうぜ……ええっ!? それはあんまりですよ!」







「お待たせ……ってどうしたの?」


  兵士達の元へと戻った俺とルーガだったが、全員が剣を抜いて身構えているのを見て、何やら良からぬ事が起こっているのを察した。


「隊長、気を付けて下さいっす」


「えっ、何が――」




  ――あったの? とラーフから目線を外したのが引き金となったのだろう。

  その時、俺の頭上と足元の二方向から何かが襲ってきた。


「うおっ!」

「ギャッ!?」


  反射的にジャンプして足元の生物を避け、ルシアで上から襲ってくる影を斬った。

  断末魔の悲鳴を上げてドサリ、と落ちた生物の正体は、脚が八本生えている猿だった。


蜘蛛猿(スパイダーモンキー)です』


「え、クモザルって……『そちらではありません、御主人様(マスター)』だよな」


  少しボケただけだって。

  暫く手足を痙攣させていた蜘蛛猿(スパイダーモンキー)だったが、やがて動かなくなった。


「ちっ、運悪く『合戦』に巻き込まれちまったみたいだね!」


「合戦? うわっ、キモっ!」


  地面に剣を突き立てながら舌打ちをするカトラさん。

  よく見ると、ふさふさの毛に覆われた生物が地面をわらわらと這っていた。

  薄っぺらで気付かなかったが、かなり大きい。


髪蟹(ヘアクラブ)です。……違いますからね』


(二回も続けて同じようなボケはしないから!)


  全く、ルシアはその情報をどこから入手してくるんだか……。


「この時期はコイツ等の繁殖期なんだよ。んで、この二種が毎年縄張り争いをするんだけど、それをアタシ等は合戦って呼んでるのさ」


「猿と蟹が合戦……」


  どっかの昔話で聞いた事があるぞ、それ。

  髪蟹(ヘアクラブ)の毛で覆われた甲殻にルシアを貫通させ、それを持ち上げて樹上で様子を見ていた蜘蛛猿(スパイダーモンキー)に投げつけた。


「ただでさえ繁殖期で気が立ってるってのに、合戦中にアタシ等が横入りしちまったから、標的にされてるってのが今の状況なのさ」


  俺の攻撃で落ちてきた蜘蛛猿(スパイダーモンキー)を大剣で両断するカトラさんは、そのままの勢いで血に惹かれてやってきたらしい別の魔物を斬り裂いた。


「まずはこの数を何とかしなきゃ」


『軽傷者多数。幸い重傷者はいません』


  幸い、戦闘力はさほど高くないらしく、怪我人も今は多くない。


「コイツ等っ、弱いくせして数だけは凄いから腹が立つ!」


  髪蟹(ヘアクラブ)を持ち上げ、盾にして熊のような魔物の爪を防ぎ、そのまま二匹とも大剣で刺し貫いた。



「私に任せて下さい!」


「あちょっ、ルーガ!」


  魔物の群れに躊躇無く突っ込んでいったルーガ。次の瞬間、バタバタと魔物が倒れていく。

  ルーガの様子は魔物に遮られていて分からないが、確実に楽しんでいるだろう。


「お、おぉ……」


  ルーガが無双している姿に軽く驚嘆(きょうたん)しているカトラさん。それでも魔物を斬る手は止めない。


「あの嬢ちゃん、何者なんだい?」


「ルーガ」


  目をぱちくりとしばたかせてカトラさんから驚いている。


「あの女王の?」


「何でこんな所に来てるのか分からないんだけどね……」


  舞うように移動して魔物を斬り倒していくルーガ。周囲の魔物が全滅するのに、そう時間は掛からなかった。







「ふぅ、久々に暴れましたね」


  清々しい表情で俺達の元へ戻ってきたルーガ。久々に剣を振ったらしく、とてもストレスの発散になったんだそう。

  と、魔物の全滅を確認した兵士達が戻ってきた。



「あ、えっと……女王様?」


  恐る恐るといった様子で兵士の一人がそうルーガに声を掛けた。

  するとルーガは、剣を仕舞って……、




「そんな堅苦しい呼び名でなくとも良いですよ」


  おしとやかにそう言って微笑むルーガを見て、俺は吹き出しそうになってしまった。

  どこでそんな特技覚えたんだし。


「どうしたのですか?」


「……い、いや何でもない」


  なら良いのですが……。そう言って心配そうに俺を見たルーガに、再び俺は吹き出しそうになる。

  演技なのは分かっているが、分かっているからこそ不自然さが滲み出て、何か凄い事になっているのだ。


「ご紹介が遅れてしまいましたね。私はルーガ=アシュトルス、二十五代目女王をさせて頂いています」


  そう紹介してスカートの端を摘まんで少し上げ……ってコラ、その作法はミニスカートでやっちゃいけないからな。ほらそこ、「おぉ」とか言って見ない。


「やっぱり本物……」

「でもなんでこんな場所に」

「そりゃあお前、……何でだ?」

「それ以前に、何で今まで女王さんの存在に気付けなかったんだっていう疑問がアタシにはあるんだけど」


「「あっ……」」


  声を揃えてそう呟いた兵士達。息ピッタリだな。


(アーツ)で身を隠しておりました」


  次の瞬間、ルーガが闇に溶けて消え、兵士達から「おお……!」と驚きの声が洩れた。


(ルシアは気付いてたの?)


『……いえ、あの獣人が使用していた(アーツ)は恐らく【影隠】でしょう。これは闇夜に溶け、影に潜る隠密系の(アーツ)です。……不覚にも感知すらできませんでした』


  と、かなり悔しそうなルシア。

  【神察眼】で認識する事は可能なのだろうが、完全に気配が消えていたので気付かなかったのだろう。



「ルーガも戦争に参加するみたいなんだ」


「へー、そりゃまた……え?」


  俺の言葉に、ラーフを含む全員が固まった。


「え? 参加するってあれっすよね? 後ろの方で指示飛ばしたり俺達みたいな兵士に喝入れたり……」


  あくまでも指揮する立場としてルーガがやって来たのだろう、と考えているのだろうラーフが、ルーガを顔を見ながらそう聞いた。


「……ラーフ、ルーガはサバゲーでスナイパーライフル持って前線を張ってるような人物なんだよ」


「隊長、何言ってるのか全く分からねぇっす……」


  少し背伸びをしながらラーフの肩に手を置き、そう説明した俺。まぁ、確かに今の喩えじゃ分からないか。


「つまりは最前線で戦うって事だよ」


「……マジすか」


  ようやく意味を理解したらしく、ラーフの目が点になっている。


「そりゃあ危険なんて話じゃない気がするんだけど、女王さん?」


  カトラさんが、あくまで対等な目線でそう言った。それに対してルーガも、予め予想していた言葉だったかのように「それは私だって百も承知です」と応えた。


  そして暫く見詰め合う二人だったが、やがてカトラさんが折れた。


「……分かった。アタシは賛成だよ、女王さんが参加するの」


  えっ! という声が周辺から聞こえてきた。兵士達全員がカトラさんは絶対に反対を突き通すだろう、と思っていたからだろう。


「前線って……死んでもおかしくないんすよ? 危険過ぎるっすよ」


  ここでラーフが反対意見を引き継いだ。


「アンタはそこの女王さんが力不足って、そう言いたいのかい?」


「そんな訳ねぇっすよ。たった今一人で魔物を全滅させたんですし、大戦力なのは間違いねぇのは分かってるっす」


  ラーフの言いたい事は俺にも分かる。ルーガだろうと誰だろうと、戦争とは死ぬ可能性があるのだ。

  女王になって半年も経っていないのに死んでしまうなんて事、更に言うなら戦争中に女王が死んだなんて情報がベクトリールに入ったら……それこそ無条件降伏ものだろう。


「女王様の死は、アシュトルスの死でもあるんすよ? それを承知の上で、女王様には女王様のやるべき事があるんじゃないんすか?」


「お心遣いありがとうございます。しかし、それでも私は戦うつもりです。死ぬつもりなんて毛頭ありません」


  はっきりと、全員に聞こえるようにそう断言したルーガ。

  一回死んでるけどな、と突っ込みを入れる程、俺も馬鹿ではない。


「……アタシは貴族とかいう、後ろで威張り散らして甘い蜜だけを舐めてるような輩は大嫌いだ。けど、この女王さんは違う。アンタは、そこの女王さんが死ぬ為に戦おうとしてるように見えるかい?」


「いや……」


「アタシには女王さんがその辺の馬鹿貴族とは違うように見える。それに死のうとも思ってない。何度も言うけど、女王さんは本気(マジ)だよ」


  けど……、と口ごもるラーフ。大丈夫なのは分かっていても、それでも心配はどうしても拭いきれないのだろう。

  ルーガが、一度決めた事は絶対に曲げない性分なのを知っている俺は、仕方なしにフォローを入れてやる事にした。


「賛成するかは別としても、ルーガ……女王が強いのは俺が保証するよ」


  俺の言葉を聞き、少しの間黙り込んだラーフは、困ったような表情でルーガを見た。


「……いち兵士である俺等が、女王様に意見なんてできないっすからね」


  溜め息混じりでそう口にするラーフ。


「俺等は、女王様を全力でサポートするっすよ」


  その言葉に兵士達が傾く。それを見て、はにかみ笑いを浮かべてルーガがふわっ、と頭を下げた。


「ありがとうございます、皆さん」


  ……そして俺の方を向いて小さくガッツポーズをするルーガ。





「まぁ、まずは日が昇りきる前に到着しよう。細かい打ち合わせはそれからやろう」


「「はい!」」


  そうして、後に戦場を駆け抜ける悪魔、『地獄猫』という異名でルーガがベクトリール軍から恐れられる事となるのは、もう少し先の話。

オマケ。




蜘蛛猿(スパイダーモンキー)



特徴:手足が合計で八本存在する魔物。普段は樹上にすんでおり、粘着性の高い体液を周囲に散らして巣を作る。

基本的に大人しい魔物だが、繁殖期に入ると群れを作り、繁殖場所を巡って髪蟹(ヘアクラブ)と群れ単位で縄張り争いをする。





髪蟹(ヘアクラブ)



特徴:水場の無い山や森でも活動ができるように、甲殻から生えた体毛で空気中の水分を吸収する魔物。

繁殖期には群れで蜘蛛猿(スパイダーモンキー)と縄張り争いをする事で有名。

体毛の色は様々で、黒、茶、金の体毛を持つ個体がいるが、年を取る(ごと)に体毛が白く変わっていく。

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