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初戦闘

「えーっ! ファルちゃんって女の子だったんですか!?」


「ッビックリした……。両手が使えないんだから耳元で叫ばないで! それと早く下ろせ! っていうか見るなぁ!」


「あ、本当ですね。無いです」


  オーガ達と出会って3日目、延々と続く木々を歩きながら、質問に答えたり、逆に質問したりしていたのだが……。ルーガが俺を抱き上げて、そのまま歩こうとしたので抵抗したら「ファルちゃんったら、照れてるんですか? やっぱり男の子なんですね~!」なんて言ってきたので「一応俺、『性別・・』は女だからな?あとちゃん付け止めろ」と返した所、今のルーガの反応及び行動となったのだ。


  ちなみに俺は今、ルーガにぬいぐるみの様に抱き抱えられている。悲しいかな体格差のせいで逃げる事が出来ない。手足をばたつかせるので精一杯だ。前世だったら美少女に抱き抱えられているというこのシチュエーションは楽園なのだろうが、性別が変わって時間も経つので女性――当然男性もだが――に抱き抱えられても特に何も思わない、ただ恥ずかしいだけだ。


『…………』


  何故だろう、ルシアから謎の圧力を感じる……。

  ルシアは普段、自身を小さくして首飾りみたいな状態になって俺の首に下がっている。今も尚布っぽい植物を身に纏っている俺が、半裸で剣を持ってたら不自然だろうというルシアの配慮なのだが……、サイズすらも自由に変えられる辺り、やはりルシアは高スペックだ。




  オーガ達と行動を共にして3日となるのだが、二人がどれだけ凄いのかというのをまじまじと見せつけられた。

  ルーガは、何処から取り出しているのか知らないが、両手剣を使う。木の影に隠れる様に潜んで魔獣や魔物が隙を見せたら急所を一撃、という戦法を主に使用する。

  木が無い開けた場所では普通に対峙するのだが、動きが速すぎて何が起こったのか分からない内に終わってたりする。


  対するオーガは、驚く事に素手を武器に魔物と戦闘――という名の蹂躙――を行うのだ。オーガ曰く「あまり器用じゃないから武器を扱うのは苦手」らしいのだが、5メートル近い魔物が一撃で崩れ落ちる様子は、見ていて軽く戦慄した。


  完全に戦力外な俺……。見てるだけではどうかと、夜にこっそりルシアを振ったりしているが、如何せん俺は前世で剣を触った事が無かった(まず普通は触らないと思うが)ので、立ち回りとか剣の振り方とかを一切知らない。正直上達してるのかも不安な程だ。

  ルシア自身も封印が解かれたばかりで俺が最初の所持者ということもあり、自身が正しく振られているのかは情報不足で分からないらしい。


「仲良くしてる所悪いんだが、そろそろ森から出るぞ」


  オーガがそう言ってから数分、暫く歩いていると、段々と生い茂る木の密度が薄くなってきたのが分かった。


『……あと1,5キロメートル程で森を抜けます』


  若干不機嫌な様子でルシアが伝えてきた。

  俺、なんかしたかな? された事しか思い当たらないんだが。

  俺の中で思い当たる節を必死で探していた俺だった。しかしルシアの今さっきまでの不機嫌な態度が一変――。


御主人様マスター、50メートル前方に生物の反応があります。体長はおよそ8メートル……姿形から推測するに蜘蛛型の魔物だと思われますが、特殊な反応が見られます。今までの種とは少し違いが見られるので注意して下さい』


  突然真面目な態度に変わり、多少の焦りが加わった声色でルシアがそう伝えてきたので、俺自身も気を引き締めて二人に報告した。

  ちなみに俺は、ルシアが発見した魔物や魔獣の情報をオーガに伝える役目に、いつの間にかなっていた。


「50メートル先に魔物がいる。少し様子が変みたいだ」


「本当に察知能力高いな、了解だ」


「では私はファルちゃんを守りますね!」


  俺を抱く腕の力を強めてルーガが下がった。

  抱くんじゃなくて普通に放して欲しい。




  その場で警戒を初めて数十秒、バキバキッ! と木々を薙ぎ倒しながら、迷う事無く真っ直ぐに此方こちらへ向かってきた魔物が全容をあらわにした。


  その魔物は、ルシアの言った通り8メートルはある巨大な蜘蛛だった。しかし、今までも同じ様なサイズの魔物や魔獣が現れたりしたので、大きさだけでは特に驚く事は無かったが、その蜘蛛は今までの魔物とは違った。


  8つの眼がそれぞれ別の色に輝いているその蜘蛛は、体から禍々しいオーラ(?)の様な物を発しており、近くにあった木がそのオーラに触れた途端枯れ、自身の体重を支えきれずに音を立てて崩れ落ちる。


「えっと……何あれ?」


『……解析完了、あの魔物は『モールスパイダー』。『ジャイアントスパイダー』が何らかの原因で変異した種です。今までの魔物とは段違いの魔力を感知しました。どうやらこの森の主のようです』


 ジャイアントスパイダー

  その名の通り巨大な蜘蛛で、樹上を根城ねじろとし、木の下へ来た獲物を直接捕獲する。夜行性で日中は大人しく、そこまで危険性は無い。


 モールスパイダー

  突然変異を遂げてジャイアントスパイダーが進化した姿。寿命、戦闘能力共に高く、十数年周期で性格が凶暴になる。突然変異ということもあり、世界に数匹いるかどうかというレベルの希少種。


「ジャイアントスパイダーか……。しかし様子が変だな」


「あの背中から出てるやつ?」


「それと眼もおかしいですね。通常は灰色をしている筈なんですけど、どうしてカラフルなんでしょうか?」


  ゆっくりとモールスパイダーは此方こちらに近付いてくる。サイズがサイズなので一歩が大きく、どんどん距離が縮まっていく。


『通常種と違い、このモールスパイダーは明確な敵意を我々に発しております。戦闘は避けられないでしょう』


  うん、見れば分かる。だけど俺ね? ただでさえ戦力外なのにルーガに身動きを封じられて動けないのさ。そんな俺にどうしろと? 俺は応援かあの魔物の情報をオーガ達に伝える事しか出来ないんだぜ?


  自分を自分で貶していた俺に、オーガがとんでもない事を口にする。


「ファル、ちょっと戦ってみるか?」


「えっ?」


  今なんて言った? 俺に戦ってみるかって……絶対に勝てないから!

 瞬殺されて終わりだぞ!


「大丈夫だ。触っても即死する訳じゃ無い。お前が危険な状況になったらすぐに助けてやるから」


「いや、そういう訳じゃ無くてさ。明らかに今までの奴より強そうなんですが……」


  ルーガが名残惜しそうに俺を解放した。

  絶対死ぬぞ、俺。まだ俺死んでから8日しか経ってないんですけど。


『確かに通常なら勝ち目はありませんが、御主人様なら問題無いかと』


  ルシアまでもが同意している。


「……こんなに早く死にたくは無いんだけどな」


「真夜中あんなに剣振ってたんだ。怪我こそあれど死にはしないさ」


「そうですよ。何度声掛けようと思ったか……、可愛さのあまり悶死するかと思いましたよ?」


  えぇ~……、普通にばれてたのか。隠れてやってた意味無いじゃん。


「……ヤバそうだったら助けろよな」


  色々な意味で逃げられそうに無かったから覚悟を決めた俺。まぁ、やれるだけやってやるさ。





  ルシアのサイズを元に戻して構える。完全に剣道の構えだが、その辺は勘弁して欲しいと思う。


  俺がルシアを構えた瞬間、モールスパイダーが飛びかかってきた。あの質量の下敷きとなれば唯じゃ済まないだろう。慌てて真横に跳んだ。

  直後、地響きと共に謎のもやが俺を襲った。


  完全に触れてしまって(あれ、ヤバくね?)なんて思いながらもすぐに距離をとるが、特に何も起こらなかった。


『モールスパイダーが体から発しているオーラの解析が完了しました。あれは有機物を分解、吸収して自身のエネルギーに変換する働きがあるようです。御主人様の【万物吸収】の亜種劣化版でしたので、問題無く無効化に成功しました』


  モールスパイダーの体から出ていたもやが跡形もなく消え失せた。ルシアが【共有】でスキルを共有、常時【万物吸収】を発動させてモールパイダーの体から出ていたもやを全て吸収したのだ。


「ほう」


  オーガが腕を組ながら感心の溜め息をこぼした。

 流れでスキル使っちゃったけど、大丈夫だよな?



『ユニークスキルは希少なスキルですので、あまり他人に見せて良いものではありませんでしたね……。次回から注意致します』


  駄目だったみたい。まぁオーガ達なら多少は黙ってくれるだろう。


  自身の武器が消えた事に困惑していたモールスパイダーは、動きを止めていた。

  再びルシアを構え直して突撃する。狙いは脚だ。一本でも切り落とせば、多少は動きを鈍らせる事が出来るだろうと判断したのだ。


「切れっ……っろお!」


  そう叫びながら力任せにルシアを振り下ろした。

  バツンッ! と、硬いものを断ち切る様な音を立てながら、脚が根元から切断された。青黒い液体が切り口から溢れ出ている。


  ううぅ・・・気色悪い。


「おお~切れ味良いですね」


「次が来るぞ」


「ギシャァァァッ!」


  痛みと怒りで我を忘れているモールスパイダーが、俺の方に振り返って、どういう風に出しているのか分からないが、耳をつんざく様な雄叫びを上げた。


  直後――。


「うおっ!? あ、危ねぇ……」


  モールスパイダーの赤色の眼が光ったと思ったら、突然火の玉が現れて俺を狙って飛んで来たのだ。更にその後、黄色と茶色の眼が光った直後、雷と岩石が同時に出現、俺を襲った。


「これ絶対避けれねぇぞ!?」


『眼が光ると魔法が発動……。どうやら眼の色によって使用する魔法が変化する様です。それと、御主人様マスターには【万物吸収】がありますので、殆ほとんど被害は無いかと』


  モールスパイダーの攻撃を分析し、俺に報告するのと同時に「別に避けなくても問題無くね?」みたいな意味が込められていそうな一言を追加でくれたルシア。そうじゃん、忘れてたよコンチクショウ。


  半分ヤケ気味で全ての魔法にわざと直撃する。


「えっ、ファルちゃん!?」


「…………」


  魔法が直撃したのを見て好機とばかりにモールスパイダーは追撃を加えてく。

  火、水、雷、土、風、闇、光……八つの眼の内七つの眼を使用した全属性の波状攻撃が襲う。





  全てを出し尽くしたのだろう。七つの眼の色が真っ黒になり、残る一つ……灰色の眼だけが弱々しく輝いていた。

  ふらつきながらも魔法を放った一点を、残る一つの眼で見ていたモールスパイダーだったが――。


「ギシュ……ギッ!?」


  言葉が通じなくともハッキリと理解出来る程、モールスパイダーは動揺していた。

  自身の体力の大半を使用し、倒したであろう人物がそこに立っていたからだ。


「ファルちゃん! ……無事だったんですね。良かったぁ」


「魔法に突っ込んだ時は冷や汗が出たぞ」


「……心臓止まって死ぬかと思った」


『計49発。モールスパイダーは力を使い果たしている様子です。先程全属性を吸収した事によりアーツ【エレメントソード】を習得しましたので、使用してみますか?』


  無事生還して早々、満身創痍のモールスパイダーの止めを刺そうとするルシア。……正直えげつねぇ。


「で、コイツは弱ってるが、お前はどうするんだ? 終わらせるまでが狩りってやつだぞ?」


  あくまでも淡白な態度で、モールスパイダーを見下ろしながらオーガが言った。

  既にモールスパイダーは戦意が無く、今も逃げようと必死だ。

 少し考えてから、俺は言った。


「いや、俺はこれ以上何もしない」


「……良いのか? コイツが回復したら人里を襲うかもしれないぞ?」


  俺の答えに方眉をピクッと動かしてオーガが言った。オーガの言う事は圧倒的に正しい。意思にも似たものが存在するこの魔物は、体力が回復したら俺を求めて人里に現れるだろう。


「だけど、コイツに俺を襲う意思は無いし、この森の主なんだろ? コイツ。そんなのが死んだら、それこそマズイんじゃないか? 少なくとも俺はそう思う」


  ルーガは、何も言わずに俺とオーガのやり取りを聞いている。森にはジャイアントスパイダーが動く音だけが響き渡る。


「……仮にコイツが人里で暴れたら、それが原因で誰かが死んだら、お前はどうする? 誰が責任を取る?」


「そうなる前に止める。手遅れだったら、俺が責任を取る。何せ俺が(・・)逃がしたんだからな」





 《もしも駄目だったら、俺が始末をつけるさ、何せ俺が(・・)やった事なんだしさ》





「…………」


  よくアニメの主人公が言いそうな台詞だが、どうしてこうも言葉が出てくるのか自分でも驚きだ。不思議と言いたい事が頭に浮かぶ。


  暫く沈黙が続いたが、やがて微笑と共にオーガが折れた。


「良いだろう、お前の言いたい事は理解した。そこまで考えてるのなら、俺は何も言わない」


「何故俺が捨て犬を拾って親に説得してる子供みたいになってるのか分からないけど、ありがとう」


  気付くとモールスパイダーは森の奥へと消えていた。俺とオーガの会話中に逃げたのだろう。


「ファルちゃん、お疲れ様でした! 一人での初めての戦い、どうでしたか?」


「途中、本気で死ぬかと思った。……質問しながら抱き上げるな」


「動きは全然なってなかったが、初めてにしては上出来だろう。日が暮れる前に森を出るぞ」


  普段と変わらない会話を再び始める俺達。途中後ろから気配を感じて何度か振り向いたが、ただ深い森が広がるばかりであった。





  モールスパイダーとの戦闘から20分、森の出口が見えてきた。


「そう言えばオーガ達ってさ、俺がモールスパイダーと戦ってた時、よく狙われなかったな」


「ふふん! 私のアーツ【影隠】で相手から見えない様にしてましたから!」


  どうだ凄いだろうと、決して大きくはない胸を張るルーガ。ルシアが何故か燃えている。


『【影隠】……成る程、スキルの応用ですか』


  そんな会話をしながら、森を出た。

  そこに広がる空間は8日ぶり、且つ異世界に転生して初めての夕焼け空だった。


『これが……空なんですね』


  ルシアが感動している。

  そうか、つい最近封印が解かれたばかりで、空を見るのは初めてだもんな。


「あ! あんな所に馬がいますよ!」


「俺のちょっとしんみりした空気を返せ!」

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