壮絶なるかくれんぼ
「ここがベクトリール城です」
「デカイな……」
「かいナ~」
見上げる程巨大な建造物を見ての第一印象は、一言でいえば『要塞』だ。
某亀の大王様が住んでそうなあの城をもう少しゴツくしたらこうなるだろう。という位巨大なのである。
「当時の砦を戦後に城として建て変えたものなので、強固さは折り紙つきです」
「アシュトルスの城何個分だ? これ」
パッと見て倍近くありそうなサイズの城。移動とか大変そうだな。
と、城門を守る兵士の一人が俺達の存在を認識するなりこちらに向かって走ってきた。
「この城に何用だ」
「突然の無礼ご容赦願いたい、我々はアシュトルスからの使者であります」
変た……兵士がその問いに応える。この辺は任せっきりだな、俺。
「アシュトルス……分かった。少々待たれよ」
板を取り出してその場で何かを書き始める門番。
『書いた内容を予め設定した場所へ送る魔導具です』
一種の転移魔法らしく、設定自体はそこまで難しいものでは無いらしく、俺でもこの魔導具を設定可能らしい。
今度試しに作ってみるかな。
「……よし、許可が降りた。通ってよし」
「ではファル殿、手紙は持っておりますよね?」
「大丈夫。ちゃんと中身も確認しておいたから」
流石にこういう場で忘れるような失敗なんてできないさ。
「陛下、アシュトルスの使者が参られました」
「うむ」
とんでもなく長く広い通路を歩いて十分と少し、ようやく謁見の間に到着した俺達。
既に俺達の事は聞いているらしく、「入るがいい」という言葉のまま二メートル以上はあるだろう高さの扉を潜った。
部屋には逞しい肉体を持った、ジャックさんと同じ位の見た目年齢をした男性が座っていた。
彼がベクトリールの王である。……同じ王なのにあの豚とはえらい違いだな。
「お初にお目にかかりますベクトリール王。私はアシュトルスから使者を言い渡された者で、名を『ファムント=ジークレッド』と申します。私の横にいるのはアシュトルスの近衛兵『ファル』、そして『ライム』という名です」
「ファル……とな、さすればそなたが最近噂に聞く『子供冒険者』か?」
「せ、世間ではその名で広まっております」
こんな所まで広がってたんだな、その名前。
どこか歯がゆい思いをしながらも王に話を合わせる。
「そなたがこの国までやってきたという事は、返答を持ってきたというように受け取っても宜しいな?」
「はい。我々アシュトルス全員の意向が、これに書かれています」
予め何度も練習しておいた甲斐があった、と内心で安堵しながら懐から手紙を取り出して王の側近に渡した。
「拝見しよう」
手紙に細工が施されていないのを確認した側近が、王に手紙を手渡した。
「……成る程な。アシュトルスは我々ベクトリールとの全面戦争を選んだか……。これがそなた等の出した答えで良いのだな?」
「はい」
自信をもって応えた俺。仲間であり女王であるルーガが決めた事だ、最初こそ反対したが、今はそれを尊重する心意気だ。
「愚かなものだ、折角平和案を提示したというのに」
「アシュトルスはデイペッシュ前国王を快く思っていないもので」
「そちらにはお見通しであったか」
くっく、と喉を鳴らして笑った王。
そりゃああんな理不尽な宣戦布告なんてしてきたら、誰だって察するよ。
「分かった。そちらの対応を受け取り、我々ベクトリールはアシュトルスの要求を呑もう」
「はっ、誠に有り難く存じます」
アシュトルスの要求というのは、戦争の細かい日時と場所をアシュトルスに指定させてくれといった内容である。
少しでも有利な条件をとルーガが書いたものだったが、快く承諾してもらった。
「それと子供冒険者……ファル、と言ったか。これは個人的な話なのだが」
「? なんでございましょうか」
「我がベクトリールに来るつもりはないか?」
それは、俺にアシュトルスを裏切ってベクトリールに寝返らないか? という提案であり勧誘であった。
「貴様はまだ若いのに使者を任される程の技量を持っている。当然実力も伴っているのだろう。あの小国には勿体無い人材だ」
「……」
押し黙ってうつ向いたファルを見て更に言葉を重ねた王。
「悪い話ではないだろ「お言葉ですが」」
しかし、ファルの考えが変わる事はない。口元に微笑を浮かべながらファルが口を開いた。
「私はアシュトルスという一つの国を背負ってここまで来ております。しかしそれは自身の損得勘定で動いてる訳では決してありません。私は『アシュトルス』という国に仕えているのです。それに……」
「我々の女王は幾分かの勝機があるみたいですよ?」
頭は弱いが無鉄砲ではないルーガが出した答えだ。つまりは勝機が一つだけでも『ある』という事だろう。
そんな俺の言葉を聞いて不敵な笑みを浮かべた王。
「ほぅ……面白い。真っ向から反発の意を示す国とそれに付き従う姿勢を崩さない使者」
納得と感心の入り交じった声音でそう口を開いた王。
「お褒めの言葉を戴いている、と受け取っておきましょう」
「ならば一つ、その『勝機』とやらを潰しておこうか」
王が片腕を振り上げる。すると周囲から十では済まされないだろう人数の兵士が現れて俺の周りを取り囲んだ。
つまりは……うん、そういう事だろう。
「……穏便に済ませたかったのですが」
それは無理だな、と王が言った。
「そちらの国の切り札は分かっている。子供冒険者である貴様だろう?」
「多分そうなのでしょうね。しかし、そんな私をどうするおつもりで?」
「戦争が終結するまで身柄を拘束させてもらうだけだ。その後の光景を見て心変わりをしてくれるのを期待して、な」
そしてゆっくりと腕を振り下ろした。そんな合図に呼応して兵士達が一斉に魔法を唱えた。
全員が状態異状系の魔法なのだろう、俺を生け捕りにする気満々である。
『御主人様、全て技能で吸収しま(いや、手の内を相手に晒すのはまだ早いと思う)左様ですか。では相殺します』
ルシアが俺の考えを読んで魔法を相手の放ったものと同等数の魔力の塊を作り出した。
そしてそれをすんでの所までやってきた魔法に当てて打ち消した。
これには兵士だけでなく王も面喰らった様子で見ていた。
「魔法の十三個同時発動とは……しかも無詠唱」
「お返しします」
次に俺が、相手が使用してきた魔法をそのまま放ってきた相手に使用した。
「なっ!?」
「ぐうぅっ!」
相手を強制的に脱力させる闇属性の魔法から身体を麻痺させる雷属性の魔法まで、全てを逆に当ててやったのだが、全員が一瞬で倒れ伏すという燦々たる光景に若干引いた。
……やり過ぎちゃったかな?
「では、私はこれで失礼します。ライム、変態、行こう」
「ん!」
「はい(変態ッ……!?)」
足早に部屋を出た三人の背中を見送った王が、再び笑みを作って口元に浮かべた。
「……まぁいい、楽しみにしているがいいさ」
「……そうさせてもらうよっと」
微かだったが王の声を聞き取った俺はそう一人で呟いた。
「ファル殿、これからどうするのですか?」
俺の後ろを走る兵士が突然、そんな事を聞いてきた。
「どうって、このまま帰るんでしょ? 少なくとも俺はそのつもりだったけど」
「……分かりました」
ズッ! と何かが突き刺さったような音が背後からした。どうした? と振り向くと――。
「ライム!」
――兵士がライムの小さな体に、腰に差した剣を突き立てていた。
「安心してください。急所は外しています」
「お前……何やってんだ!?」
「私の事を味方だと信じ込んでいて助かりました。お陰で……」
パチンと指を鳴らした兵士。瞬間強い気配が三つ出現し、俺を狙って攻撃を始めた。
「ちっ……っくしょうが! ライム!」
毒が塗られているのだろう、ヌメッとした光沢を放つナイフを紙一重で避けながらライムを取り戻そうと距離を詰める。
しかしライムを盾に距離を置かれ、再び三人に攻撃される。
「ああくそっ! ライム!」
『御主人様、抑えてください(できるかよ! こんな状況で!)スライムなら問題ございません』
(どういうこと?)
『直に分かります。今は他の三人の攻撃にご専念下さい』
「大人しく身柄を拘束されたらどうでしょうか?」
技能、【暗殺者】と【芸達者】の二つを使用した技によって骨や内臓、更には重要な神経や血管を傷付けずに剣をライムに貫通させる事に成功した幻は、勝利を確信していた。
(子供冒険者はこのライムという少女を大切にしていた。囮に使うのなら持ってこいだな)
剣の鞘となっているライムがいるせいでこちらには攻撃を加えられず、他の三人からは猛攻を受けている。
さて、ではもう一言と幻が言葉の追撃を加えんとするその時だった。
「ファル殿が抵抗をしなければこの少女も無事に助かりっ!?」
突然、腹部にドゴン! という衝撃が走り幻が吹っ飛んだ。
「ぐぁっ! い、一体何が」
痛む腹を抑えて自身に攻撃をした人物を仰ぎ見た。
「な……んで」
そこには、現在進行形で胸に剣が突き刺さった状態なのに関わらず平然と立っているライムの姿があった。
「ライム! 気絶する程度に痛め付けてやれ!」
「んっ……」
「何故立っていられる゛ッ!?」
その小さな体のどこからそんな力が出てくるのだろうか? そう疑問に思わざるを得ない程の威力の蹴りを横腹に受けて再び吹っ飛ぶ。
そして肘鉄、横殴り、膝蹴りと流れるように幻に叩き込み、止めと言わんばかりに回し蹴りを顎に命中させた。
「がっ……!?」
そしてそのまま沈黙する幻。
「ライム! 大丈夫か!?」
「ん?」
一目散にライムに向かって駆け出した俺。明らか人が即死するような傷だが、ライムは普段と何ら変わらない様子だ。
「よし、今抜いてやるからな、我慢しろよ……」
ズブズブ……とライムの胸から剣を引き抜き、それを叩き折った。
「どこにも大事は無いか? 具合悪かったりするか?」
「んっ! へーき」
ライムの元気そうな返答を聞いてようやく安堵の溜め息を吐いた。
『人間とは身体の作りが全く違いますので、問題ありません』
「良かった……ルシアのあの言葉が無かったら全員を瀕死の一歩手前にさせてる所だったよ」
目の前に横たわる他の三人を一瞥した俺。ライムが無双していた時に、そちらに注意が向いた一瞬を狙って俺が雷属性魔法で感電させたのだ。
ホンノスコシダケ加減を誤ってしまったので煙が上がってるが、多分平気だろう。
「こいつらは……まぁいいか、とっととこの国から出よう」
「ん!」
立ち去る際に変態を蹴るのを忘れない俺だった。
「ちょっ……なんでこんなに兵士が多いんだよ」
「へーし、っぱイ」
警備兵の目を掻い潜りながら無事に城を出た俺達だったが、街を歩く人々の五人に一人が兵士というとんでもない場面に直面した。
きっと俺達を捜索しているのだろうが、流石に数が多過ぎである。
「転移魔法は『現在、原因不明の結界がこの王国を覆っています。現在解読中ですが、これを破るより王国から脱出してから転移する方が効率的でしょう』誰だよ、そんな結界張った奴は……」
つまりはこの兵士達の目を掻い潜って国から脱出しろと、そういう事でしょ?
無理じゃね?
『隠密系の技能を所持しておりませんので、御主人様の実力でこの場を切り抜けなければなりません』
普通に考えたら無理ゲーだろ、これ。
「……かんれんぼは苦手なんだけどな」
「っれンボ?」
「兵士達に見付からないように移動する事だよ。……よし今だ」
兵士達の視線が自身の方を向いていないのを確認して、素早く人混みの中に紛れ込んだ。
人を隠すなら人の中ってね。
「何回目になるか分からないけど言わせて、兵士多くね?」
『八度目です』
「数えんで宜しい」
路地裏にも兵士が数人いるというふざけた警備態勢の中を、ルシアスポットを用いて何とか移動している。
というか、なんでこんなに兵士がいるんだよ……暇か? 暇なのか?
……段ボールがあったらな。
「屋根を伝って行く事ってできないの?」
『右斜め60°をご覧下さい』
「……なんでそこにもいるんだよ」
屋根を陣取って見渡している兵士を見付けた俺は、呆れを通り越して感心してしまった。
よくもまぁそんな所まで探そうと思うな、逆に凄いわ!
『御主人様、結界らしきなにかの解析が完了しました』
「いけそう?」
可能ならばこの場で転移したい今、果たして結果はどうだったのか、とルシアの言葉を待った。
「解析の結果、これは技能によって作られたものの様です。概要は掴めませんが、魔力の量と複雑さからユニークの域に達しているものだと推測されます」
「ユニークって事は……転移者?」
別にユニーク=転移者という訳では無いのだが、あの豚がベクトリールに寝返った際に俺達が真っ先に思い付いた事、転移者がもう既にいるんじゃないか? という事が頭に過ったのだ。
「その可能性は高いでしょう。技能によるものなので、これを突破して転移というのは限りなく不可能に近いです」
「転移で逃げるって事が不可能になったのか……。じゃあ今は脱出が最優先だな。ライム行くぞ」
「んっ……!」
兵士達との壮絶なかくれんぼの末、太陽が山に差し掛かった頃にようやく国の門まで辿り着いた俺達。
「……最後の最後に、馬鹿にしてんの? あいつらは」
あと数十メートル先はゴールだというのに扉は封鎖されており、今までの倍近くの兵士が四方に散らばって見張っているのだ。
これは絶対に通るなって事だよな。
「……どんだけ俺に兵力割いてんだよ」
それにしてもどうしようか……。大扉は使えず、兵士達が出入りに使う小さな扉も兵士が固まっていて通れそうにない。
これでは発見される未来しか浮かばない。
『一瞬で全員を無力化させるというのは?』
「いや、全員の動きを封じるレベルの魔法をこんな所で使ったら、関係ない人まで巻き込む可能性がある」
兵士がとてつもなく多いとはいえ、一般人も普通に歩いているのだ。そんな人達も巻き込み兼ねない攻撃など危険なので却下した。
『【電光石火】で走り抜けるというのは?』
「この人数だし、扉を開けるまで待っててくれる訳がな「ファルー」ん?」
「いわー」
ライムが指差す先、俺達からすると最も近い山の中腹に、かなりの距離があるにも関わらずそのサイズがありありと分かる程巨大な大岩があった。
「あの岩を、どうするの?」
「あれどーんして、ごろごろどーんスル!」
身振り手振りと擬音で説明をしたライム。
つまりはあれか、あの岩を何らかの手段――擬音的にかなり手荒い方法――で動かして、あの門ないし壁に当てて破壊するって事か。……一番死人が出やすいやつじゃね?
『成る程、その方法でなら彼等の注目を一つに集中させる事ができます』
「ちょっ……危険だからね?『問題ありません』……とても嫌な予感がするぞ」
なんだかとってもやる気のルシアを慌てて制止させようとしたが、俺の納得するような方法なのか? それは。
『御主人様、火、水、土の属性魔法を組み合わせて下さい』
(こうか?)
言われた通りに三つの属性を合体させた。すると、赤と水色の混じったような色合いの岩をとなった。
攻撃魔法というのは間違い無さそうなので、ある程度の魔力を込めた。
『これをあの岩へ』
「届かないだろ……」
それでも、と複合属性魔法を大岩に向けて放った。すると予想に反して距離が伸び、ふわふわと勢いを無くした魔法は大岩へと命中し……、
ドカァァァン!!!
「……えっ?」
着弾地点からこの場所まで聞こえる程の巨大な爆発を発生させた。
『火と水の複合属性は『爆発』、あの近辺では大規模化な水蒸気爆発が起こっています』
「えちょっ、本当に死人が出るぞ……!?」
微妙なバランスを取っていたのだろう。強い衝撃で岩が斜面を転がり始めた。
『心配ございません。それより、今が扉を通るチャンスです』
「……大事が起こったら責めるからな。ライム行くぞ」
「ん!」
「抜けたっ……!」
「っしュツ!(翻訳:脱出!)」
兵士達が全員、爆発した大岩を見るなり避難を呼び掛け、結界を張りと見事な連携を見せる中、無事に俺達は国を出る事に成功した。
『早速ですがご覧下さい』
「本当にあれって平気っ……!?」
俺達が見る先、斜面を何度かバウンドしながら国へと突っ込んでくる大岩に、集まっていた兵士全員がなんとか止めようと魔法を放っているのを視認したその直後、大岩が部分的に連続して爆発を始めたのだ。
爆発で削られて小さくなった岩は、そのまま勢いを無くして地面に激突して砕け散った。
『爆発に土の属性を加えるとできる属性『連鎖爆発』です』
どうやら最初の爆発に巻き込んだ対象を任意で起爆可能らしく、俺が作り出した岩が全て起爆剤となって爆発し、込めた魔力×爆発の威力に比例しているのだとか。
「……心臓に悪いだろ、これ」
『サプライズです』
ルシアの口からその単語が出てきた事がサプライズだな。
「ま、まぁ無事に国を出る事もできたし、さっさと転移して『まだ範囲内なので、もう少々王国から距離を取って下さい』……歩くか」
「ファルー!」
遥か前方で手を振っているライムを見て「おぉ早いな」と呟いた俺。あとは帰るだけだ。
歩き始めて一時間程経っただろうか? 日が沈んで暗闇が存在感を放ち始めた。
「急がないとヤバいな」
『先日の商人が言っていた事でしょうか?』
「こわいクル?」
二人の問いに首を縦に振る俺は、自然と歩みが速いものとなった。
もしかしたら追っ手が来るかもしれないしね。
「ちょっと走るよ『待って下さい』どうした?」
『相当量の魔力を持った人物がこちらに接近しています』
「どこに……「うえ!」上っ!?」
ライムの声を聞いてバッと見上げると、夕闇を背景に長い茶髪を風にたなびかせた女性が中空に浮いていた。
『見ぃつけた。あなたがパパの邪魔をする魔法使いね』
「ぱ、パパ?」
『さぁ、死んで頂戴!』
夜光岩が淡い光を放ち、周囲を蒼光が照らす。
浦園 亜理子。転移者である彼女は『パパ』の為、自身の魔力を解放した。
オマケ
ルシアスポット
首飾り状態のルシアを上空にぶん投げて周囲の敵を発見する技。
キャッチしないと怒られる。




