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龍人転生~苦労の絶えない異世界道中~  作者: 白玉蛙
四章 アシュトルス
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三週間後のあれこれ

投稿遅れてすいません。

昨日投稿する予定だったんですが、投稿前に力尽きてしまいました……。

  ルーガが女王になって三週間が経ち、それに伴って少しずつではあるが、この国も変化を遂げた。


  まず挙げるとしたら、数日前に亜人族がこの国を訪れた事だろう。

  ルーガが女王に即位したという知らせは、俺の想像以上に早く広まったらしく、「それならば亜人禁制も無くなったのでは?」というのを確かめる意味で、護衛に獣人を雇った商隊が訪れたのだ。

  ……と、ジャックさんが言う。



  それと治安。


  ルーガはまず、この国がデイペッシュだった頃の法律や税を全て十数年前のものに戻し、国の安定化を図った。

  無論、細かい部分はルーガにはさっぱりなので、その辺は他人任せなのだが……。



  しかし、意外にもこの仕事は性に合っているらしく(考えたりするのは無理だが)、勘と思い切りの良さ、そしてジャックさんの「大変なのは最初だけ、一息つく頃には暇な時間もできるだろうさ」という言葉を原動力にドンドンと政治を推し進めている。

  問題があるとしたら、「思いっきり体が動かせない事ですかねぇ」とのこと。




  それと肝心の俺は……、




「うわっと、また駄目だったか……」


「剣なら、まだまだ俺に分があったな」


  ジャックに刃の削られた剣を寸止めされ、悔しそうに「むぅ」と声を洩らすファル。

  彼等は冒険者ギルドの訓練所にて模擬戦闘を行っている。胸には国の紋章を(かたど)ったバッチが付けられており、国の兵士であることが窺える。


  バッチは色によって兵としての段級が振り分けられており、白地の黒(見張りや門番)(一般兵)(憲兵)(近衛兵)となっているが、ファルや周りの兵士の持つバッチは『金』。



  ……どういうわけか俺は、流れでルーガの近衛兵になったのだ。つまりはジャックさんの部下な訳だが、


「……周りからの視線が痛いなぁ」


「我慢してくれ、特例中の特例だったんだからよ」


  普通は、成績優秀な兵士が様々な手順を踏んで、晴れて近衛兵に昇格できるのだが、俺はルーガ(女王)推薦(命令)で殆ど無理矢理入った(入れられた)様なものなので、近衛兵達からは少々距離を置かれているのだ。

  別に嫌な訳では無いのだが、少々息苦しいものがある。


  普通に接してくれるのはジャックさんと、前の作戦の時に剣を向けられたライアンという近衛兵くらいだ。


「今だけの辛抱だ。隊長が認める実力を見せつければ、いずれ仲間として認知される筈だ」


  俺の座っている隣に腰掛けたライアンさん。その目は、今戦っている近衛兵達の方に向いている。

  ちなみに俺達は今休憩中で、彼等の模擬戦が終わったら戦う予定だ。



「ライアン……さん? は俺の事を悪く思ったりしないんだね」


「呼び捨てで構わない。そうだな……認めているか? と聞かれたら私にも分からんが、少なくとも隊長はお前を同等と認めているからな」


  ……どうもこの人、ジャックさんに心酔してる節があるんだよな。まぁ悪い人じゃないし、形はどうであれ俺を子供として見ずに接してくれるのは有難い。




「おいファル! 俺を負かした時のあれはどうした! そんなやつガツンとやっちまえ!」


  時間ができたのだろうザキさんが、同じく暇そうなカトラさんと共に俺達の模擬戦の様子を見ていたみたいだ。

  時々この様なコメントを飛ばしてくるが、あまり気にしないでいる。


「……時に、今あそこで叫んでる『滅拳』を倒したというのは本当なのか?」


「うん。でもまぁあの時は剣を使わないで戦ったからね。なんとか勝てた感じだし」


  信じないものを見るような目で俺を見るライアン。


「あの男は、素手での戦闘を得意としているから『滅拳』なのだぞ? それを同じ土俵で……それなのに隊長に勝てないというのは、ある種の挑発か?」


「剣で人と戦うって事にまだ慣れてないだけだよ」


  後は、使う剣がルシアじゃないって事もある。普段から使いなれているものじゃないと、やっぱり扱いに苦労するのだ。

  ……そして何より、首元から発せられるルシアの嫉妬による圧力が、俺の集中力を削いでいくのだ。


「ま、勝負に勝っても分野で勝たなきゃ意味がないからね」


「そういうものなのか?」


「少なくとも俺はそう思ってる」


  ふぅむ……と口元に手を置いて考え込むライアン。


「私はただ勝つ、勝たなければ死ぬという考えでやってきたから、そういう考えをしたことが無かったな」


「考えなんて人それぞれでしょ」


「何を二人で話し込んでんだ? 次はお前さん達の戦う番だぞ」


「やっべ、もうそんな経ってたのか」

「はい! よしファル、始めるぞ」


  近衛兵の訓練はまだまだ終わりそうにない。







「……ふぅ~、終わりましたぁ!」


「お疲れ様です。もう随分と慣れましたね」


  ()れたての紅茶を差し出しながら、ルーガに労いと感心の言葉をくれた側付きの侍女。

  普通だったら王位継承者に喋り掛ける(など)言語道断なのだが、仕事中の話し相手が欲しいルーガは敢えて普通に接するように言っていた。権力の無駄遣いである。


「こういう文字の多いやつは、どうしても途中でやる気を無くしてしまうんですよねぇ」


「しかしルーガ様は、ミス無く完璧にこなしているではありませんか」


「当然です! 『やるならしっかり最後まで』ですから!」


  ルーガのその言葉に、侍女の中でルーガに対する言い表せない安心感と信頼度が上昇した。

  侍女は、過去に前王に襲われ、孕まされそうになった事が何度かあった。相手は王なので子供が産まれたとしたら王位を継承する可能性があり、自身は将来的に裕福な暮らしができる……というのは地球上の創作物の中だけだ。当然この侍女はそれを拒否、「こんな男に娶られるものか」という一心で魔法使いに避妊魔法(闇属性)を掛けてもらった程である。

  そんな仕事をせずに女遊び場に興じていた前王とは正反対のルーガに、彼女は生まれて始めて「侍女をやって良かった」と感じていた。


「……そうですね。やるならしっかり最後まで……良い言葉です」


「何か言いました?」


  いえ、と答えて一つ咳払いをし、机に数十枚の羊皮紙を置いた。


「やるならしっかり最後まで。頑張りましょう」


  うへぇ……というルーガの声が部屋に鳴り響いた。







「はーぁ……やっぱり勝てないな」


(……危なかった)


  大の字で倒れ込んだファルと、息絶え絶えに勝利をもぎ取ったライアン。

  模擬戦闘では類を見ないだろう、一時間にも及ぶ剣と剣の交じり合いに、辛うじてライアンが勝った。


「無事か?」


「俺は全然平気。ライアンが死にそう」


「あ、あんなに動いて……まだ、動けるのか……!?」


  体力的に瀕死のライアンの声は誰の耳にも届く事無く、更に周囲からの拍手喝采によって声は完全に掻き消された。


「まさかこんなに時間が掛かるとは思ってもみなかったぞ」


  二人に飲み物を渡し、驚きと感心と呆れの混じった声音でそうコメントする。


「というか、いつの間にこんなに人が?」


  俺達の模擬戦を見て満足そうな表情でわらわらと退散する冒険者を見て、少し前のザキさんとの勝負を思い出した。

  確かあの時は冒険者証(ライセンス)を入手するために戦ったんだよな。




「「「お疲れ様です。勝負、勉強にさせてもらいました」」」


「んぇ? あ、うん」


  この中では比較的若面の三人――冒険者志望の彼等だ――が、俺にそんな言葉を投げ掛けた。前も言ったと思うが、俺がザキさんに勝ってから、どういうわけかこんな昭和のヤンキーみたいな上下関係が生まれたのだ。

  ……この謎の舎弟関係、何とかならないかな。


「……しかし、日に日に強くなっていくな。次に戦う時は、もう勝てないかもしれないな」


  呼吸を整えたライアンがそう言う。


「ガキはなんでも吸収するからね。っていうか、俺じゃあまだまだ勝てないよ」


  剣が当たらないんだもん。と苦笑いで答えるファルに、そうじゃないんだ! と内心叫んだライアン。


「あんなに動いて息一つ切らさない奴に、私の体力が追い付かないのだ。一体その体力はどこから出てくるんだ?」


「あー……単純に種族差ってのもあると思うけど、走れば自然と付くと思うよ」


  一時間で64キロメートルとかいう糞コースだけどね……。


「種族……そういえばお前はなんという種族なんだ? 何せこの国で生まれ育ったものだから、他種族には疎いのだ」


  汗で濡れた額を拭いながらそんな質問をする。


龍人(ドラゴニュート)らしいよ」


「龍の血を持つ人間……希少種族というやつか。ドラゴンには翼があるものだと思ったが……」


「俺もその辺は良く分からないんだよね」


  どうなの?

  こういうのは元ドラゴンのディメアに聞いた方が良いだろう。


『私は翼で飛行したりはしないの。まぁそれに似た部位はいずれ『作れる』と思うけれど』


(作れる?)


  相変わらず意味不明なディメア。

  なんかディメアって、言うことが難しくてよくわからないんだよね。


『その時になったら教えるわ』


「翼を持たないドラゴン……地竜の事だろうか」


「……多分そうなのかもね」


  とりあえず、ここは適当に話を合わせておいた方が良いだろう。


「予想以上に時間が掛かっちまったから、ひとまず今日の訓練は終了だ」











  数日前。


  メテラードの北端、三方を山に囲まれた中心に、『武力国家ベクトリール』はあった。

  鉱物資源が豊富な事から『炭鉱夫の里』と呼ばれており、立地的には辺境ではあるものの、知名度はメテラード随一である。


 

  ベクトリールの王『マグナ=ベクトリール』は、さてどうするか、と思考していた。

  場所は会議室。大臣や貴族達がああだこうだ、いやこうだ。と議論を交わしている。

  議題は言わずもがな『人族国家デイペッシュが再びアシュトルスに改名した件について』である。


「王位が変わった直後である今なら、武力による制 圧も可能なのではないか?」


「馬鹿をいえ。三度に渡って宣戦布告したあの国を忘れたのか?」


「我々の武力が属国ごときにに劣ると? そう言いたいのか!」


「私はリスクを考えているのだ! 王位はクーデターによって成り代わったと聞く。デイ……アシュトルスよりも大国からの戦争に勝利する軍力だぞ? そんな国を治める王をクーデターでふるい落とした人物……攻め入る入らない以前にもう少し情報が必要ではないか?」


「いやまて、新たに王位を継いだルーガという人物は、既に亜人禁制を解き、国を既に十数年前のアシュトルスと同じレベルにまで立て直したというではないか。一度交渉を持ち掛けるのも手ではありませんかな?」


「ふん、小国ごときに何を()()づいているのだ。王! この傍観主義は放っておいて、宣戦布告を出しましょう!」


「何をぅ! 危険です、王! まずは様子を見る事が必要不可欠なのではありませんか?」


「いえ、我々は搾取する側として……」


  やいのやいのと喧騒が飛び交う中、ドン! と机を叩いて立ち上がった王。

  数秒前の騒ぎが嘘だったかのようにシィン……とした空気が広がった。




「我々は……『今は』静観を決め込む」


「な、なにかお考えが?」


「今、外務大臣が言った通りだ」


  ザワッ、と周囲からざわめきが生じる。


「まぁ話を聞け。私はまだ争う時ではない、と言ったのだ」


「と、言いますと?」


「アシュトルスに関する情報、我々の兵力……必要なのは多々あるということだ。暗部」


「はっ、ここに」


  声のみが部屋に響く。それに動じる事無く声の主に命令する王。


「信用できる者と共にアシュトルスを監視せよ。変化が見られたら、些細な事でもいい、報告せよ」


「御意」



「……さて、私に意見する者はいるか?」


  反対意見は……無い。

  それは王の言葉が絶対とか、意図せぬ合意という訳では一切無い。全ては王のカリスマ性と今まで積み重ねてきた信用性、そして先の先を見通しているかのごときに計画性によるものである。


「では、本日の議会は終了だ」


  王のその言葉にゾロゾロと席を立つ大臣貴族達。





  誰もいなくなった部屋で一人熟考する王。その口元には笑みが浮かんでいた。


「……もしもそのルーガという女王がセイルの子だとしたら、面白い。全力で叩き潰してやろう」


  古い友であり好敵手(ライバル)であり敵であった男を脳裏に浮かべながら、これからすべき事に脳を働かせる。

  その笑みは、好戦的な者が揃うベクトリールを束ねる王のそれであった。


 




  そんなベクトリールに、一人の男がやって来るのは、また後程の話。

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