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龍人転生~苦労の絶えない異世界道中~  作者: 白玉蛙
三章 デイペッシュ
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城にて

(有り得ん……)


  デイペッシュ城の最上階、王の間にて、玉座に腰掛けて目を閉じていた現王ナフール=デイペッシュは、


(何故ガイアがやられているのだ!?)


  【主と従『隷』】の『視界共有』によって大地の視界を共有していたのだが、ソウガに為す術無くやられている大地を見て驚愕していた。


  国の大戦力である大地は、これまで苦戦というものをしたことがない。

  ナフール王の驚きは、その大地を手玉に取っている女性……ソウガともう一人、ルーガにも向けられていた。


(イリス……? 奴は十年以上前に大地が殺した筈……まさか娘!? 消息不明と聞いていたが、生きていたのか!?)


  プルプルと全身のぜい肉を震わせながらルーガについて推測を立てた王。

  そして自身の座を脅かす存在だと察し、顔を赤くさせる。


「おのれ! 何度余の邪魔をすれば気が済むか!」


  理不尽な怒り。しかしそれを(たしな)める者はいない。そういう人物を今までに何人も死刑にしてきたからだ。




  と、大地の『視界共有』が切れた。

  それは気絶したから、そう、大地が倒されたのだ。


(マズイぞ……ガイアがいなくなってはこの国は戦争に勝てん……いや、幸いまだガイアは生きている。今はできる限り情報を集めるのだ)


  【主と従『隷』】は『主』の一方的な情報共有が可能な技能(スキル)で、『従』の意識の消えて視覚が共有できない状態だとしても、聴覚を共有可能なのである。

  少しでも大地を倒した二人の情報を、と『聴覚共有』を発動させた王。




『二人とも! 大丈夫……そうだね』


『あ、ファルちゃん! 元に戻ったんですね!』


  先程大地と戦った人物の一人と、新たに聞こえてきた幼い子供の声。


(ファル? という事は例の『子供冒険者』か?)


  ジャックから報告を受けた名前と一致しており、連れてくる様に命令したが所在不明という報告を受けて後回しにしておいたのだが、先回りされたのか? と疑問を持ったナフール王の耳に、その答えともいえる人物の声が入ってきた。


『これで一応は問題無い筈だ』


「ジャック!? そういう事か!」


  ファルの捜索及び拉致を命じたジャックが、実は大地を倒す為に裏で色々と動いていた。そう確信したナフール王は怒りのあまり飲み物の入った杯を床に叩き付けた。

  ガシャアン! と派手な音を立てて器の破片と飲み物が辺りに散らばる。


「許さんぞジャック……戻ってきた時が貴様の最期だと思え!」


  前王セイルの側近として昔から仕え、近衛隊長にまで上り詰めたジャックを、ナフールは使える駒として今まで生かしてきた。

  それと同時に、友を殺した本人の下で働くという屈辱を味あわせるという意味でも殺さずにこき使ってきたのだ。


「全兵士に命令だ! 近衛隊長ジャック=ヘロイスティオを、反逆の罪で見つけ次第処刑にしろ!」


  部屋のすぐ外に立っている兵士にそう命じ、再び玉座に腰掛けたナフール王。


  共有を使うと、大地の視界が復活していた。目が覚めたのだ。



「ッ! コレ外しやがれ! てかてめぇは誰だ!」


  目が覚めるなり暴れる大地。しかしジャックの『束縛』で身動きが取れない。


(やはり聞き間違いでは無かったか。そして……)


  手を組んで大地を見下ろすジャックの隣に立っている子供、例の冒険者だな、と姿特徴を覚えたナフール王は次の瞬間――、





『『お前の主人が会いたがってた子供冒険者だよ』』


「に、日本語!? まさかお前……」

「ガイアの言葉!? どういう事なのだ!?」


  二人の驚きが重なった。

  無理もないだろう。大地は自分の昔いた世界の言葉を、ナフール王はそんな世界から転移させた大地と同じ言葉を喋る人物だったからである。


(何者かが『転移の秘術』を使ったとでもいうのか……?)




  十数年前、黒ローブの男から教えられ、魔術師数人の命を犠牲に成功させた、異世界から力ある者を転移させる秘術。

  これを使って大地を転移させたナフール王は、その秘術のリスクは勿論の事、一度発動させれば50年は使う事のできない燃費の悪さまで把握している。


(まさかフィルティスも成功させたというのか!?)


  敵国に対してそんな予想を立てたナフール王。

  昔からフィルティスから宣戦布告を受けてはあしらってきたデイペッシュ、それは大地がいたからであり、その大戦力があってこそデイペッシュという小国は周囲の国に飲まれずに今まで繁栄(?)してきたのだ。


  ナフールは、愚王だが馬鹿ではない。なのでこの国を維持するのに、他の国の存在が不可欠な事を理解している。

  大地が一人で戦争を終わらせるので、軍事費用を殆ど掛けずに他国から賠償や自身に有利な条約を結ぶ事ができるし、そんな大地の存在が影で噂されているお陰で内乱も起きない。

  つまり今のこの国は、大地の存在無しには機能しないといっても過言ではないほど酷い現状なのだ。


(もし本当にあの子供冒険者がフィルティスの差し金だとしたら、この国は終わりだぞ……余の名が愚王として広まってしまうではないか!)


  クーデターで王位を奪い取った時点で、既に愚王の異名は広がっていたのだが、そんな事を微塵も思っていないナフール王は、国より自身の保身の事を考えていた。

  そして暫くして、






  パキィン! と指輪が粉々に砕け散った。


(そんな、まさかガイア!)


  砕けた指輪……【主と従『隷』】を発動させる為の魔導具(マジックアイテム)が砕けたという事は、『従』の命が消えたという事。つまり大地は死んだのだ。





  呆然と玉座にもたれかかったナフール。

  その砕けた指輪には、偶然にも蛇に飲まれる人の意匠が施されていた。











  ソウガの家。


「……という訳で、『第1回 王の座を奪い返そう作戦の内容を考えるの会』を始めたいと思います。……ネーミングセンス酷くない?」


  思わずツッコミを入れてしまった。だって長いし安直だし……。


「そうですか? しっくりくると思ったんですけどねぇ」


「それと、何で俺がこの役なの? 普通ルーガじゃないの?」


「それは私も同感です」


「ふっふっふ、分かってないですね」


  と自信ありげなルーガは一拍置いてから、


「可愛いファルちゃんがやるからこそ、場に華が咲くんです!」


「「確かに」」


「おい」


  うんうん、とルーガの言葉に同感の意を示すソウガとシャロン。全く理解ができない……。


「まぁ分からなくも無いが……」


「ジャックさんまで!?」


御主人様(マスター)は、この中では一番肉体年齢が幼いですし、何より容姿端麗を形にしたのが御主人様(マスター)ですから』


  ルシアもか……。

  俺というよりはディメアが綺麗なだけだと思うんだけとな。


『……言っておくけれど、人間としての肉体は貴方の魂が転生してから作られたものだから、私の見た目がどうとかは関係無いわよ』


  俺の味方って、誰もいない感じ……?


「……話がズレたね」


「だな。それでクーデターの件だが、ぶっちゃけこのメンバーで十分じゃないか?」


「ただの制圧なら容易だと思います。しかしそれでは駄目ですよ」


  シャロンの言っている事は正しいだろう。

  ジャックさんの話だと、この十数年は大地に戦争の全てを任していたみたいだし、それに伴って兵士の戦闘力も下がっているのだそう。


  そういうのもあって向かってくる兵士の対処は、ジャックさんの言うとおり楽勝だろう。しかしそれは武力制圧……現王のやった事と同じだ。


「たとえそれでルーガさんが女王になったとしても、力で成り上がった人物を誰が必要としますか?」


「まあ、そうだな。けどどうするんだ?」


「必要なのは証拠と人々の信用です。証拠の方はジャックさん、あるんですよね?」


「当然だ。アイツを王の座から叩き落とすためにコツコツと集めておいたからな」


  今は自室に隠してあるらしい。


「ナイスです」



「あとは信用……これはルーガが何とかするしかないもんね」


「えっ」


「王を失脚させるためのトドメですものね」


「え、でも」


「ルーガさんの言葉に全てが掛かってると言っても過言ではないですからね」


「ぅう」


「……あ? 俺か? ……まぁ頑張れ」


「……空気読みましょうよそこは」


  こうして、一番面倒な『制圧前と後の演説』を全てルーガに押し付ける事に成功した。

  少し心配だが、ルーガなら何とかしてくれるだろう。


「うぅ……そういうの苦手なの知ってるでしょうに……意地悪です! やってやりますよ!」


  うがぁ! とヤケクソ気味に吠えたルーガ。やる気を出したみたいで良かった。


「では、早速行きますか!」


「ソウガさんが戦った直後なので、明日にしません?」


「私は大丈……あぁそうですね。休ませてもらいます」


  シャロンの「ルーガの喋る内容を考える時間を取りましょう」という遠回しの言葉を察したソウガ。


「むぅ。分かりました」


  やる気満々だったルーガは少し納得いかない様子だったが、ソウガの少し疲れた様子の演技を見て真に受けたのか、大人しく座り直した。


「さて、俺達は何をするか」


「「……」」


  そこは黙らないで……。

オマケ



「……空気読みましょうよそこは」



実は、ファル、ソウガ、シャロンは語尾に『ね』を付けていました。

ほら、よくあるじゃないですか。どんな下らない事でも、全員が一致すると盛り上がるやつ。






「さて、俺達は何をするか」


「「……」」


この後、本当になにもしないという、地獄の苦痛を味わったそうです。

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