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龍人転生~苦労の絶えない異世界道中~  作者: 白玉蛙
三章 デイペッシュ
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新嶋 大地の最期

「二人とも! 大丈夫……そうだね」


  集落の中心に転移した俺達は、やること無さげにうろうろしているルーガと、心なしかスッキリした表情のソウガを見付けた。


「あ、ファルちゃん! 元に戻ったんですね!」


「かなり早かったですね」


  俺の声で振り向いたルーガが走ってきた。


「まぁ色々あってね。というかソウガは服どうしたの?」


  ソウガが、雰囲気的に普段は絶対着なさそうな和服を着ていて、目標(大地)はどうなったか? というのを聞く前に疑問に思ってつい聞いてしまった。

  どうやらソウガが本気を出す時だけ着る、昔オーガと旅をしていた時に着ていた服なんだそう。


「それで、肝心の大地は……ぶっ」


「……つい調子に乗ってしまいました。辛うじて生きてはいます」


  足元に転がっている気絶した大地を見て、吹き出してしまった。

  使い古した雑巾(ぞうきん)? と一瞬本気で思ってしまったくらいボロボロなのである。


「……あの時のソウガさん、凄かったですよ」


  なんでも一人で大地を蹂躙したらしく、ルーガは見ているだけだったそうだ。

  というか一人で倒すとか……本当に凄いな。


「熱が入るとどうしても徹底的にやってしまって……」


「『生きて帰れるかは貴方の体力次第ですね。うふふ』とか言いながらボコボコにしてるのを見たときは、ソウガさんが壊れちゃったのかと本気で思いましたよ」


「それは言わないでください……」


  顔を赤くして俯いたソウガ。ルーガが若干引いてる様子から、相当な事をやっていたんだろう。




  動けないようにジャックさんが『束縛(バインド)』を使用して大地を拘束した。


「これで一応は問題無い筈だ」


「ありがとうございます。私は集落の人達を呼んできますね」


  そう言いながら早足で家に入っていくソウガ。まずは着替えを済ませるのだろう。

  と、ジャックさんが一呼吸置いてから、



「ファルとルーガ……だっけか? 伝えたい事がある」


「?」


「お前さんの出生についてだ」


  ルーガの肩にポン、と手を置いてそう言ったジャックさん。


「私の……ですか?」


「あぁ」


「知ってるの?」


「心当たりがある。というか俺は殆ど確信してる」


  確かルーガは赤子の時にオーガに拾われたって話だけど……。





「お前さんは『セリス=アシュトルス』っていう名前かもしれん」


  前王セイル=アシュトルスの娘だ。と口にしたジャックと、ぽかんとしているルーガを何度か見比べ、ええっ!? と叫んでしまった。


「ルーガが王族!?」


「おーぞく?」


「理由は今から話すが、そう考えると辻褄が合うんだ」


  王の妃と瓜二つ(幼なじみらしい)・事件は丁度ルーガが産まれた頃・王と妃は殺されたが娘は消息不明・()は黒猫の獣人という、ジャックさんの口から出た言葉の信憑性が凄まじく、そしてルーガが王族という事実に何とも言えない矛盾を感じる。

  だってルーガだよ? おしとやかの『お』の字すら存在しないようなルーガがそんな……ねぇ。


「ちなみに俺は、子供(ガキ)の頃から王とイリス様……妃を知ってる。だから見間違える筈が無いんだ」


「シャロンとソウガは?」


「知ってますとも。ルーガさんが死んでてファルさんが寝ていた時に聞きました。私も驚きましたよ」


 


「そこで、だ。これはお前さんに判断を委ねるが、あの男を王の位から堕とす方法がある」


「それってまさか」








「ルーガを女王にするって事?」


「そうだ」


  肯定の反応を示したジャックさんに、言われた事を完全には把握しきれていない様子のルーガが何度か反芻している。


「女王ですか~……え? 女王ってあの偉い人の事ですか?」


「それ以外に女王の意味を俺は知らないが、そうだ」


「ふえぇ……」


  気の抜けた驚き方をするルーガ。気持ちは分からなくもないが……。


「お前さんの存在が王国中に広がれば、確実に国民のクーデターが起こるだろう。その時に前王暗殺の証拠と事実を突き付ければ、今の王は退位、そして正統な後継者であるお前さんが王位を引き継ぐ事になるだろう。決めるのはお前さんだ」


  ルーガに女王になってもらって王国ごと変えてもらうか、大地という大戦力を失った王国をそのままにしておくか、という選択に、ルーガが珍しく唸っていた。

  確かにルーガには荷が重いだろうし、そもそも突然そんな事を言われたら、俺だって判断に困る。


「う~……考えさせて下さい」


  ひとまずはルーガのこの言葉でこの場は収められた。








  ――これは十数年前、新嶋 大地の転移する前の話をしようと思う。


  当時、年齢からすれば高校一年生の大地は、恵まれた……いや『恵まれ過ぎた』環境で育った。

  事業を成功させた両親に不自由無く育てられた大地は、人生を退屈なものと感じていた。

  欲しい物は何でも手に入る、例え喧嘩で人を傷付けても親が揉み消してくれる……そんな生活に退屈していたのだ。


  やがて大地は武器に興味を持ち、兵器に興味を持ち始めた。

  この頃からだろうか、大地は殺しというものに興味を持ち始めたのは。


  重火器から科学兵器、生物兵器、核兵器……人を傷付けるものは調べられるだけ調べた。

  いずれそれらを使ってみたい、そんな願望を胸に秘めて。


  そして、体術にも興味を持った。

  人はどこをどう攻撃すれば傷付くか、人がギリギリ死なない程度に重症を負わすにはどうすれば良いか、そんな事を日常で考えていた大地は、既にこの頃から壊れていたのだろう。





  そんなある日の事だった。

  大地の家にトラックが突っ込んだのだ。

  両親は外出中だったが、部屋で核融合の知識を蓄えていた大地だけはトラックの衝突を避けられなかった。


  しかし、半壊した家から大地が見つけ出される事は無かった様々な偶然が重なり、異世界へ転移したのだ。


  目が覚めた場所は見慣れぬ西洋の、映画やファンタジーの世界で見掛ける建築物。

  未知の言語で喋る高価な身なりの男に戸惑いながら、ラノベのような世界に来たんだなと確信した大地。


『ふむ、貴様は大地というのか。よかろう、今度から貴様はガイアと名乗るが良い』


  突然聞き取れるようになった男の声に、体が勝手に頷いた。


 ……なんだかよく知らねぇけど、楽しんでやろうじゃねぇか。


【称号『主と従【隷】』を入手しました。ユニークスキル:『兵器創造』を入手しました】





  そこからの暮らしは、大地にとっては楽園だった。

  命令があれば人を殺す事が出来る。何もない時は呼ばれるまで自由に行動できる。最初の命令は王と妃の殺害だった。

  初めての人殺し、だが大地には躊躇が無かった。自身が今まで望んできた事だから。


  軍隊の殲滅には核を使った。村や集落を潰す時は火炎放射機を使った。王が殺せとその場で命令した時には拳銃を使った。

  やがて殺しは日常化し、趣味の一つとなった。【惨殺者】という称号を入手した時からであろう。



  そして発見はもう一つ、

  転移した日を(さかい)に歳を取らなくなったのだ。

  今現在も高校生の肉体なのはそれのせいである。


  王の命令には絶対、という制限はあるが、それ以外は何の不自由も無く『殺し』という自身の存在理由ともいえる行為をし放題のこの世界、大地は謳歌していた。






『う……いてぇ……』


「あ、起きた」


  意識の回復した大地は、自身が縛られているのに気付いて騒ぎはじめた。


『ッ! コレ外しやがれ! てかてめぇは誰だ!』


「『お前の主人が会いたがってた子供冒険者だよ』」


『に、日本語!? まさかお前……』


  この前聞いたのよりも大きめのリアクションで驚いた大地。少し良い気味だ。


「……『お前と同じにされたくはないけど、そういうことだ。なんでこんな状態か、理解できてるか?』」


『あ? 知らねぇよ。ただ殺そうとしただけじゃねぇか』


  ……ただの使い方間違ってるよな? 絶対。


「ルーガは、コイツをどうしたい?」


  この男は罪そのものを意識していない。それが改めて分かったが、この中で一番の被害者は、一度殺されたルーガだろう。

  女王になるとかそんな話をされて戸惑っているだろうが、ルーガに処遇を任せるのが一番良いと思う。


「私ですか? そうですねぇ……」


  顎に手をやって考え込むルーガ。


なにもしない(・・・・・・)ってのは無理ですしねぇ」


  大地に対してなにもしない……それは見逃すという事だが、確かに無理だろう。

  今はこうやって集落の人々が殺される未来を避ける事に成功したが、この男が今まで何百人と殺してきたのは確かだし、これで見逃したとしても、また懲りずに殺しを繰り返すだけだ。

  せめて技能(スキル)さえ何とかなればなぁ……と考えている俺にディメアが声を掛けてきた。


『できるわよ?』


「できるらしいよ……えっ?」


  ディメアの言葉をそのままルーガに伝えて直後に驚いてしまった俺。

  技能(スキル)を消すって、できるの?


『だからできるって言ってるじゃない』


「大地の技能(スキル)を消して無力化するんだって」


「スキルや称号は魂に刻まれたもの、本人が望んでも消す事なんて不可能ですし、ましてやユニークなんて流石のファルさんだって無理ですよ」


  へぇ、技能(スキル)ってそういう構造だったんだな。


『確かにそうね。技能(スキル)は個性を分けるものでもあるから、それを消すなんて事は記憶を消す事以上に無理があるわ。でも……』


  突然俺の中からぽぅ……と黒とも灰色ともいえない色の光の玉が出てきた。

  これってまさか?


『この男の魂よ。念のためにと思って回収しておいたの』


「わっ! ファルちゃんから何か出てきた!」


「魂ってやつか?」


  ジャックさん達にも見えているみたいだ。なんでも、一度魂になって『死』に近い存在となったのが原因らしい。


「これは大地の魂なんだけど、もう一回驚いてもらう事になるよ。多分」


  方法は薄々勘づいてるけど、しっかりと聞いておいた方が良いだろうし、俺も驚くと思う。絶対ね。


『じゃあ、簡単に説明するわ』









『と、こんな感じ。分かった?』


  うぅん……確実って訳じゃあ無いけど、大体は分かった。


「ディメアさんと話してたんですか?」


「うん、まぁ」


「さっきも言ってたが、誰なんだ? そのディメアってのは」


  あれ? 魂のジャックさん達を吸収(保管)した時に会わなかったのかな?


五月蝿(うるさ)いのは嫌いなのよ』


  ……そうッスか。


「ジャックさん、今はこっちの方が重要です」


「あぁそうだったな」


  ディメアの事をどうやって説明しようかな? と考えていた俺だったが、意外にシャロンが制止を入れてきた。

  珍しいな、いつもだったら「それ、私も聞きたいです!」みたいな感じで迫ってくるのに。


「代わりに、あとで色々教えてもらいますからね……?」


  ……だろうと思った。


「ま、まぁ始めようかな」




  一呼吸置いてから大地の魂と向き合う。


  ディメアが提示した方法はかなりシンプルだった。


『【状態変化】で魂に刻まれた技能(スキル)を変化させれば良いのよ』


  つまりは俺が今まで魔法を魔力に変換する為に使ってきた【状態変化】を使って、大地の魂を操作するという事だ。

  俺の技能(スキル)の一つである【状態変化】は、前にも説明したと思うが、原子や概念といった『存在するもの』を別のものに変化させる。その気になれば周囲の酸素を全て二酸化炭素に変化させる事もできるという、はっきり言ってチートな能力なのである。


  魂も変化させられるというのは初めて知ったが、実行する他無いだろう。






「……よし」


  技能(スキル)の変化を成功させたのを確信した俺は、額を伝う汗を拭って顔を上げた。


「終わったのか?」


「あとはこの魂を大地に……」


『何しやがる! ぶっ殺すぞ!』


  大地の魂を右手で包み、喚き散らす大地の胸にその手を置いて魂を移した。

  もう5回目なので、この作業は慣れたものだ。


  目を見開いた大地は、俺の顔を視認するや否やガタガタと震えだした。


「ひっ……」


「急に怯えはじめましたね」


「あー……多分俺のせい」


  あの時は軽くなぶり殺しにしてたからな。しかし人が変わったように怯えてるな。


「とりあえず技能(スキル)は使えなくなったと思うけど、これで良いんだよね?」


「はい、ファルちゃんありがとうございます」


「じゃあジャックさん」


「分かった」


  ジャックさんが頷いて『束縛(バインド)』を解除した。

  自由の身となった大地は必死の形相で逃げていった。


「かっ……必ず皆殺しにしてやるからな!」


  捨て台詞を吐いた気がするが、まぁ気のせいだろう。





「……ジャックさん」


「ん?」


  大地の姿が完全に見えなくなったのを確認したルーガがジャックさんに向き直る。


「今、あの国を治めている王様が元凶なんですよね?」


「ああそうだ」


「私がそんな偉い立場になれるかは分かりませんが、彼を見て決心しました」


  やります。と緊張した面持ちだが確かにそう言ったルーガ。


「そうか……ありがとう」


  顔を少し綻ばせたジャック。今は亡い幼なじみ? とルーガを重ねたのだろう。


「……なにニヤけてるんですか」


「む、笑ってたか?」


「では、ソウガさんが来たら作戦を立てましょう!」


  いつもの調子に戻ったルーガはそう宣言した。




  この後、集落の人々を連れ戻したソウガに大地を放った事を言及され、自身のいない間に色々と決めた事で大目玉を食らうルーガと、今頃ルシアを忘れた事に気付いて取りに行ったは良いが「もう一つ何でも言うことをきく」という約束を取り付けられたファルであった。

















(あの化け物……ふざけてやがる!)


  ファル達に見逃された事を知らず、ただ闇雲に逃げる大地。一度殺された、その瞬間がフラッシュバックし、大地の体から震えを止めさせようとしない。


  ここまでくれば平気だろう。と荒い息を整えた大地は、集落の方向を合わない焦点で見詰め、右手を掲げた。


「……ここならアイツも何もできない筈」


  正常な判断を失っているのだろう。普段は一瞬で作られる筈の兵器がいつまでたっても作られない事に対して疑問を持った様子がない。



  そして、自身が魔物の巣の目の前に立っている事にも気付いていない。





  集落には、絶対に近付いてはいけない場所がある。

  巣穴に入り込んだ生物『だけ』を獲物にする事で知られ、集落の人々からは外から来る魔物や魔獣から守ってくれる存在として知られている……、





「シュルル……」


  巨大な蛇の魔物がいるからだ。


「……はっ?」




  これが自身の破壊衝動を抑えきれず、数百と人を殺めてきた男、新嶋 大地の呆気ない最期だった。

オマケ




なにもしない(・・・・・・)ってのは無理ですしねぇ」



(……絶対ただ蹴ったりしただけじゃソウガさんは「それでは生ぬるいですよ? もっとこうやって……」とかやりそうですしねぇ……あはは)



この件で、ソウガの恐ろしさの片鱗を垣間見たルーガであった。

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