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龍人転生~苦労の絶えない異世界道中~  作者: 白玉蛙
三章 デイペッシュ
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戦いの幕開け

投稿遅れてすいません。

「全員集まりましたか?」


「俺で全員だ」


  集落の中心の、ソウガから見て一番後ろにいる長が、全員いることを確認した。


「ありがとうございます。それでは行きましょう」


「でもよぅ本当に来るのかい? その危険な魔術師ってのは」


「来ます」


  魔術師……大地を迎い打つ為、できるだけ被害を抑えるべく人々を避難させている二人は、男性の質問に確信と共に答えた。

  その言葉に腕を組ながら静かに聞いていた集落の長が、ゆっくりと口を開いた。

  長という立場上、集落の人々全員を移動させる様な大きな事を決定する、言うなれば責任者の立場なのだ。


「魔術師なら、魔物とかと違って話が分かるかもしれない。全員が避難する必要はあるか?」


「その魔術師は、私達を殺す為にやって来るんです。皆さんが避難した後、私達がその魔術師と戦います。なので被害は出したくないんです」




  表情一つ崩さないソウガの顔から何かを感じ取ったのか、少しだけ表情を崩した長。


「ソウガは、魔物の襲来から何度もこの集落を守ってくれた。信じていいんだな?」


「はい」


「……分かった、信じよう。皆! ソウガの言うとおりに、集落のはずれの洞穴に避難するぞ!」


  長の声に他の人々も呼応する。


「魔術師だかなんだか知らないが、やっちまってくれよ二人とも!」

「アタシ達は応援する事しか出来なさそうだけど、アタシ達の気持ちはいつでもアンタ達の(そば)にあるからね!」


「皆さん……ありがとうございます」


「えーと、とりあえず移動しません?」


  一人だけ取り残されたルーガであった。





  数分後、二人を残して誰もいなくなった集落を見渡して、ルーガは、ふぅと息を吐いた。


「まさか皆さん、走っていくとは思いませんでしたよ」


「……同感です」


  本当はソウガが牽引して避難させる予定だったのだが、何故か「俺達は大丈夫だ」と言ってやる気に満ちた表情で目的地まで走って行ってしまったのだ。

  一度スイッチが入ると暴走する人々なのである。


「一気に暇になっちゃいましたね~」


「暇では無いと思いますが 」


  そこで二人の会話は途切れた。


  暇、と口先ではそう言っているが、状況が状況なのか今までの底抜け明るい雰囲気は鳴りを潜め、静かに目を閉じてひたすらに集中していた。


  ルーガにとってはリベンジ。ソウガにとってはルーガの仇となる。

  と、ソウガが珍しく自ら会話を始めた。


「ルーガさんは」


「どうしました?」


「ルーガさんはファルさんの事、どう思っていますか?」


  突然のソウガの問いに少し驚いた様子のルーガ。


「どう、とは?」


「大人になったり時間を巻き戻したり、正直驚かされる事ばかりじゃないですか」


  表には出していないが、ソウガもここ数日、ファルに驚かされてばかりで、ルーガを救った本人なのは分かっているが、少しだけ警戒しているのだ。

  しかし、ルーガはそんな事を気にもとめていない様子で、


「それがファルちゃんの良いところじゃないですか~。この前だって、自分から魔法に突撃したんですよ?」


  自身の妹(弟?)の様に自慢するルーガの話をを聞いて、自分の知らない所で凄い事をしているんだなと再び驚かされたソウガ。


「それも凄いですね……」


「驚かされる位凄くて強くて可愛い、最高じゃないですか! もう欲しいくらい好きです!」


  欲しかった答えとは少し違ったが、ファルを信用しきっている様子を見て、薄く笑みを浮かべて「そうですね」と呟き、何かを決めた雰囲気を纏わせて家へと入っていった。


「ちょっと着替えてきますね」


「着替え?」


  意外な言葉に思わず反芻してしまったルーガ。


「戦闘服というやつですよ」


  そう言うなり扉を閉めたソウガに対して、頭に?マークを浮かべるルーガであった。






「お待たせしました」


「おぉ~……随分と変わりましたね」


  数分を費やして部屋から出てきたソウガは、服を変えただけなのに別人と見間違えてしまう程の変化を遂げていた。

  普段はゆったりとした服を着ていて、他の集落の人々と遜色(そんしょく)無い格好だったが、着替えを終えたソウガは髪を結い上げ、白い着物を羽織っている。

  色は違うが、ルーガの服とよく似た服を着ていて、顔を見なければ別人と見間違えてしまうだろう。


「昔、オーガ様と旅をしていた頃の服です。少し小さかったですが、ファルさんから分けて貰ったエトッフラワーの葉のお陰でなんとか着れました」


  ファルさんに感謝ですね、というソウガの言葉を頭の端で聞いていたルーガは、ソウガの服装に見とれていた。


「綺麗ですね」


「ふふ、ありがとうございます」







  ――数時間前、ジャックの部屋


「そういえば、ファルは直接時間を越えてきたが、ギルドにいるファルはどうなったんだろうか……」


「私が知る訳無いじゃないですか」


「いや、独り言のつもりだったんだが……」


  正午までやることの無いジャックは、ふとそんな疑問を口にした。


「でも確かに気になりますね。同じ時間に二人……ちょっと見てきます」


  転移魔法で消えたシャロン。


「あ、ちょっ……早いな」


  即決即行動のシャロンに置いてかれ、溜め息を一つ溢したジャック。幸せそうに寝ているファルに一言告げ、彼も部屋から出ていった。


「俺も少し席を外すから、待っててくれな」





  城を出て門番に外出の報告をするジャック。


「行ってくる」


「はっ、例の任務……ですか?」


「あぁ」


「……お気をつけて」


  門番が気の毒そうに言う。

  仕事柄、少なからず外出者の内容を把握しなければならない門番の兵士は、当然ジャックに課せられた任務も把握している。

  王の不要な好奇心で、高い確率で殺されるのだろう子供と、その被害者を拉致しなければならない、普通は暗部がする筈の汚れ仕事をこなさなければならない己の国の近衛隊長に、門番は心から同情していた。






「また寝かせる事になっちまうが、まぁ許してくれ【誘眠霧(スリープミスト)】」


  ギルドの前で魔法を使用したジャック。体感時間で3日前に侵入した際にも使用した魔法である。



  魔法の霧がギルド内部全体に広がっただろうタイミングで扉を開き、全員が寝ていることを確認したジャックは、ファルの寝ていた部屋へと()を進めていった。





「……私がギルドにいたこと、忘れてませんでしたか?」


「忘れてはいなかったが、考えてもいなかったな」


  部屋に入ると、ジト目で睨むシャロンが立っていた。誘眠霧(スリープミスト)の件だろう。


「私じゃ無かったら今頃寝てますよ」


「寝かせる魔法だからな。というかファルは?」


  記憶ではファルが寝ていた場所に誰もいないのを確認し、シャロンにそう聞いたジャックだったが、シャロンも分からない、と首を振って答えた。


「私が来たときにはファルはすでに居ませんでしたよ」


「この前はこの時間帯に忍び込んだんだが、その時は寝ていたぞ?」


「ふぅ~む、分かりませんね」


  5分ほどお互い意見を出しあったが結局良い答えが出ず、ひとまず戻る事になった。





「……ギルドには転移妨害魔法が掛けられてるってのに、どうやって転移してんだ? アイツは」


  ブツブツと呟いているジャック睨んでを不思議気そうな目で見ていた門番は、はっと思い出して自身の仕事を始めた。


「お帰りでありますか?」


「ん? ああ」


「子供が見当たりませんが……」


  大丈夫なのでしょうか? と訴える様な目で見る門番に、事実に虚実を混ぜて簡潔に説明したジャック。


「感付かれたか、何処にもいなかった」


「そうですか」


  少しホッとした様子の門番。


「この時間帯にいないとなると……『もうこの国にはいないかもな』」


「ですね。……良かったです」


  過去のファルが消えた理由は分からないが、この国から去った事にすれば、あの男は間違いなく集落へ向かうだろう、というジャックの無駄に強調した部分の言葉に何かを察した門番は、安堵のため息でジャックを見送った。






「遅かったですね」


「……転移で人の部屋まで入ってきた奴がそれを言うか」


  ベッドに腰掛けてファルを撫でているシャロンは、気のせいか右手に魔力を纏っていた。


「何してるんだ?」


「虫が入るのを防いでました」


「虫?」


  わざわざ魔力を使ってまでする事か? と思ってしまったジャックに、苦笑いでシャロンが説明する。


転移遮断域(ワープジャマーエリア)を発動させているだけですよ」


  ギルドに設けられていた装置を真似てみました。と言うシャロンに驚きと呆れが入り交じった表情でジャックは唸った。


「つい先程、この部屋に誰かさんが転移する気配を感じましてね。目障りですし、今のファルさんを見られては元も子もないので」


「感謝する」


  王の差し金か、単純に様子を見に来ただけなのかは知らないが、シャロンのファインプレーに感謝する他無かった。


「取り敢えず俺達の役目は、あと報告をするだけか。昼まで待つことになるが、どうする?」


「どうするって……魔法を発動させ続けなければいけませんし、残るしか無いでしょう? まぁ、私はファルさんの隣で休みますね」


  そう言うなりファルを抱き枕に寝息を立て始めた。


  その状況を見てジャックは、「俺の部屋なんだがな……」と呟き、椅子に座って寝るのであった。









  ――翌朝。



  ジャックにとっては一番の試練である王への報告に、重々しく真面目な雰囲気を出して挑んだジャック。

  彼のこの行動で、上手く大地を集落へと誘導させなければならないのだ。

  一段落失敗の報告を終えたジャック。


「……で? その子供冒険者とやらに逃げられたと?」


「申し訳ありません」


  心の中でざまあみろ、と少しいいきぶんになった所で、()から下がるように命令される。


「ふん、使えない奴だ。まぁいい、下がれ」


「はっ」






「戻ったぞ、どうだ?」


「成功ですよ」


  部屋に戻ったジャックは、光る玉を持っているシャロンに確認をとった。

 

  シャロンは自身の魔力で鼠サイズの使い魔を作り出し、王室に侵入させていた。


「集音玉といって、魔力を通じて遠くの音を繋げる魔導具(マジックアイテム)です」


「なんでもあるんだな」


  暫くするとザザ……と音が聞こえてきた。



『本当に使えない男だ』


『で、どうすんの? 殺す?』


  大地の声に少したじろいでしまったジャック。別の世界から転移してきた大地の言葉は分からないが、声を聞いただけで大地の事を思い出し、「あんな男に狙われたら、自分では勝ち目が無いのだ」と改めて痛感したジャックだった。


『いや、余は寛大だからな、大目に見てやるつもりだ』


『自分で寛大って言っちまうか』


「本当だ。茶飲みだってもう少し器が広いぞ」


「貴方はちょっと黙っててください」


……二度目だが、ジャックは大地の言葉を理解していない。会話の雰囲気だけで喋っているだけである。

 と、二人にとって一番重要な会話が始まった。



『そのガキが来ねぇとなると、俺は行ってもいいよな?』


『ああ、予定通り集落を潰してくればいい。『道』は既に暗部が繋げている』


『おっけぃ、じゃあ殺ってくるわ』




  彼等のやり取りを聞きながら小さくガッツポーズをした二人。


「俺達の役目はこれだけだ。後は頼んだぞ」


「誰もいませんよ?」


「……」


  ……案外、この二人は相性が良いのかもしれない。






  ――その日の正午。



『とうちゃーく。って……誰もいねぇのか?』


  集落の中心に転移した大地は、周囲に誰もいない事に気付き、首を傾げた。


『来ましたね』


「あ? なんだお前等」


「私は貴方に一度殺された者です」


  何言ってんだコイツ? と首を傾げている大地に両手剣を向けるルーガと、妖艶に佇むソウガ。

  初めて見る二人だったが、戦う気満々といった状況に笑みを浮かべる大地は、右手に拳銃を作り出して構えた。


『なんだかよく知らねぇけど、俺を楽しませてくれそうだなぁ!』


「『りべんじ』です!」


  ルーガ達の戦いが今始まる。

「まさか皆さん、走っていくとは思いませんでしたよ」



熱血な集落なんですよ、きっと。





そう言うなりファルを抱き枕に寝息を立て始めた。



されるがままなファルは、シャロンにも標的にされます。

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