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龍人転生~苦労の絶えない異世界道中~  作者: 白玉蛙
三章 デイペッシュ
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それぞれの思い

『請け負ったは良いものの、この状況は理解し難いのですが……』


『……同感だ』


『ここがファルさんの中……ですか』


『うぅ~、追い出されちゃいました』



  何もない空間に辿り着いた彼等は、それぞれの感情に思いを馳せていた。


  ソウガは自身の置かれている状況に困惑し、



『ふむ、魂の存在というのは痛覚が無いのに触覚はある、面白いですね』


  シャロンは初めて体験する魂の体を目を輝かせながら調べ、



『……』


  ジャックは思考が付いていけずに考えるのを止め、



『楽しみですね~』


  ……ルーガはこの状況を純粋に楽しんでいた。



『ルーガさん、この場所は一体?』


『ファルちゃんの魂の部屋……あれ? ディメアさんのでしょうか?』


『ディメア?』


『もう一人のファルちゃんみたいな人です。丁度大人になって髪を伸ばしたファルちゃんみたいな』


  イマイチ要領の得ないルーガの説明に首を傾げるソウガの傍らで、シャロンが何やらブツブツと呟いている。


『ディメア……ファル、ディメア……まさか?』


  なにか思い当たるのですか? と聞こうとしたソウガだったが、ふわりと体が浮く感覚に話題を変えざるを得なかった。


『? この感覚は』


『ファルちゃんから出るときの感覚です。早いですね~』


  一度経験のあるルーガが、ソウガにそう言って昇っていく。天井の無い、空の様な空間には驚いた様子のソウガとルーガが映っていた。


『そっちは頼んだぞ』


『はい!』

『任せて下さい』



  と、景色が変わってジャックにとっては見知った場所へたどり着く。


『俺もか』


  上を見上げ、ファルの登場に驚いている過去の自身を見て苦笑したジャックは、上に昇っていく感覚に身を委ねた。


『向こうで会おうか』


  シャロンにそう一言告げた後、ジャックも空間から消えた。

  と、頭上が真っ暗になる。ファルが技能(スキル)の使用限界によって力尽きたのだ。




『これで辻褄が合いましたよ……ファルさん。そういう事だったんですね』


  何かを確信したシャロンは肩を震わせながら、本来の目的を忘れる程に興奮していた。






「それじゃ、俺は二人の魂を移してくるから、手筈通りに!」


  自分の身長より若干高い位に成長したファルのその言葉に応答したルーガは、ファルが転移したのを見送った後にソウガと小さな作戦会議を始めた。

  ……過去の自分が食べている最中だった食事を食べながら。



  ルーガ自身、最初の内は死んだのに生き返った自分に困惑していた。

  自分を姉と慕っていた集落の子供を庇って大地に撃たれ、ファルに看取られて悔いなく死んだ。

  しかしファルによって生き返った。目を覚ました自分は何故かファルの肉体を借りている事を確信し、ソウガを含めた集落の生き残り全員が自分を見ていることに驚き、その時の状況を作ってくれたファルに感謝していた。


  ファルに体を返した際に出会ったディメアという女性の存在に少し興味を持っていたルーガだったが、五月蝿(うるさ)いという理由で最初にいた空間から追い出され、ソウガ達と合流して先程に至った。


  そんな状況をルーガは楽しんでいた。


  元々、ルーガはあまり深く考えない性分なので、結果より過程を尊重するタイプなのである。


「明日、早朝に皆さんを避難させましょう! 絶対にあの人は来る筈なので、私が待ち伏せして倒します」


  ルーガの中では、この作戦はかなり考えた方である。

  ……もう一度言おう。結果より過程を尊重するタイプなのである。


「やはりルーガさんはルーガさんですね。けど今回は私も戦いますよ」


  一度死んでも決してぶれないルーガを見て多少落ち着いたソウガは、自身も戦う事を宣言した。


「やってやりましょう!」


「事は早朝に、ですね」


  うえぇ、と顔を顰めたルーガであった。






「……後は、お願い……」


  そういってジャックにもたれかかるように倒れたファルを支えて、自身のベッドに寝かせた。


「そういや今夜だったな」


  4、5時間後にファルを拉致する予定だった過去のジャックは、軽く仮眠を取る予定だった。


(さて、これからどうするか)


  水で濡れた床を拭いて椅子に座ったジャック。時間移動に魂の存在になった自身、果てには過去の自分に乗り移ったジャックは、考えることを放棄したのか、とても冷静である。



  椅子に腰掛けて数分程ボーッとしていたジャックの部屋に、シャロンが転移してきた。


「この部屋からとてつもない魔力が……あ、お邪魔します」


「あぁ、あんたか」


  どこからともなく現れたシャロンにそう返すジャック。

  するとおや? とシャロンが、


「私の記憶が正しければ、私は貴方とは初対面の筈ですが……」


  その言葉にそういえばそうだったな、と納得したジャック。

  未来のシャロンはまだファルの中、今のシャロンとは初対面の関係なのである。


「というかそれはさておき、この場所から一瞬、とんでもない量の魔力が放出されたんですが、貴方ではありませんよね?」


  一目で自身の事を先の魔力の持ち主ではないと見抜いたシャロンに少し驚きながらも質問に答えた。


「俺じゃ無くてファルの方だな。そこで寝てる」


「ファル? ……なんか背が伸びている気がするんですが? それとなんでこの場所に?」


「今説明する」





「と言うことは、今ここで寝ているファルさんは未来から来たファルさんで、貴方は未来の私と面識がある……と」


  うぅむ……と難しい表情で唸っているシャロンを見て、まぁ当然の反応か。と苦笑するジャック。


「未来っていっても数日後だけどな。それと今のファルはスキルの影響らしい。3日もあれば元に戻る」


「些か信じがたい話ですが、私が【反魂(リザレクション)】や【魂離(ソウルリーブ)】を使えるのも事実です」


「あんたの体にもファルが魂を移す予定だったんだが、その前に力尽きたみたいでな」


  安らかな寝息を立てて寝ているファルを見たシャロンは、無理矢理にでも自身を納得させた様で、


「……分かりました、信じましょう。それで、私は何をすれば良いでしょうか?」


「そうだな……」






『……一人だけ間に合わなかったみたいね』


  ファルの意識が消えたのを確認したディメアは、一人思考の海へと沈んでいた。



  七星龍は、自身が修復不可能な傷を負い、生命活動に異常をきたすと、新たな肉体を作り出して転生する。

  七星龍の存在が消えるということは、属性を司る神が消えるということ、水の属性が消えればこの世界は土だけの世界となり、土が消えれば水だけの世界となる。光が消えれば闇が世界を覆い、闇が消えれば遮る物が消えて光が延々と世界を照らし続ける……。

  死して尚、消える事の出来ない存在こそが七星龍なのである。


  それはファルディメアも例外ではない。いや、一番重要なのだろう。


  時空が消えたら、時は止まり空間は形を留められず崩壊して『この世』というものが無くなるのだから。



  訳あって瀕死の重症を負い、自身の体が死ぬ前に、非力だが単独で生きていける程度には成長させた新たな肉体を作り、転生した。

  しかしその時にファル……『佐倉 元』の魂がファルディメアの肉体に割り込んで転生したのだ。


  当初、たかが人間の魂が神の(カラダ)に耐えれる筈が無いと、驚きながらもタカを括っていたファルディメアだったが、魂は存在を保ち、あろうことか自身の肉体の主導権を握り、神龍の肉体を人間に程近い形に変化させたのを(ファル)の心の底で見ていたディメアは、純粋に驚き、戸惑い、そして歓喜していた。


  時間と空間を司る存在としてこの世界と共に生まれ、生と死を繰り返すだけの存在だった自身からしてみると、この都合良くいかないが知識欲を満たせる空間に、程よい刺激と底知れぬ満足感があった。


  たまに見る外の景色もそうだ。自身の名前から『ファル』を名乗り、精一杯生きているその光景が新鮮で楽しく、そして妬ましかった。



  今の私があるのは、ファルのお陰かもしれないわね。


  今其処にいないファルに感謝しつつ、この後何をどうするか、それをを考える為に再び思考の波に体を預けるディメアであった。

オマケ



『うぅ~、追い出されちゃいました』



『ディメアさん、この場所ってなんですか? ソウガさん達も来るんですか? やったぁ!』


『あぁもう、五月蝿い!』


こんなやり取りを五回程やった様子です。





ジャックにもたれかかるように倒れたファルを支えて(ry



ジャックはファルの事を男だと思ってます。ええ本当、羨ましいなんて私は思ってませんよ。


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