時戻
今回は短いです。
「全員って……これまた大きく出ましたね」
『ちょっと、私の説明を全部聞いてからそういうの言いなさいよ』
ディメアに注意された。
「それで、何をどうするんだ?」
「今から説明する」
考えついた作戦は、端的に言えばこうだ。
俺がジャックさん達の魂を一時的に保持して時間を戻す。そして過去のジャックさん達に魂を移して未来を変える。
ジャックさん達に協力を仰ぐ理由は……まぁそのうち分かるだろう。
「……っていう感じで、ジャックさん達にも負担が掛か「待ってくれ」……?」
「まだ整理ができてないんだが、時間を巻き戻す? そんな事が出来るのか!?」
「え、うん。まぁ……」
多分。
「う~ん。それなら確かに全員を救うって事は可能だと思いますが、万が一失敗したらどうなるんでしょうか?」
当然といえば当然か、リスクを聞いてきたシャロン。
「いや、失敗はしない」
……よね?
自信満々に言ったは良いものの、今更出来るのか不安になってきた。
『はぁ……そういう事を言うのは内容を理解してからにしなさいよね』
はぁ、と溜め息を吐いたディメアはそう俺に言った。
以後気を付けます。
『そうね……魔力さえなんとかなればいけるわよ』
それってどれくらい?
転移の件を思い出して、またとんでもない量の魔力が必要になるんだよなぁという嫌な予感は、案の定当たった。
『今の貴方の全魔力で5分巻き戻せて、3日前だから……(もういいです)』
つまりは魔力消費量が半端じゃないって事だよね? 自分で言っておいてなんだけど、無理じゃね?
予想の遥か斜め上をいっていて、分かっていても絶句してしまった。
『前から思うのだけど、貴方ってそういうところ抜けてるわよね……まぁいいわ。【諸刃の剣】を使いなさい』
(ん、了解『ちょっ、待ちなさい! まだ早いから!』……あ)
言われるがまま時間制限のある技能を発動させてしまった俺。
……抜けてるって言われた直後にこれかよ。
「な、なんかファルさんの魔力が跳ね上がった気が……って、また大人になってますよ!」
大人がどうしたんだ? と口を開こうとした俺だったが、目線が高くなっていることに気付く。
どういう原理か知らないが、どうやら【諸刃の剣】は一時的に体を成長させるみたいだ。
今度色々と試してみたいな……っと、今はそんなこと考えてる場合じゃないな。
「ごめん、ちょっと時間が無くなっちゃった。……一瞬だけでいいから魂を預けてくれる?」
主に俺のミスでこんな状況に陥ってしまったのだが、5分過ぎるとまた3日寝たきりだし、ジャックさん達には悪いけど急がなきゃ。
「どうやって……って、聞いてる時間も無さそうだな」
「ファルさんって、私を飽きさせませんよね。別に私はこの集落とはなんの接点もありませんが、良いでしょう」
「救える確率が少しでもあるのなら、私はそれに賭けてみたいと思います」
「俺も……出来る事ならなんでも協力する!」
「たった今ルーガちゃんを生き返らせる奇跡を見せられたんだ、俺もお前を信じるぞ!」
次々とそんな声が周囲から響く。
「ありがとう。でも、ここはソウガ達三人にお願いするよ」
「待っていて下さい。私達が必ず、皆さんの分も救ってきます」
「自分に掛けるのは初めてですが、いきます! 【魂離】!」
シャロンが、ジャックさんとソウガにそんな魔法を掛けた。すると二人が倒れるように眠る。
後で聞いた話だと、本来は相手を無力化させる為に使用する上位魔法で、【反魂】とは対となる技能なんだそう。
手間が省けた。
シャロンも自身に掛けたのを確認し、【万物吸収】で三人の魂を吸収した俺は、早速――。
(それで、どうやって時間を戻すの?)
方法を聞いた。
だって知らないんだもん。あんなこと言っといてなんだけど。
『……今の貴方なら使えると思うけど』
呆れた声でそう告げられて、取り敢えず自分の技能を一通り見返してみる。
すると1つだけ見慣れない技能が存在している事に気付いた。
神技能:【時空龍の誓い】
神技能? 始めて見るな……。
とはいえ、名前からして時間を巻き戻せそうな技能だったので、4日前と念じて発動してみた。
するとパッと視界が切り替わる。
転移魔法を使用した時と似た感覚と共に同じ場所……集落の中心に降り立った。
先程とは違って人の気配が無く周囲は真っ暗、建物も元通りなのを見て、時間が巻き戻ったのが分かった。
『御主人様、【反魂】の習得は完了しました。残り2分です』
よし、まずはルーガとソウガだ。
人気のない集落を走った俺は、記憶をたよりにソウガの家に到した。
「ルーガ、ソウガ。夜遅くにごめん」
「その声は……ファルさ、ん?」
「お久しぶりですって……あれ? 随分と大きくなりましたね」
部屋で食事をしていたのだろう二人がが現れ、俺の姿を不思議そうな表情で見ていた。
「今は説明してる時間が無いんだ」
【反魂】で二人の魂をそれぞれに移した。
突然の俺の訪問に驚いていた二人は、その直後全てを納得した様子で傾いた。
「成る程、そういう事ですか。成功したみたいですね」
未来の記憶を得たソウガは安堵の表情を浮かべ、
「おぉ~、3日ぶりの私です」
一度死んだルーガは自身の体を確かめて満足そうな表情を浮かべていた。
「それじゃ、俺は二人の魂を移してくるから、手筈通りに!」
「「任せて下さい」」
素早く転移した俺、目的地はジャックさんの部屋だ。
「っと」
「ブッ……! ファル!? 何がどうした!?」
運良く部屋にジャックさんが居た。
……飲んでいた水をブハッ、と吹き出したのを見て、少し後退りしてしまった俺は悪くないと思う。
「く、詳しい説明はこっちでお願い!」
再び同じ方法でジャックさんの魂を移した。
同じく成功したみたいで、周囲を見回してから溜め息をついた。
「……後で色々聞くからな」
「分かって……、る……?」
ジャックさんに【反魂】を使ったと殆ど同時、とてつもない虚脱感が俺を襲ってきた。
「お、おい、大丈夫か!」
「……後は、お願い……」
シャロンまで、間に合わなかったな……。