ファルディメア
この人が本物の……。
『別に本物も偽物も無いと思うのだけど』
ちょっと待って、つまり纏めると……。
俺が転生したこの体の持ち主で、俺が今まで『謎の声さん』って呼んでた人って事で合ってるんだよね?
『だからその謎の声とかいう名前で呼ぶのを止めなさいって……合ってるけど』
困った様子でそう言ってから話を切り替える。
『えー、コホン……。私は七星龍の八柱目『ファルディメア』。時空を司る龍』
思わず二度見してしまった。
というか、八柱目? 七星龍は七柱の龍なんじゃないの?
『そうね……それぞれ火、水、雷、土、風、光、闇、七つの属性を司る龍は七星龍っていうのは知っているわよね?』
一応は。
『あなたは、転移魔法とやらは何属性だと思うかしら?』
知らない。
『私が何度か使った『時戻』は?』
……分からない。
時戻は俺の大怪我を治したあれだろう。いや、正確には時間を巻き戻して無かったことにしたのだろう。
『人間は一纏めに無属性魔法と呼んでいるけど、そこが私の管轄なの。つまりは『時空属性』、七星龍と共に生まれた存在よ』
規模の大きさにちょっと付いていけなくなった俺。そんな人……龍? の体を使ってたんだな、と少し申し訳ない気持ちになった。
何で俺はファルディメア……さん? の体に?
『あなたもファルディメアでしょうに……というかそれは私も気になってるのよ』
ファルディメアさん(以降ディメア)が言うには、この空間は心の底……『深層心理』に当たる場所らしく、魂しか訪れる事が出来ないらしい。
『私は訳あってこの体を作り出して転生したの』
訳って、死んだからじゃなくて?
『……話を聞きなさい』
一から作り出した肉体、この体に魂を移し変えた時に俺の魂が割り込みで転生してきたのだという。
『お陰で龍だった肉体は人間の魂と融合したのか龍人になって、私はこの空間に押し込められたの』
……なんかごめんなさい。
『謝られてもどうにもならないし、記憶を見たら貴方が狙ってやって無いことなんて丸分かりよ』
記憶って見れるものなんだ。
『私は『記憶の書庫』って呼んでるわ。それにしても貴方、別の世界から来たんでしょ?』
なんかよく分からない人物に殺されてね。
『知ってるわ。貴方の考えだとその人物が私の肉体に貴方の魂を割り込ませた。そうでしょ?』
個人的にはそれしか考えられないけど……。
『合ってると思うわ。私だって『……【反魂】!』あら、随分と早いわね』
上から聞こえたシャロンの声と共に、再び体が引っ張られる感覚に襲われる。
えっ、まだ色々と聞きたい事が……。
『チャンネルは繋いだわ。これで謎の声さんとか言われずに会話ができると思う――』
ディメアの言葉を聞き終わらない内に意識が暗転した。
少し前
「本当にルーガちゃんかい?」
「信じられねぇけどそうみたいだ」
「子供の方は大丈夫なのか?」
「あぅ……えと」
周囲からの声に少し戸惑っているルーガを見かねてか、落ち着きを取り戻したソウガが合いの手を差しのべた。
「皆さん、ルーガさんも今は混乱しているんです」
その声で周囲が静かになった。そして自身の状況を理解したルーガは深呼吸をして「ありがとうございます。もう大丈夫です」と立ち上がった。
「そうだったな。しかし、良かったなぁ本当に「よくなんかない!」」
肉体は違えど生き返ったルーガに喜びの声が広がる中、身内を失った者からは悲しみの声も上がった。
「娘が死んだのに、良かったも糞もあるか!」
「それは……」
言いよどむ男性に、大地に殺された娘の父親が更に畳み掛ける。
「アンタは、身内が死んでないからそう言えるんだろ!」
「止めなさい!」
ビリビリと威圧を感じる程の迫力で怒鳴ったソウガに、人々がピタッ、と静まり返った。
「私達は集落という1つの家族です。そんな家族の、仲間の死を悲しむのは誰だって同じです」
子を叱る母の様な雰囲気を滲ませたソウガは続ける。
「◯◯だからなんて理由で仲間を責めるのは止めなさい。誰も何も得ないし、ただ悲しみだけが増えていくだけです」
「あ、ああすまなかった」
ソウガの迫力に圧倒されてか、冷静になって周囲に謝罪した男性。しかし身内を失ったという悲しみは数日で払拭されるものでもない、とばかりに悔しさをその顔に滲ませていた。
「……ソウガさんが本気で怒るの、初めて見ました……」
「奇遇ですね、私もです」
そう言うルーガとシャロンは、珍しいものを見たなと少し満足していた。
「ルーガさん、取り敢えずファルさんを戻しますか?」
魂を入れ換える事は成功し、後はファルの魂が元に戻れば全てが解決する。というのもあってソウガがルーガに提案する。
「お願いします」
「二回連続は堪えますが……【反魂!】」
ルーガの体から力が抜け、シャロンに支えられる。
魂を入れ換える様子を見てファルに対して俄然興味の沸いたシャロンであった。
(これは暫く退屈しなさそうです)
目を開けると、シャロン、ソウガ、ジャックさんが俺を覗き込んでいた。
「それで、どうだったの?」
成功はしたのだろうが、念のために聞いてみた。
「その前に確認だ。お前さんはどっちだ?」
「ファル」
まぁ本物じゃない、偽物だけどね。
『だから偽物じゃあ無いわよ。いい? 貴方がわ『ファルちゃん!』っていつの間に!』
ディメアが俺の中から否定してきた。チャンネルをどうのこうのと言っていたが、しっかりと言葉が分かるので、今後色々と聞けるだろう。
というか、ルーガがディメアの言葉に割り込んできたな……。
『ファルちゃんの中にこんな場所があったんですね~』
『ちょっ貴方、大人しくしてなさい!』
ルーガの復活に喜びたいが、相変わらずのマイペースぶりに苦笑するしかなかった。
「どうした? 急に黙り込んで……まさか副作用か何かが?」
「え? あぁ大丈夫。ルーガが話し掛けてきただけだから」
ジャックさんが突然黙った俺を見て心配そうに声をかけてきた。
前から思うけど、ジャックさんって心配性だよな。
「ルーガさんが?」
後ろの方でソウガの声にピクッと反応した人々。そして少し前に娘を大地に殺されたと言っていた男性が、
「なぁアンタ、ルーガちゃんを生き返らせた力で娘も……」
「旦那を生き返らせて!」
「死んじまったものはどうにもならない……分かってるが、もう一度だけ女房に会わせてくれ!」
家族を失った人々が口々にそう頼み込む。ルーガが大丈夫なら身内も、という考えなのだろう。
俺もなんとかしたいが……、
「シャロン?」
「無理です。まず私の魔力量が持ちませんし、そもそもファルさんが耐えられません。できて……三、四人ですかね」
どうやら【反魂】は想像以上に魔力を消費するらしい。
……楽々大陸を転移する人がそんな回数しか使えないなんて、どんな消費量だし。
「そんな……なんとかならないのか?」
「はい」
バッサリと切り捨てたシャロン。
命は命、重い軽いもないしルーガだけ不公平だ。と思う人間もいるだろうが、こればかりはどうしようもない。
と、ディメアが、
『平気よ?』
……へ?
『私を誰だと思ってるのよ『ディメアさんです!』貴方は黙ってなさい!』
ディメアは時空龍って言ってたな。実際に時間を巻き戻したし……
って事は……時間を巻き戻してこれを無かったことに出来るかも?
解けない問題が面白いように解けていく感覚に、少し鳥肌がたった。
「……いけるかもしれない」
「また何か考えが浮かんだんですか?」
頷いた俺は、興奮気味に、
「これなら全員救える」
オマケ
訳って、死んだからじゃなくて?
死んだからです。
『私は『記憶の書庫』って呼んでるわ』
記憶を読める、ということは本人の趣味や前世の生活も見れる訳で……。
相変わらずのマイペースぶりに(ry
ルーガは何があってもブレません。