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龍人転生~苦労の絶えない異世界道中~  作者: 白玉蛙
三章 デイペッシュ
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反魂

「考えって、何か方法が思い付いたんですか?」


「別に考えっていっても大した事は無いよ」


  頭に疑問符を浮かべているシャロン。


「何をどうするんだ?」


「俺がルーガの魂を引き受ける」


「なっ」


「ほほぅ」


  俺の言葉に驚くジャックさんと興味深げに頷くシャロン。ジャックさんが焦った様子で俺に説明する。


「お()、分かってるのか? 仮に魂を宿したとして、自分が自分じゃなくなるかもしれないんだぞ?」


「知ってる。俺だってこんな年齢で消えたくはないよ」


  この世界に来てまだ一年も経ってないんだぜ? そう簡単に命を投げ出すなんて事、流石の俺でも嫌だね。


「その口振りからすると、ルーガさんを救って自分も助かるみたいですが、方法は?」


「その前にソウガも呼びたいな」






「ファルさん! 無事だったんですね、良かったです」


  シャロンが呼びに行って数秒、ソウガが走って来た。

  つーか早いな。


「うん。えと、早速なんだけど……ルーガを助けようと思ってさ」


「助けるってファルさん、まさか」


  言われた事を察したソウガが、ジャックさんと同じように考えを変えるように説明を始めようとしたので、それを制止して俺の考えを伝える。


「俺にあてがあるんだ」


  全員が俺の話を聞いてくれそうな雰囲気になったので、改めて説明を始めた。


「まず、シャロンが言ってた魂が見えるか? っていう問題だけど」


「魂という概念に精通している人間は、この世界に数える程しかいませんよ?」


「俺が見える」


  別に、これなら言っても構わないだろう。


「【神察眼】っていう技能(スキル)で見えないものも見えるんだ」


『魂、というのは一種のエネルギーの塊で、実は辺りに普通に漂っているものです』


  だそうだ。


「ちょっと待って下さい。【神察眼】って……ユニークスキルですよね!?」


  ええっ! とシャロンが驚いている。

  まぁユニークだからかな。というか知ってるんだ。


「それで普通は見えないもの……ルーガの魂を見つける」


「そんなことが……。でも体はどうするんですか? ルーガさんの魂を移す体は」


  三人の中では比較的驚かなかったソウガが、もう1つの問題点を指摘する。


「それも俺が引き受ける」


「ならば却下です」


「俺もだ」


「お二方、ファルさんの話を最後まで聞きましょう。まだ続きがあるみたいですよ?」


  即答で却下する二人を宥めたシャロンが、再び俺に話すように促した。



「もう1つ、俺の持ってる技能(スキル)を使うんだ。ジャックさん、一回俺に攻撃魔法を撃ってみて」


  これは実際に見てもらった方が良いかな。という感覚でジャックさんに頼んだが、案の定渋られた。


「なんだいきなり「いいからさ」……『火炎球(ファイアボール)』……ッ!?」


  渋々ジャックさんが放った火属性魔法を、俺が【万物吸収】で無効化した。


「おぉ……消えましたね」


「消えた……というよりは吸い込まれた感じです」


「物理的なもの以外は全て吸収しちゃう、【万物吸収】って技能(スキル)なんだ」


  簡単にそう説明するとシャロンが、


「初めて聞きますね……やっぱりユニーク?」


  うん、と頷いて続ける。


「この2つを使ってルーガの魂を俺の中に宿す」


「大丈夫なのか?」


「少なくとも俺自身とルーガの魂はね」


  大まかな説明だったけど、反対意見は無さそうだ。

  そう内心で胸を撫で下ろした俺にシャロンがとんでもない事を口にした。


「成る程、これならルーガさんの魂は消滅せずに済みそうですね」


「え、消滅とかするの?」


「え、知らずにやろうと思っていたんですか?」


  どうやら死者の魂というものは、日が経つにつれて存在が薄くなり、49日目には完全に消滅する……という記録があるらしい。

  誰がそんなの試したんだし……。



「……憑依じゃなくて俺が一時的に保管する感じだし、そこから先はよく分からないからシャロンお願いね」


「了解です。それにしても本当、面白い体してますね。ユニークスキルを2つも持ってるなんて」


  実は4つなのだが、それは言わなくてもいいか。


「まぁこんな感じ(ルシア、できる?)」


『ここまで説明しておいてですか……。可能です』


  だそうだ。最初になんか聞こえたが、ただの幻聴だろう。


「じゃあ早速探そうと思うんだけど」


「ルーガさんの場所ですね。付いてきて下さい」





「この下です」


  歩いてすぐ、集落の中心には十数もの棒が立てられていた。造りは簡潔だが、どうやら墓の様だ。

  この世界では死者を長時間魔酸素の充満する空間で放置すると、死霊(ワイト)という魔物になってしまうので、焼くか魔酸素の通わない地面に埋めてしまうらしい。

  異世界も火葬なんだな。


「どうですか?」


「今発動する。【神察がうおっ!」


  【神察眼】を発動した瞬間、目の前に様々な浮遊物体が現れた。見た目は典型的な人魂のそれである。

  何故か様々な色をしていて、圧倒的に赤と青が多い。


『死者が映した最期の感情です。赤は怒り、青は悲しみ、白……無色は認識する前に殺されたのでしょう。そして――』


  今は感傷に浸っている場合ではないな、と魂を見渡すと、1つだけ浮いた色をした魂が一点でふわふわと浮かんでいた。


『生前から強い力を持つ魂は、その魂に刻まれたものが色濃く反映されます』


  俺は迷い無く1つの魂に歩み寄った。


『かの獣人の魂に刻まれた色は間違いなく……』


  そしてピタリとその魂の目の前で止まる。






「『『黒い色の魂』です』……か。待たせたな、ルーガ」


  案外早く見つかるもんなんだな。

  ルーガの魂は、まるで意志を持っているかの様に元気(魂に元気も糞もないが)に飛び回っていた。




「そこはルーガさんの……まさか本当に」


「やっぱり驚きますよねぇ……。そういうスキルなんですよ」


  ソウガは、たった今さっきまで寝ていて何も知らない筈のファルがルーガを埋葬した位置を正確に当てた事に驚愕し、シャロンはそんなソウガの様子を見て軽く溜め息をついた。

  表層では冷静を取り繕っているシャロンであるが、僅かに肌が紅潮しており、内心では興奮している事が手に取るように判る。


(ファルさんに質問する事が増えてしまいましたね。楽しみです)




  (本当に……見えているのか?)


  ジャックも空いた口が塞がらない様子でファルを眺めている。

  ルーガという少女がファルの体を借りて復活したら、もしかしたらあの男を王から叩き落とす事が可能かもしれない。そんな希望を微かに(いだ)き始めたジャックであった。




「ルーガ、詳しい説明は後でするよ【万物吸収】」


  浮いてるルーガの魂を優しく包み込むイメージで【万物吸収】を発動させた俺。

  いつもの魔法を吸収するのとは違い、下手をするとルーガが消えてしまう、そう考えたら自然と操作が慎重になった。

  ルーガの魂は抵抗すること無くスッ、と俺の中へと吸収されていった。


  俺の中にルーガがいることを確認した俺は汗を拭って立ち上がった。


「終わったよ」


  随分と早くに終わったな、と達成感と共に呆気なさを感じた俺は周囲を見渡して驚いた。



  集落の人々が野次馬となって俺の作業を見ていたのだ。

  いつの間に……。


御主人様(マスター)は気付いてないかもしれませんが、作業を始めて一時間が経過しています』


  え、そんなに掛かってた? 体感時間が5分くらいだったんだけど。


「……どうだった?」


「成功、だと思う」


  おぉー! という声が集落中に響き渡った。


「いつの間にこんなに人が?」


「気付かなかったのか?」


「まぁ、集中してたから?」


  なんで疑問詞なんだよ……。と突っ込むジャックさんに苦笑いで返すしかなかった。

  だって実際に一時間も経過したなんて実感が湧かないんだもん。



「ファルさん。会話中失礼しますが」


「ルーガでしょ? いける?」


  はい、と傾くシャロンを確認してから俺は身を預けた。

  最終段階である。


「では、【反魂(リザレクション)】!」


  俺の中から何かが込み上げてくる感覚と共に、俺の意志が中へと引きずり込まれる感覚が襲った。

  事前にシャロンと打ち合わせをして、ルーガを俺の中から引っ張り出すと同時に俺の魂を【万物吸収】で吸収、体を入れ替える作戦を立てたのだ。

  俺自身の魂を無事吸収できるかが賭けだったが、上手くいったみたいだな。

  え、俺? まぁルーガの復活を確認するだけだし、問題ないっしょ。


  俺の意識が消える。




  そして、




「……ふぇ? 皆さん?」


  ゆっくりと目を開けた少女。その瞳は銀から黒へと変わっていた。


「えーっと、あなたは今、誰ですか?」


「ファル……ちゃんの体を借りてるルーガです……ええっ!?」


  ソウガの確認に答えた少女は、自身の答えに驚いていた。


「って事は……?」




「成功だと思います」


  その瞬間、周囲から溢れんばかりの歓声が集落を埋め尽くした。


「ルーガさんっ!」


「そ、ソウガさん!? ちょっ、どうしました?」


  ガバッと抱き付くソウガに戸惑いながらも、小刻みに震えているソウガの体をファルの小さな手で撫でた。


「……無理はしないでくださいって言ったじゃないですか」


「無理なんてしてませんよ。ちょっと無茶はしちゃいましたが」


  そう言ってはにかむファル、もといルーガを見たソウガは優しい笑顔で、


「おかえりなさい」


「はい、ただいまです」






  ……で、此処が俺の中か。


  目を閉じた時に広がる白とも黒とも言えない色、そんな空間に俺は漂っていた。

  不思議な場所である。まるで水中に浮いているような感覚があるのに、水の中みたいな不快感が全く無い。なにもしないでいると、上も下も判らなくなる……上下の概念はあるのだが。


  見上げるとそこには、ソウガや集落の人々が歓声を上げているのが見える。

  ルーガが今見ている光景なのだろう。


  それにしても居心地が良いな、此処は。



『そうでしょ?』


  えっ、誰!?


  バッと声のする方向を向いた俺は、俺の中に一人の女性を見つけた。


  ……えーと、誰?


『へ? あ、やっと通じた! やっぱり魂と肉体だったから通じなかったのかしら……』


  喜びの声を発したかと思えばぶつぶつと呟き始めた女性に、あぁ、と納得した俺。


  その女性は、今の俺を大人にしたらこうなるだろう、という姿をしていたのだ。つまりは――



  この体に転生する筈だった魂……謎の声さん?


『謎の声さんって止めてくれないかしら? 私には『ファルディメア』っていう名前があるんだから』


  彼女が本当の体の持ち主、本物の『ファルディメア』である。

オマケ





49日目には完全に消滅する。



何故かそこだけ日本文化っぽい。






事前にシャロンと打ち合わせをして、ルーガを俺の中から引っ張り出すと同時に俺の魂を【万物吸収】で吸収、体を入れ替える作戦を立てたのだ。



つまりは1つの機種の中に2つファイルを作り、それぞれのファイルでSDカードを使い分ける、という感じです。

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