生まれる希望
投稿遅れてすみません。
「うぅ……ん?」
目を開けると、そこには何の変哲もない天井が広がっていて、屋内で寝ているという事は分かった。
起き上がって辺りを見回す。うっすらと見覚えのある空間に、此処がソウガの家だということに納得した。
周囲は真っ暗なので、夜まで寝ていたのだろう。
『……おはようございます。そんな時間帯ではありませんが』
ルシアが声を掛けてきた。
少し機嫌が悪そうだ。
「いま何時『7時過ぎです』……ありがと」
間違いなく不機嫌だな。俺、なんかしたっけ?
寝起きでぼーっとする脳を再稼働させながら、取り敢えず外に出た。
外は松明が所々に置かれていて、意外にも明るかった。
遠くの方で人々が忙しなく動き回っているのを見て、おかしいな? と首を傾げた。
この世界では「暗くなったら寝る時間」というのが普通らしく、7時だろうが周囲が真っ暗だったら大体の人間は床へ就くのだ。
これは魔物は夜が一番活発になる時間帯だかららしい。
「ファル「っわあ!?」……なんかすまん」
扉の真横に立っていたのか声を掛けてきたジャックさんの存在を全く認識出来ずに跳ね上がってしまった。
「じ、ジャックさん!? ……ビックリした」
「驚かせちまったみたいだな。どうだ? 三日ぶりの外の空気は」
「ちょっと体が怠いけど……え? 三日?」
「ああ。全然起きなかったものだから焦ったぞ」
そんなに寝てたのか、俺……。【諸刃の剣】って本当に名前の通りなんだな。
っと、そうじゃなくて。
「他の人達がまだ働いてるのって……」
「集落の復旧だ」
殺された人間の弔いが昨日終わったからな。と言うジャックさんの目元には隈がハッキリと浮き出ていた。恐らく徹夜していたのだろう。
「それで……あの後どうだったの?」
俺が今、一番気になっている事だ。
自覚は全く無いが三日も寝ていたらしい俺は、【諸刃の剣】で活動限界になって倒れてからの記憶がない。
「どの辺から知りたい?」
「出来れば全部」
「お前さんが倒れてるのを発見した辺りから説明するか。あの男に止めを差したのはお前さんだろ?」
グラッと視界が歪んだ。
「大丈夫か?」
倒れかけた俺をジャックさんが支えてくれたのが分かる。体調は万全な筈なのに、膝が笑っていうことを聞かない。
「……今頃、人を殺したんだなって思ったら震えてきちゃった」
あの時は怒りや憎しみで殺す事に躊躇が無かった。それは様々な感情の波に殺人への『恐怖心』が呑まれたからだろう。
殺した事に対して? 大地の断末魔を聞いたから? 死ぬ瞬間の大地の表情を見たから? それは分からない。
怖い。
純粋にそう感じたのは生まれて初めてだ。
「お前さんがやってくれたお陰で、大勢の命が喪われずに済んだんだ。お前さんが気に病む事なんて一つもない」
「……俺じゃない。ルーガが命を失ってまで時間を稼いでくれたお陰だよ……」
半分以上ぬいぐるみとして扱われていたが、それでも一時はこの世界での家族みたいな存在だったのだ。
胸の奥がギュッと締め付けられるように痛む。
「本当、お前さんは頑張ったよ。けどな? 死っていうのは誰にも、どうにもできねぇんだ」
「……分かってる「だが」」
「死は良くも悪くも生きてる人間に何かを遺してる。俺達は、その遺されたものを拾って、糧にしていけば良いんじゃねぇか?」
ジャックさんのその一言を聞いた途端、締め付けられていた胸の痛みが別のものとなって外へ溢れ出た。
涙だ。
松明の灯りに照らされてキラキラと輝いている小粒の涙が、ファルの頬を止めどなく伝っている。
「……あれ? 俺、なんで泣いてんだろ」
しゃくりあげそうになるのを必死で抑えて蹲る。
ぽんぽん、と背中を叩くジャックさんの手が心地よい。
2、30秒後、少し冷静になった俺は無理矢理起き上がり、目尻に残った涙を拭った。
今は別にやることがあるだろう。
「ありがとう、もう大丈夫。それでどうなったの?」
「立ち直りが早いな」
そう笑いながら説明を再開……というか開始した。
【諸刃の剣】を使ったときの反動でエネルギー切れになって意識を失った俺を、ジャックさんがソウガと会った場所まで運んでくれたらしい。
「その時にシャロンとかいう奴が現れてな」
「なんでシャロンが来てんだよ「呼びました?」うわぁぁぁビックリした!」
背後からの声で飛び上がってしまった。……本日二度目である。
「おぉ~、ファルさんの驚く顔。かなりレアなの見ちゃいました?」
嬉しそうなシャロンを見て少し腹が立ったので、軽く蹴ってやった。
「痛い! 出会い頭にそれは酷くないですか!?」
「出会い頭に驚かせたシャロンが悪い」
痛そうに脛を抑えているシャロンは、顔を上げて俺を見た。
「あ、そういえばファルさん。身長戻ったんですね」
「身長?」
戻ったってどういう事?
「ファルさん意識が無かった時、少し大人になってたんですよ」
……言ってる意味が分からないが、まぁ今はスルーしておこう。
「シャロンはなんでこんな所に?」
「それには聞くも涙語るも涙の物語があってですね」
要約すると、いつも通り俺に会いにきたけど俺がいなくて、探してる時に異常な魔力を感知したからこの集落に行ってみると……みたいな感じらしい。
「どこに涙要素があったの?」
「確かにありませんね……。まぁ先程思う存分泣いていたので、とっくに涙は枯れ「見てたの!?」場面が場面だったので失礼ですが、凄く可愛かったですよ」
なんで見てたんだよ!
なんとも言い様のない恥ずかしさに顔が赤くなっていくのが分かった。羞恥心を紛らわせる為に再びシャロンを蹴ったが、二回目という事もあってひらり、と避けられた。
「おっと、待って下さいって。私がこの集落に残ったのはファルさんをおちょくる為じゃありません。ちゃんと理由があるんです」
「アンタは関係の無い事だろ!」
シャロンの言葉をジャックさんが制止させた。
俺に言ったらマズイ事でもあるのだろうか?
「関係はありますよ。というか、その様子だとファルさんには伝えてないみたいですね? いいですかファルさん?」
と、一呼吸置いてから、
「ルーガさん……ですよね? 彼女を生き返らせる事は可能ですよ」
一瞬ポカン、とした表情になってしまった。
「……え? ルーガが生き返る?」
「と言っても正確には「ルーガさんの魂を別の器に移し変える」んですけどね」
「ルーガが生き返る……」
あまりに衝撃的な言葉に思わず反芻してしまった俺は、気が付くとシャロンに迫っていた。
「その方法を教えて!」
「ストップ! 落ち着いてください!」
「まず一つ、死んだ人間を生き返らせる事なんてできません」
「でも今「生き返らせる事ができないだけです」……どういうこと?」
シャロンの言葉を一切理解できていない俺は、ただただ首を傾げるのみである。
「肉体を元に戻すなんて、時間を戻さない限り無理です。形あるものはいずれ壊れます。しかし形が無ければ?」
「……魂?」
「そうです。ルーガさんの魂を別の人に移す事で、ルーガさんの意識、記憶を生き返らせる事ができるんです」
まぁ欠点が凄く多いですけどね。
「まず一つ、ルーガさんの魂です」
魂というのは生物には見る事が不可能(当然だが)なので、『ルーガの魂』というのを判別するには教会の様な魂に関係した仕事をしている人間ではないと不可能な点。
「そしてもう1つが魂を移す器」
魂を直接別の、生きている生物の肉体に移す事で自我や記憶を引き継ぐ事ができるのだそう。
「つまりは憑依なんです」
「魂を移された人は?」
「相性にもよりますが、良くて二重人格。最悪はどちらかの魂に精神を乗っ取られるか、両方の魂が消滅します」
ジャックさんが制止した理由が分かった気がする。
「俺は反対だぞ」
「あくまで私はそんな方法がありますよ、と言っただけですから」
元の体の人の立場と、その方法がかなりリスキーなのが反対の理由だろう。
そんな時、俺の中で1つの考えが浮上した。
(ルシア、【神察眼】で魂を見る事はできる?)
『可能です……まさか御主人様』
「魂を見つければいいんだよね?」
「へ? はい、そうですけど」
「俺に考えがあるんだ」
オマケ
少し機嫌が悪そうだ。
『別に私の警告をスルーしたからとか、御主人様が自分の身の危険をを顧みていなかったからとか、あの時に私を頼らなかったとか気にしてなんていませんよ、はい』
「……」
今度1つだけ何でも言うことを聞く、という約束で許してもらったファルであった。
2、30秒後、少し冷静になった俺は無理矢理起き上が(ry
想像してください。精神年齢二十代の元男子が、40代のおっさんに慰められる……誰だって冷静になりますよ。
「ルーガさんの魂を別の人に移す事で、ルーガさんの意識、記憶を生き返らせる事ができるんです」
つまりはSDカードを同じ機種で2つ使って、間違えて片方に上書きしてしまってもう片方のデータが消える。
こんな感じです。