仇となった優しさ
今回も短めです。
「一体これは……」
ソウガさんの呟きで我にかえった私。
辺り一面を火の海にしているのは、変な筒を持ってるあの人でしょうか。足元には倒れて動かない人が……。
「……今は考えている時間は無さそうですね」
「私があの人を足止めしますから他の……生きてる人を遠くにお願いします」
「無理はしないで下さいね」
走っていくソウガさんを見送った私は前に出た。
「お、次は女か? さっさと逃げりゃあ良いもんをよ、まぁ逃がさねぇけど」
私の存在に気付いた男の人は、そう言って右手に持っている黒い筒を私に向けて、『何か』を打ち出した。
的確に私の心臓に向かって飛んできた小さな塊を剣で弾いた私は、念のため【五感強化】を発動させておいて正解だったなぁ、と胸を撫で下ろして周囲を暗闇に染めた。
【真の暗闇】という、私の技能です。
「うおっ! 何だっ?」
突然目の前が真っ暗になって戸惑った様子の大地を見て、ゆっくりと目線を下へと落とした。
……出会ってまだ20秒くらいしか経ってませんが、この人が私達の敵ということは分かりました。
地に伏している集落の人々を見下ろした後、ルーガはキッと大地に向き直る。
実の親を知らずオーガに育てられ、鍛えられたルーガはこれまでにも無数の生物の死を見てきた。
時に自身の身を守るため……また生きていく為に魔物や魔獣、時には吸血鬼のような亜人族をも殺めた事がある ルーガは、『生物の死は全て同じもの』だと思っている。
人も魔物も、形は違えど一つの命だ。自分が生きる為に他の命を奪って食らう、自分の身を守るために襲ってきた相手を殺す……無益な殺生が存在しないのが弱肉強食の世界。ルーガはそう考えている。
だからこそルーガは、突然現れて無益な殺生を楽しむ目の前の人物を許されざる……排除すべき敵と判断したのだ。
「……足止めって言っちゃいましたけど、ちょっと無理かもしれないですね」
光を含めた全てを遮断する『黒』に視界を塗り潰されている大地に向かって悠然と歩み寄るルーガ。
直後、獣人である自分自身の第六感がその場から離れるように命じるのとルーガの頬に銃弾が掠ったのはほぼ同時だった。
乱射したのだ。手に持つサブマシンガンを。
「うらぁぁぁ!」
避ける事自体ルーガには造作もないことだが、何処へ飛んでいくかも分からない銃弾を避けつつ大地の元へと行くのは至難の業。ルーガも攻められずにいる。
魔法を使う事を苦手とするルーガは大地へ攻撃できず、はたまた銃弾を見切るルーガに対して闇雲に乱射している大地の攻撃は当たらない。
頓着状態なのである。
(それでも皆さんが逃げる時間は稼げたでしょうか)
このままソウガが到着するまで待ってても良いか、と思っていたルーガの視界に、
「ひっぐ、お母ざん……」
(子供!?)
しゃくりあげながら、よろよろと大地の元へと歩いていく子供が映った。
ソウガが見つけ損ねたのかはぐれてしまったのか、今となってはどうだっていい。ルーガは【潜影瞬移】で無防備な子供の元まで向かい、遠くへ避難するように言った。
「いいですか? 少しの間目が見えないですが、こっちに真っ直ぐ走って逃げてくださいね」
「だ、誰……?」
「ルーガお姉ちゃんです。さ、行って下さい!」
子供が小さく頷いて走っていくのを見届けたルーガは再び大地へと向き直ろうとして――
ガァン!
「うっ……ぁ?」
重たい音と共にルーガの体がはねる。直後二、三発と鳴り響く銃声の度に血飛沫が舞い、【真の暗闇】が消失した。
晴れた視界の先には、武器をリボルバー拳銃に変えた大地が立っていた。
「声を出してくれたお陰で、お前の位置を把握できたぜ。ガキに感謝だな、ははっ!」
カチャッと、銃口を走る子供に向ける大地。そしてゆっくりと子供に狙いを定めて引き金に指をかけた。
「させま……せん!」
焼けるような痛みを歯を食いしばって耐え、身を呈して銃弾から子供を守った。
「かっ、は……くぅ」
「ん、お前から先に殺してほしいのか?」
腹、胸と順番に鉛の塊で貫かれ、全身血塗れの満身創痍になりながらも両手を広げて立つ。
痛みよりも寒気が襲い始めたルーガの体は、最早立っているのが精一杯だ。
「全弾受けてまだ立てるか! こりゃすげぇ! ま、次で終わりだけどな」
そう言って弾を一つだけシリンダーに籠めてルーガを狙い……。
「ばーん」
躊躇いなくルーガの心臓を撃ち抜いた。
致命傷を負い、崩れ落ちるルーガが朦朧とした意識の中で見たものは、呆然とした表情で自身を見ていたファルだった。
オマケ
【五感強化】
ファルの【五感高速化】の亜種。
【真の暗闇】
指定した範囲で光源含める全ての『見る』事が不可能となる(使用者は例外)。
光の存在しない場所では念じるだけで【潜影瞬移】が発動する。
元ネタは……言わずもがなです。
次回、色々と発散します。