遺跡の宝『エクセルシア』
遅くなってすいません・・・一回書いたやつが消えてしまいまして、書き直したらこんな時間となってしまいました。
お世辞にも広くはない遺跡を前に、俺は入ろうか入るまいか迷っていた。
だって遺跡だぜ? 小さくてもダンジョンって事もあるでしょ?
ラノベだと高い確率で化け物が出たり凄い罠とか張り巡らしてあるぞ?ましては今の俺の装備、ナイフみたいな鋭い木の皮と、俺が今身に纏ってる布みたいな葉っぱだけだぜ? こんな装備で生きて帰れる自信なんて俺の中には微塵も存在しないからな?
……でも、もしかしたら罠とか無いただの遺跡とかだったりして?
と、二択を前に右往左往すること数分……。
結局『一回入ってみて身の危険を感じたら即撤退』というヒットアンドアウェイの戦法に出た。
「さてと、入るかな『――――!――!』誰……も、いないな」
先程から聞こえる謎の声(音?)につい反応してしまう。何処から聞こえるのか、全く分からないのだ。
まぁ、何かが聞こえるってだけで、俺自身に実害はゼロだからあまり気にはしていない。
「……外と中の広さに違いがあるってどういう事だ?」
小屋程度のサイズだった遺跡だったが、中に入ると其処にはバスが十数台ほど収納出来そうな空間が広がっていた。
そうだな、この遺跡を倉庫に例えよう。その倉庫に入った筈なのに中に広がる空間は体育館。上手く説明出来ないが……まぁ、そういうことだ。
しかし、思ったより中はがらんどうだな。
遺跡の内部は、自身を支える柱と奥に見える扉以外、これといった特徴は無かった。
残念半分安堵半分の微妙な表情で、一歩一歩確かめながら進んでいく。
いつ何か出るかビクビクしながら進み、一番奥にあった扉の前まで来た。いくらか緊張は解れたが、未だに肩の力が抜けない。
『―――!?――――――!』
……しつこい程に聞こえてくる声だが、俺は無視をする事にした。
警告って訳でもないし、本当にただ聞こえるだけなんだよな。
もしかしたら俺が事故(?)で死んでこの世界に転生した時の影響で、この声みたいな音が聞こえるのかもしれないし、単純に俺の空耳って事もありえる。
ま、今のところは様子見だな。
一人でそんなやり取りをしていると、目の前の扉がひとりでにゴゴゴ……と、動き出した。
突然扉が開きだしたので、思わずビクッ、と反応してしまった。
「うおっ、ビックリした……。勝手に開いたぞ」
センサーなんて物すら無さそうな石の扉、どういう原理で動いているのか凄い気になるが、絶対俺には分からないし、知ったとしてもそこまで必要になることは無さそうだしな。
扉の先にある場所へと行こうとして、ふとある考えが浮かんだ。
あれ?これって奥に行ったら閉じ込められる罠だったり?もしそうだったら俺、アウトじゃね?
暫く身構えていたが、特にこれといった変化は起きなかった。どうせ本当に罠だったとしたら既に手遅れだ、ということもあり、部屋へと足を踏み込む。
扉の先は小さな部屋だった。
前の広い空間に比べたら、何の変哲もない普通の小部屋。しかし、部屋の中央には明らかに『遺跡の宝』と言えるだろう物体が存在していた。
部屋の中央には『剣』が刺さっていた。巧みな意匠が施されていて、中心には紋章の様なものが彫られている宝石が埋まっている。誰が見てもこの遺跡の宝と言うだろう美しさが剣にはあった。
そして俺は、そんな剣を前にしてある事が頭に浮かんだ。
「これって、抜こうとしたらダメージ受けるヤツだろ」
RPGを噛んでる俺は分かるぞ、なんか特殊な力で選ばれし者しか触る事が出来ないとかいうやつだよ。だってこんなにあからさまに刺さってるんだぜ? 絶対なんかあるだろ。
……でも、そういうトラップだから触さわれない、と見せかけて実は何もありませんでした、とかだったりして?
いや、今回は迷わないからな? さっきと同じで『一回触ってみて身の危険を感じたら即撤退』の戦法でいこう。
ゴクッ、と生唾を飲みながら剣に手を触れた。すると――。
触れた途端ポロッ、と剣が地面から呆気ない程簡単に抜け、カランと音を立てて倒れた。
『「………………え?」』
つい口から洩もれてしまった呟きが、誰かの声と重なる。
抜けた剣に注目していた視線を声のした方向に向ける。そこにはふわふわとしたワンピースの様な服を着ていて、剣に彫られているものと同じ紋章の首飾りを下げている美しい女性がいた。
女性は、目を点にして俺を見ている。多分俺も同じ表情で彼女を見てるだろう。
いやだってね? 突然知らない女の人が目の前に現れたんだぜ? 驚かない人の方が変だって。
『―――? ―――――?』
「あ、貴方ハ誰デスカ?」
ほぼ同時に二人が喋る。
だが、知らない言葉なので言ってる事が理解できない。やっぱり異世界だから言語も違うんだな。
ついカタカナっぽくなってしまった俺の質問に対して、頭にハテナマークを浮かべている女性だったが、思い出した様に俺の目を覗き始めた。
突然、背中にゾクッとした感覚が襲った。
「ひゃっ!?」
ゾクゾクとした感覚につい声を上げてしまったが、この感覚の原因はすぐに分かった。
『あ、申し訳御座いません。言語を理解するのに手っ取り早い方法でしたので……不快な思いをさせてしまいました』
ついさっきまで言葉が通じなかった二人だったが、女性の方が突然流暢な日本語で喋りだした。
そんな光景に唖然としている俺だったが、女性の次の言葉に立ち尽くす事になる。
『私の名は『エクセルシア』。私を、この場から抜いて束縛から解放して頂き、感謝の言葉しか浮かびません。貴方様は今からこの剣・・・つまり私の持ち主です【御主人様】』
時は遡る。
意思を持つ剣『エクセルシア』は、自身の主となる者を待っていた。
剣は、人々が神と呼ぶ人物によって創られた、所謂『最高傑作』だった。神は自身の創った剣を、とある場所へと封印した。
あらゆる者を拒み、選ばれし者のみが通る事を許されると言われる【魔の樹海】、そこの最深部に鎮座する【神の遺跡】と呼ばれるダンジョンの最奥に、剣を刺したのだ。
『お主は長い年月をこの地で過ごす事になるじゃろう。しかしこの遺跡の試練を越え、お主という剣を引き抜く存在が現れたら、自身の力をその主人に使ってやると良い』
どこか軽い、しかしながらしっかりとした口調で、神と呼ばれる老人は剣にそう語った。
それが、私の中に存在する最初の記憶だった。
私がこの地に封印されて1000年……正確には1045年と105日。様々な冒険者がこの遺跡ダンジョンに挑み、罠によって死に絶えるのを見てきた。
触れると強力な雷の属性魔法が発動する扉、一切魔法を使用する事の出来ない部屋、足場全てが生物を感知して発動する多種多様な属性魔法の罠、人の欲望を読み取って開閉する、私の部屋へ続く扉。そして封印されている私自身に掛けられた、私にも分からないとある条件を満たさなければ触れた途端、瞬時に灰となる呪魔法……etc.。
……正直に言います、私を創った方は鬼です。いえ、別に鬼人族という訳ではありません。性格がえげつないという事です。
考えてもみてください。私という剣ごときに、確実に殺す目的で張り巡らされた罠……絶対攻略させる気なんてありませんよ。
……と、話が逸れてしまいましたね。
私、ある程度の距離ならばこの建物の壁を透過して見通す事ができるのですが、現在この遺跡の前に、冒険者と言うには異端な人物が立っているのです。
その人物は、少年とも少女とも言えない中性的な顔立ちで、角と尻尾が生えています。恐らく龍人でしょう。
亜人、魔人が訪れる事もあるので、龍人がやって来たということ自体はさほど驚く事ではありません。
しかし、龍人は子供だったのです。この遺跡の存在する場所は、強力な魔獣や魔物が徘徊し、生身の生物ならば死に絶えてしまう程の魔力が漂う樹海です。龍人とはいえ子供、普通は生きてはいません。
更に言うならば、龍人は殆ど布を纏っているだけで裸といっても良いほどの軽装です。
そんな龍人の子供は、遺跡の扉に手を伸ばしました。そして、私の想像していた予想を裏切る事態が起こりました。
罠が発動する事無く、龍人は扉を開いてみせたのです。こう思うのはどうかと思いますが、扉には生物が炭化するような火力の雷魔法が発動しているのに、何故無傷なのでしょうか?
その後も、罠の足場を一歩一歩平然と進む龍人。罠は、発動したと同時に何かの力で消えている様でした。
龍人は、私の封印されている部屋へ続く扉の前にたどり着きました。その時点で既に、今までの冒険者には行けなかった場所まで来ています。
龍人の前にある扉は、欲望を感知して開閉する魔法が施されているのですが、少しでもこの遺跡の宝に対する欲がその人物から見られた場合、何があっても決して開く事は無いのです。
しかし、龍人がその扉の前に立った瞬時、さも当然とばかりに扉が開きだしました。
つまり、この龍人には欲などの概念が一切無いということです。
龍人が私の封印されている部屋にたどり着きました。正直、この部屋までやって来る生物がいるとは思いませんでした。
もしかしたら、と私は期待を抱き始めました。あの龍人なら私の封印を解き、この地から解き放ってくれるかもしれない……と。
龍人は私に手を伸ばしました。これで、神にしか知らない私に触れられる条件を満たせなければ、龍人は呪魔法によって灰となって消えてしまいます。
私は、自身がこの遺跡から解放されたい。そう思うのと同時に、この龍人には死んでほしくない、という気持ちが私の中で駈け巡っています。
しかし、そんな私の内情は、封印されている今の私にはどうすることも出来ません。
龍人が私に触れました。すると――。
長い年月決して抜ける事の無かった私は、龍人が触れた瞬間、面白いくらい簡単に地面から抜け落ちました。
『「………………え?」』
呆気ない程簡単に抜けた私自身に放った呟きが、龍人の子供と重なりました。
龍人は、此方こちらを見ました。目を点にして私を見ています。 恐らく私も同じ様に龍人を見ているでしょう。
『って、え? 私の声が聞こえてる……?』
「――、―――――?」
私と龍人、同時に喋ってしまったので内容は分かりませんが……言語が違うみたいです。
ではなく、え? どうして私、普通に声が出せるのですか?
私の声は誰にも聞こえない筈……。そう思った私は、驚きのあまり唖然となりました。
先程は大して意識していなかったのですが、私は人の姿となっているのです。それも、剣が存在しているにもかかわらず、です。
恐らく剣が本体で、今の私は分身体なのでしょう。
(すいません、理解が追い付いていないです……。取り敢えず私の封印を解いて下さったこの方の事を知らなければ)
そう思った私は、封印されていた時に会得した『解析』を使用、言語を習得しました。
解析は、対象の能力や一部の記憶を読み取る事が出来るのです。
「ひゃっ!?」
……解析を使用した瞬間飛び上がった龍人を見て、少し可愛いと思った私は悪くないと思う。
どうやら解析は相手に何かしらの影響があるみたいです。
『あ、申し訳御座いません。言語を理解するのに手っ取り早い方法でしたので……不快な思いをさせてしまいました』
そう語りながら、私は歓喜にうちひしがれていた。この狭い遺跡から解放して下さった龍人が持ち主になることに対して……。
そして……この言葉を使う事を、何度心待ちにした事か。
『私の名は『エクセルシア』私を、この場から抜いて束縛から解放して頂き、感謝の言葉しか浮かびません。貴方様は今からこの剣……つまり私の持ち主です【御主人様】』
私はエクセルシア。この龍人の剣となる者。
文章中の不明な部分等は次回説明する予定です。