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龍人転生~苦労の絶えない異世界道中~  作者: 白玉蛙
三章 デイペッシュ
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悪夢の始まり

今回はかなり短いです。

「ルシア! あの集落まで転移してくれ!」


『……集落を中心に半径20キロメートルを結界で覆われています。魔法の類いを無効化させる『魔絶空間(アンチマジックエリア)』と思われます。結界の外までなら転移可能です』


「頼む! 『御意』」


  ルシアの言葉の直後、視界が一瞬暗転して景色が移り変わった。

  平原へと降り立った瞬間【電光石火】で一気に駆け出した。

  銃というものを知らないソウガ達があんなヤバい奴と出くわしたら大変じゃあ済まないだろう。


  さっき無理をしたせいで足の感覚が殆ど残っていない。


(持ってくれよ、俺の体!)



  しかし、そんなファルの願いも虚しく、数分後には足への疲労がピークを迎えてガクッと崩れた。

  いくら人間より強い肉体を持つ龍人とはいえ、子供のファルには【電光石火】は負担が大きすぎるのだ。

  ましてや背中に深い傷を負っているファルは、普通だったら立っていられない状態で、そんな中身体を酷使しているので心身共にボロボロなのである。


  ……こりゃ走ってくのは無理そうだな。


  ガクガクと膝が笑っているが動けない事はない。と震える体に鞭打って歩く。

  遠くで煙がもくもくと上がっているのが見える。体が悲鳴を上げているが、構わず歩いていると、


「おいっ大丈夫か!?」


「……あ、ジャックさん」


  声のする方を見ると、ジャックさんが近寄ってくるのが見えた。


「連れ戻すんだったら抵抗するけど」


「そんなつもりはない。まぁ口実ではお前さんを殺すってなってるんだけどな」


  そう言ってヒョイ、と俺を持ち上げて西を目指して走り出すジャックさん。


「向こうに用があるんだろ? そんな体じゃ暫くは動けないだろうし、王には行方不明として報告しておいてやる」


「……取り敢えず急いでほしい」


  歳……というか精神年齢的に似合わないが、今は言葉に甘えて背中に身を預ける事にした。


「よし、飛ばすぞ」


  俺を背負った状態で【電光石火】を発動させ、ギュンギュンと加速する。気持ち遅めなのは俺を背負ってるからだろう。


「それで、どうしてこの集落まで……って、聞くまでも無いか」


「少し前に世話になった人が住んでてね。やっぱ無理はするものじゃないや」


  肉体の限界じゃなかった事が、唯一の救いかな。


『低周波を使って肉体の疲労を回復させます』


  力の入らなかった足にふわふわした何かがまとわりつく感覚と共に足の痛みが和らいだ。

  ……低周波ってなんでもできるんだな。




「お前さんの戦いを見てたが、ありゃ何だ?」


「何だってなにが?」


「どう見ても人が出せる速さじゃ無かっただろ【電光石火】。今だってお前さんが力尽きなきゃ追い付く事なんて無理だったしな」


「う~ん……俺が人間じゃないから?」


  『変化(チェンジ)』を発動させて顔をジャックさんの前に出した。

  俺の頭に生える角を見たジャックさんは、驚きのあまり立ち止まってしまった。


「えと……出来れば進んでほしいんだけど」


「ッ、ああすまん。驚いちまってつい」


  再び走り始めたジャックさんは「予想はしてたが……」とブツブツ独り言を喋っていた。


「なんか俺って龍人(ドラゴニュート)らしくてさ」


「それであんなに強かったのか……」


  それから暫く無言の時間が続くこと数分。再びジャックさんが喋り始めた。


「お前さんはどうして、その歳で冒険者なんかになろうとしたんだ?」


「別に深い理由なんて無いよ。やってみたいな、と思ったからなっただけ」


「実際に死ぬかもしれない仕事なのにか?」


「危険だからやらない、とかそういうのはあまり好きじゃないんだ。俺は……あ、見えてきた」


  二キロ程先から凄い量の黒い煙が、まるで噴火の如き勢いで上がっている。十中八九集落だろう。


「……質問の答えは後で聞く事にするぞ」


  ジャックさんも前方の光景を見て状況を察し、真面目な雰囲気でスピードを上げた。





  集落に近付くにつれて煙の量は増えていき、物が焼ける臭いが鼻腔を刺激する。

  遠くで薄らと見えるのは炎に包まれた集落と、


「ソウガ!」


「ふ、ファルさん!? どうして此処に……」


  集落に住む人々を先導するソウガだった。

  全員が食料と最小限の道具だけしか持っておらず、暗い表情で移動している。


「大体の状況は理解してるつもりだけど、何がどうなったかを教えて」


「その雰囲気だと、あの男の事は知っているみたいで「アイツだ……アイツのせいで!」落ち着いてください」


  俺達の会話を聞いていた人の一人が、ソウガの言葉を遮って叫び出した。

  ソウガも男性を冷静に宥めてはいるが、その瞳は強い怒りで燃えていた。


「アイツのせいで娘は……娘は死んだんだ!」


「ッ……!」


  男性の悲痛な叫びを聞いたジャックさんが、悔しそうに目を伏せて俯いた。


「今は怒りを抑えて下さ「できるわけないだろう!」……」


「ソウガさんも見ただろう? アイツが人を、同胞を焼いた時の顔を……」


  笑ってたんだよ、楽しそうな顔で。と言う男性の顔は怒りや悔しさ、そして悲しみで歪んでいる。


「きっと娘の事も楽しみながら……うわぁぁぁ!」


  その場で絶叫して蹲る男性。それを見たジャックさんは俺に話し掛けてきた。


「……なぁファル」


「行ってくる」


「ファル!」


「あの時、アイツを()がしたのは俺の責任だ。ケジメは俺が「落ち着きなさいと言ってます」……」


  そんな底冷えするようなソウガの声で正気に戻った俺達。ソウガの氷の様に冷たい表情に頭が冷えた。


「今、ルーガさんがあの男を相手に時間稼ぎをしてくれています。あの男は得体の知れない武器を使ってましたが、ルーガさんなら大丈夫でしょう」


「……分かった、それとありがとう。行ってくる」


  多少は回復した足に、極力負担を掛けないよう【電光石火】を使わずに駆け出した俺。


  あの野郎に、今までやってきた事を後悔させて……いや、償わせてやる。





  あっという間にその場から立ち去ったファルを追う為に【電光石火】を再度発動させたジャックは、「待ってください」というソウガの声で立ち止まった。


「その紋章はアシュトルスのものですね」


「ああ」


「何故ファルさんと行動を共にしているかは聞きません。しかし一つだけ確認させて下さい」




「貴方は敵と味方どっちですか?」







  集落に到着した。


  ……そこは地獄だった。道には人がバタバタと倒れていて、頭の一部が吹き飛んでいる者や苦悶の表情で息絶えている者、炎に焼かれた者……漂ってくる肉の焼ける臭いが鼻腔を突き抜けて吐き気が込み上げてくる。


  もう少し歩けば集落の中心、大地とルーガが戦っている場所だ。俺は自然とスピードが上がっていった。

  バッ、と開けた場所……集落の中心に到着した俺は――、




「嘘……だろ」


  力が抜けたように膝から崩れ落ちるルーガと、それを見てゲラゲラ笑っている大地を見た。

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