狂人『新嶋 大地』
姿を表した男は、一言で表現するなら『不良』だ。
シャロンの書いた絵と姿形は殆ど一致しており、革ジャンにサングラスというヤクザにも似た服装をしているが、背格好は高校生辺りなので不良の方が雰囲気的には合っていると思う。
あれだ、グレた高校生が不良がどういうものかを知らなかったから見た目をそれっぽくしたけど、結果的にヤクザっぽくなっちゃった感じだ。学生時代に似たような奴を見た事がある。
『こいつは驚いた、まさか銃弾を弾くかよ!』
日本語を喋る男は、そう言いながらくるくると拳銃を回している。
……なんつー銃使ってんだアイツ。
『あの男が異世界転移者で、『「新嶋 大地』という名です』
すかさずルシアが説明をしてくれた。
名前:新嶋 大地
技能
コモン:【身体能力強化】【火属性攻撃&耐性強化】【解析】……etc.
ユニーク:【兵器創造】
称号:【殺戮者】【主と従『隷』】
名前からして強化する感じの技能を持っている男……大地は、シャロンの言った通り【兵器創造】を持っていた。
そして明らかヤバそうな称号【殺戮者】。
『その名の通り同種同族を大量に殺める事で入手できる称号です。技能は【殺戮快楽】、【狂人】の重複です』
効果は知らないが、とてつもなく危険な技能というのは理解した。
しかしこの【主と従『隷』】とはなんなのだろうか? 名前からして俺とルシアの【主と従】の上下位互角なのだろうが。
『我々の【主と従】に【生権剥奪】という技能が追加された称号ですね。あの男は『従』の方です』
……この人物は物騒な称号しか持ってないのか?
従の方、ということは主の方は王(笑)だろう。しかし【生権剥奪】とか、この人も王(笑)の言いなりだったり?
『おい王! ちょっくら暴れるから離れてな』
「言われなくても分かっておる! 貴様はとっとと余を運べ!」
「は……はっ(何がどうなってんだ一体)」
唯一1人だけ状況を理解できていないジャックさんが言われるがまま王(笑)を担いで扉の近くまで避難した。
大地の口調にたいして王(笑)は憤らずに反応しているので、別に言いなりという訳でも無さそうだ。というか自分で歩けよ、豚。
いつの間にか戦う感じになっているが、正直戦いたくない。
「おい、『この言葉が分かるか?』」
日本語で対話を試みる。すると眼を見開いて大地と王(笑)が驚いた表情になった。
『ッ! へぇ、お前もあっちの人間だったのか』
「き、貴様! 何故ガイアと同じ言葉を使える!」
ガイア? ……あぁ、大地だからガイアか。安直な名前だな。
『……』
ルシアが何か言いたそうだが、気にしない事にした。
『お前、あっちから来た割には随分と小せぇじゃねぇか?』
「小っさ……『小っさくて悪かったな』」
『まぁ、お前があっちから来た人間だろうがガキだろうが、殺せれば問題ねぇ』
言うが早いか、何もない場所からアサルトライフルを発現させて乱射してきた。
連射で撃たれたら、流石の俺でも全て弾くのは無理なので、回避に徹する。
というか剣vs銃じゃあ圧倒的に不利じゃね? と思いながら距離を詰める。
『おお早いねぇ! 八九式のフルオートを避けるか!』
ちょっ、この人……【電光石火】でスピードを上げた俺に反応してるぞ!?
『【身体能力強化】と【狂人】の効果で御主人様とほぼ同等の速さで行動しています』
マジすか。銃弾の速度がそこまで早くないのが救いだけど、このままじゃ俺、攻撃できないからジリ貧じゃね?
(ルシア、なんか攻撃魔法を頼む)
『御意』
瞬時に雷撃が大地を襲う……が、確かに直撃したのだが殆どダメージになってない様子だった。
『はっは、効かねぇな!』
『結界……ではない様子です』
直後に全ての属性魔法をルシアが放ったが、直撃したにも関わらず服にすら傷一つ付いていない。
『……成る程、【兵器創造】は相当厄介な技能ですね』
(えっと、説明お願い)
『創造したんです、『全属性に対して高い耐性を持つ装備』を。恐らく『兵器』ならばどんなものでも創造可能なのでしょう』
えぇー……それアリですか?
つまりはあれでしょ? 兵器だったら核だってゼロから作れる……そういう事か。
「おま……『お前、数年前に核を使ったな?』」
『……なんだよ突然、使っちゃいけねぇか? ん?』
簡単に終わったから爽快だったぜ? ありゃあ。と歪んだ顔で嗤う大地。
「……殺戮者、か」
『あ? 日本語で喋っ!?』
全身に流す電気を、足に集中させて一気に距離を詰める。
一瞬足の感覚が消えたが、今までの【電光石火】よりも早く動けたようだ。大地が反応する前に攻撃する事ができた。
「……『俺は、お前を罰したりする権利なんてねぇ。けど、人を殺して楽しむような輩は潰す』」
俺が生まれるより遥か昔の事なので、俺ごときがほざくのもどうかと思うが、核なんてものを撃ち込んで、人だけじゃなく自然も殺して喜ぶようなコイツを、許す事ができない。
『痛ぇな……別にいいだろ? たかが数百数千なんて命、寧ろ俺に殺されて光栄に思ってるんじゃねぇの? はははっ!』
既に精神に異常をきたしているのだろう。殺しで快楽を求めているこの男は、もう壊れている。
『今日は俺の趣味が待ってるから、今度遊んでやるよ! 死ぬ時の顔を練習しておけよ!』
それだけ言い残して転移した大地。
「ガイア! ちっ、何故いつも自分の事を優先させるのだあやつは!」
腹立たしげに言う豚。
それよりも、アイツが去り際に言ったセリフに引っ掛かりを感じる。
「ねぇ、アイツが言ってた趣味ってのは何?」
「ね、ねぇ!? 貴様! 王であるこの余に対して無礼で「そんな事どうだっていい」貴様は処刑だ!」
尚もギャーギャー喚く豚。……正直ウザイので、少し脅す事にする。
胸ぐらを掴んで目の前まで引き寄せ、ひと昔前を思い出しながら恐喝を始める。
「……王? んなこと今は関係無いんだよ。いいから黙って質問に答えろや」
「ひっ……き、きき貴様、余にこんな仕打ち、後悔するこ「二度も言わせんな」し、集落潰しの事だ」
「集落潰し?」
豚が怯えた表情でようやく口にした。
「そ、そうである。余の目から逃れようと近くの集落へ逃げ込んだ愚かで低俗な亜人を集落ごと消すのだ。数日前に西の集落で白狼と黒猫の亜人、それに龍人が住み着いているとの報告を受けぐへっ!」
西の……集落?
これまでに無く悪い予感を感じた。西の集落といえばソウガがいた場所。ルーガも西の方角へ進んでいったので、ということは……。
「二人が!?」
誤って手を離してしまい床に転がった豚を無視して走り出した俺。
間に合え、嫌な予感が現実となる前に。
一体何が起こってんだ!?
ジャックはファルと男の攻防を見て……いや、自身が理解できない言語での二人のやり取りを見て混乱していた。
男……ガイアの存在は前々から知っていた。『王の影の側近』と呼ばれ、王の合図と同時に小さな黒い筒で相手の胸を撃ち抜く存在。
今まで声はおろか姿すら見たことの無かったジャックは大地の姿に驚き、二人の動きに戦慄した。
【電光石火】を使っているのだろうファルの圧倒的スピードと、それに難なく対応しているガイア。
体に電気の負荷を掛けて身体能力を底上げする【電光石火】はジャックも使用できるが、それによって動けるスピードは人によって違うのだ。
……ファルのスピードは『異常』の一言に尽きる。
【身体能力強化】を使っているにもかかわらずファルの姿を線でしか認識できないのた。
逃げようと思えばすぐに逃げれた筈、そう思いながら必死に二人の影を追っていると、ガイアが笑い声と共に転移魔法でこの場から去った。逃げたのだと思ったがどうやら違うようで、ファルが先程から怒鳴っている王に近寄った。
「ねぇ、アイツが言ってた趣味ってのは何?」
「ね、ねぇ!? 貴様! 王であるこの余に対して無礼で「そんな事どうだっていい」貴様は処刑だ!」
瞬間、ファルが王の胸ぐらを掴んで強引に引き寄せた。そして今までとはまるで別人のように感情の消えた顔で王に凄んだ。
「……王? んなこと今は関係無いんだよ。いいから黙って質問に答えろや」
ファルの底冷えするような声音に思わず冷や汗が首もとを伝つたう。
ある程度の修羅場を抜けてきたジャックでも息を飲む迫力、とても人間に、ましてや子供にできることでは無いだろう。
「ひっ……き、きき貴様、余にこんな仕打ち、後悔するこ「二度も言わせんな」し、集落潰しの事だ」
その後の王の言葉でファルの顔に焦りの表情が見てとれた。そして王を掴んでいた手を離して部屋を出た。
「あっ、あの子供を捕らえて殺せ!」
「(丁度いい。ファルを追う口実ができたな)はっ」
ファルを殺すという口実のもと、ジャックは部屋を出た。
ほとんど同時刻
「今日はありがとうございます。お陰で大量に採れました」
「いえいえ~私こそお世話になってますし、これくらいは当然ですよ」
籠一杯の野菜と仕留めた牛豚を担いだソウガとルーガが、集落をソウガの家に向かって歩いていた。
ファルやオーガ、リアやベルクと別れたルーガは来た道を戻り、ソウガのいる集落で数日世話となっているのだ。
今日は朝一番で集落の外へ食材集めに行き、大量の食材を確保した二人……いや、ルーガは、少し遅めの昼食を楽しみにしていた。
「牛豚って美味しいんですよね~。今日は運が良かったです!」
「本当ですね。でもこの量は流石に食べきれないので、他の皆さんにお裾分けしなきゃいけませ……、あれは……」
前方、集落の中心から物凄い量の煙が上がっているのを確認した二人。
直後にただならぬ気配を感じ、食材を置いて駆け出した。
『……っとぉ、到着。此処がその集落か』
集落の中心に転移した大地は、なんだなんだと集まってきた人々を見渡して舌なめずりをした。
『さっきはあのガキを殺やり損ねたが、まぁいい』
とっとと掃除を始めますか。村の住民が逃げられないように結界を張り、創造した火炎放射機とサブマシンガンの銃口を人々に向ける。
悪夢の始まりだ。
オマケ
……なんつー銃使ってんだアイツ。
M500は拳銃の中では最強の威力を誇っていて、撃った衝撃で掌の皮が剥けたり骨にヒビが入ったりする……らしいです、本物は。
【殺戮快楽】、【狂人】
前者は同族を殺めた時に快楽を得る、という技能。
後者は身体能力が劇的に上昇するが、その名の通り精神が不安定になる技能。
「おま……『お前(ry』」
日本語に言い直したんだと思います。
ひと昔前を思い出しながら恐喝を始める。
前世ではファルも荒れていた時期がありました。
中学生の頃に喧嘩を売ってきた高校生の腕をへし折る程度には強かったみたいです。
銃等の兵器は作者の好きな物を出しているんですが、時々マニアックな物も出てきますので、知っている方も知らない方も生暖かい目で見守っていて下さい。
次回からかなりシリアスな展開になりますので、苦手な方は注意です。