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異世界転移者

「……とまぁそんな感じで、良くも悪くも注目されている場所なんですよ此処は」


「……ベルクから聞いた話よりも酷いんだな」


  次の日、椅子に座って夢の世界に旅立っていたシャロンを起こして、この国について色々と聞いてみた。

  起きた瞬間「もう一度録映玉を試させて下さい!」と迫られたが、後で好きなだけ試せばいいと言って納得させた。

  そういえば、今更なのだが俺とシャロンの周りには【音絶空間(アンチサウンドエリア)】という魔法が掛かっていて、周囲からは俺達の声が聞こえないらしい。




  昨日の晩、名称不明の男性が俺を王国で働くよう(何の仕事かは知らないが)勧誘してきたのを断った際、何故か安心した様子だったのを不思議に思ったので、記者を自称している程だからそれなりに情報を持っているだろうシャロンに聞いてみたという訳なのだが、


  シャロン曰く「普通だったら今頃存在していない国」らしい。

  前の王をクーデターで殺して王に、そして国名を『アシュトルス』から『人族国家デイペッシュ』に変えた、という所まではベルクから聞いた話だったが、そこからが酷い。

  馬鹿みたいに高い税と上層部の人間だけが甘い汁を啜る法律、自身のやり方に意見した人物は誰であろうと処刑という王……。

  ……なんだろう、某独裁者様を思い出した自分がいる。


「だって考えてもみてください? 普通は継承という形で移り変わる王位をクーデターで奪い取り、更には大の亜人嫌いで国に住んでいた亜人を追放、奴隷化、処刑するような人間を誰が支持しますか?」


「う~ん……狂人とか?」


  そんな人間が十数年も王様やってられるってのも凄いよな。


「よくこの国は今まで大丈夫だった「やっぱりそこは気になりますよねぇ?」う、うん」


  聞きたい? 聞きたいよね? という心の声が聞こえてきそうな勢いで迫ってきたシャロンに若干引き気味になってしまった。

  なんでも今から俺に説明する内容は、シャロンが独占で入手した情報らしい。


「この国にはですね、私達の違う世界からやって来た人間がいるんですよ」


「違う世界……異世界ってこt異世界!?」


  自分の言葉で思わず驚いてしまった。


「おぉ、その驚きを聞きたかったです!」


「そのところ詳しくお願い!」


  気を大きくしたのか「お安い御用ですっ」と弾んだ声で反応し、手に持っている本に魔力を籠めた。あれも魔導具(マジックアイテム)の一種なのだろう。


「えぇと、確かこの辺に……ありました。これです」


  差し出された本のページを覗くと、ビッシリと文字が敷き詰められていた。

  この世界の字の読み書きにまだ不慣れな俺からすると、あまり嬉しいものではない。


『簡潔に纏めますと「異国の服に未知の言語と規格外な技能(スキル)……噂に聞く『異世界転移者』じゃないですかやったぁ! ヽ(´∇`*)ノ」……と、書かれております』


(ル、ルシア? 本当にそう書かれてるの?)


  文字を代わりに読んでくれたルシアだったが、内容よりもルシアの雰囲気に衝撃を受けてしまった。

  今、ルシアが別の何かに見えた気がしたぞ……あんな声出たんだな。


『これでも不要な部分は相当数省きました……死んでいいですか?』


  死ぬのは駄目だけど休んでで良いよ。お疲れ様、本当に。

  どういう原理か熱を帯び始めたルシアを労い、教えてくれた文章の内容を思い出しながら、正直な感想をオブラートに包んでから言った。


「随分と個性的な文章なんだね……」


「こう書くと覚えやすくて良いんですよ。まぁこの時は実際、かなり興奮してましたしね」


  敢えてこんな文章で書いたというのは分かったが、


「それにしても異世界転移者……」


「私も、城にコッソリおじゃまさせてもらった時に偶然遭遇したんですよ。人間とは思えない複雑な言葉を喋ってる、黒い獣の革を生地にした服を着て不思議な黒い眼鏡を掛けていた人間に」


  と言って次のページを開き、その時に描いたというスケッチ絵を見せてもらった。


  革ジャンにサングラス……。確実に俺と同じ世界からきた人だわ、これ。


「この人物がいた部屋というのが王室だったんですよ。優遇されている、というよりかはもう一人の王みたいな感じでした」


  物凄い偉い部類の人なんだな。


「でも、仮にその人物が転移者だとして(絶対そうだろうけど)それがどうこの国と関係するの?」


「私が異世界転移者を発見した時期、この国は3度に渡って他国が仕掛けてきた戦争に勝利しているんですよ」


「……単純に軍事力があるからとかじゃなくて?」


「その戦争の一つをを私、実際に端の方で見てたんですよ」


  目を疑いましたよ、だって……。と一瞬溜めてからとんでもない事を口にした。


「だって……デイペッシュ側の戦闘兵は異世界人だけ(・・・・・・)だったんですよ?」


「……へ?」


  この世界へ転生して何度目になるだろうか? 俺は言葉を失ってしまった。

  ペラリ、と再びページを捲って俺に見せる。


「こんな感じの人が手に持つサイズの大砲と、人間の目では追えないスピードで飛ぶ何かを撃ち出す魔導具(マジックアイテム)を駆使して迫り来る兵士を一網打尽! 途中で小さめの大砲を【異次元収納】で取りだし、同じく小さめの弾を真上に射出したかと思ったら数キロに渡る大爆発が! みたいな感じで1対多の戦争が、小一時間で終わったんです」


  よく見ると、110mm個人携帯対戦車弾(LAM)と……八九式小銃かな? それをそれぞれ片手で持っている男が描かれていた。シャロンって絵、上手なんだな。

  ……え? 何で武器の名前が判ったかって? 昔からそういうのが好きだったからさ。


  しかし大爆発というのがよく分からない。小さい大砲を使って物を飛ばす、ということは迫撃砲の類いなのだろうが、そのサイズで数キロを吹き飛ばすような爆弾を飛ばす事なんて出来るのだろうか?


「爆発が収まった時には異世界転移者はいなくなってたので、これ以上は情報不足ですが」


「いや、もう十分わかった」


  俺以外にも前世の世界からきた人がいたという事が。

  まぁ俺みたいな(元だが)人間がこの世界に転生してるんだし、当然といえば当然か。


『――――。――――――、――』


「どういう成り行きかは知りませんが、異世界転移者という『力』をデイペッシュが持っているのは確かです」


「規格外な技能(スキル)ってのは?」


「あ、それの説明を忘れてましたね。彼はユニークで【兵器創造】という技能(スキル)を持っていました。直接【解析鑑定】を使ったので間違いありません」


  名前からして武器を作り出す能力かな? 多分この技能(スキル)で創った武器を使用したのだろう。


「デイペッシュの王は異世界転移者を使って、無理矢理国を治めているんですよ」


  シャロンの推測がとても現実味を帯びていて、思わずブルッと身震いしてしまった。


「関わりたくないなぁ」


  転移者の事は気になるけど、そんな一人で近代兵器を使って戦うなんて、危ない奴に決まってる。






  その頃


  デイペッシュ城の王室に男性が入ってきた。ファルを勧誘した男性その人である。

  男性は、豪華な料理をつまらなそうに食べている派手な身なりの男の前で(ひざまず)いた。彼が現王ナフール=デイペッシュであり、前王を殺害した張本人なのである。


「……陛下、近衛隊長ジャック=ヘロイスティオ、只今戻りました」


  下を向いていて王からは見えないが、彼の内情は怒りと憎しみで燃えていた。

  かつての王セイル=アシュトルスを幼い頃から知っていて、王となった彼を近衛隊長として支えていたジャックは、前王を殺めた現王……目の前の男に深い憎悪の念を抱えている。


「ん? なんだ貴様か。余は今忙しい、故に用件なら手短に話せ」


「(飯食ってるだけだろうが)先日御命令に預かりました『子供冒険者』についての件で御報告がございます」


  彼は怒りを前に出さない。感情的になって処刑された仲間を、前王の側近を見てきたから。


「ああそれか」


「……子供冒険者ですが、噂はどうやら事実らしく、この国では三指に入る実力者のザキという人物との戦闘に勝利。Bランク冒険者パーティー『竜滅』を無傷で圧倒し、更には「そんな事はよい」……」


「余が聞きたいのは、その子供冒険者とやらが余の配下となるか? という事だ。言われなければ分からんのか貴様は」


  彼は恥を承知で現王に仕えている。いずれこの(かたき)といえる存在を引きずり降ろす者が現れると信じて。


「……申し訳ございませんでした」


「で?」


「『悪いけど俺は冒険者を辞めるつもりも、王国で働くつもりも無い』とのことで、我々の戦力に引き込むのは難しそうです」


「ふん、王である余の呼び掛けに応じぬとは、やはり子供の様だな。物事を知らない」


  今はまだ耐えるべき、そう自身に言い聞かせて汚れ仕事を請け負ってきた。

  この王によって他の者が汚れないようにする為に。


「(どっちがだ)それで、如何致しましょうか?」


「決まっておる。その子供を連れて来るのだ」


「……御意(すまねぇな坊主)」


  彼は内心でファルに謝りながら部屋を後にした。

  全てはこの男に復讐するため。この国の寄生虫を取り除くため。





『……子供冒険者、か。面白そうじゃねぇか』


  王の背後からそんな声が響き、一人の男が姿を現す。何もない場所から……である。

  王は別段気にした風もなく男に話し掛ける。


「興味あるのか? ガイアよ」


『おう。アンタの一言で俺に殺される時のガキの顔がありありと目に浮かぶぜ』


  ま、そうじゃなくても、と続けるガイアという男は、獰猛な笑みを浮かべながらポツリと、


『明日やる『集落潰し』が楽しみで仕方ねぇのさ』



  悪夢が今、始まろうとしている。

オマケ




『……死んでいいですか?』



(ああついいつもの流れで言ってしまったなんて事をしてしまったんだ私は何が『やったぁ!』ですか何が!)


「熱っ!」



特定の感情が昂ると温度が変化するルシアさん。





「110mm個人携帯対戦車弾(LAM)と……八九式小銃かな? 」



個人的にはLAMよりもRPGの方が好きですね。





次回から新章です。

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